義妹と元婚約者の現在①
家名や名前が似ていて覚えづらいとご指摘があったため、ヴェリーヌ侯爵家からグレン侯爵家へ変更しています。
同じくダリアもローズへと変更しました。
翌日から学園に入るまでの約半年の期間にジークは学業・剣技・マナー全てを学び直す事となった。
リアムから指定されたのはSSクラス。それ以外なら必要ないとも告げられているため、少しの妥協も許されない。
そしてその合間には他国について言語や歴史を学ぶ講義も取り入れられた。
講義にはローズも呼ばれており、2人は顔合わせの時こそ緊張していたが、今ではミリヤを必ず守る同志として、白熱した議論を交わす仲になっていた。
そして残すところ学園に入学するまで1ヶ月という所まで迫ってきており、ミリヤも勉強に力が入る毎日を過ごしている。
今日も3人で勉学に励み、合間に休憩のお茶会をしていると、ローズが最近の義妹と元王太子について語り始めた。
「ミリヤ様は知りたくないと思いますが、例のご令嬢と元婚約者様についてお話してもいいでしょうか?」
今までは何があってもミリヤの耳にアリア達の噂を聞かせなかったリアムが、学園入学を目前に控え、ミリヤに伝える許可を出したのだろう。
(知識は宝よね…)
敵を知らねば対策も取れない。
ミリヤは「えぇ。教えてほしいわ」と頷いた。
「名前も本来なら出したくないですが、アリア様はグレン侯爵家と親しくしている家のお茶会へ参加しては、涙で周りを騙し嘘を風聴して回っているようです」
アリアがやりそうな事だと思う。
顔だけは美少女なアリアが涙ながらに訴えれば、信用する者も出てくるだろう。
「聞いた話だと、元王太子の誕生日パーティーでやらかしたんだろ?それでも信じる者がいるもんなのか?」
始めの内は気を張っていたジークも、公の場とこうした私的な場では話し方が変わり、良い意味でくだけた感じになってきた。
「あの場で醜態を晒したのはディアルガン様だけなので。逆に騙されていたのではないかとアリア様は同情される立場にいます」
(そういう駆け引き…あの子上手なのよね)
前世も上手く事を運ばれ、気付けばミリヤが悪者になっていた。
気付いた時には取り返しがつかない状態に持っていくのが、本当に上手な子なのだ。
「茶会に出ては、知らない間にお姉様を傷付けていた事を後悔している。会いたいけれど会ってもらえないと思うと辛い。ディアルガン様の事も例えあんな事が起きても、私は信じている…その他諸々をそれはそれは女優並みに涙ながらに話すらしいですわ」
「すごい女だな」
その一言に尽きる。
アリアが見たいのはミリヤの顔が絶望に染まるところであり、ミリヤを不幸のどん底に落とすまで攻撃を止めないだろう。
「それにしても…アリアはディアルガン様を切らなかったのね」
用済みになれば簡単に手放すアリアなため、意外だなと感じた。
(あの子の事だから、リディオン様に乗り換えると思っていたわ)
現在、王に最も近いのはリディオンと言われている。侯爵家のアリアなら身分でも申し分なく、すぐに行動に移すと思っていたのだが…。
ミリヤの疑問はローズがすぐに解消してくれた。
「グレン侯爵家は王妃様のご実家と仲が良いため、今更リディオン様の派閥にはいけません。流石のアリア様もグレン侯爵に反対されると分かっていて、リディオン様に近付けないようですわ。グレン侯爵家はディガルガン様をもう一度王太子にするしか、生き残れる可能性はございませんの」
例え泥舟と分かっていても、乗り続けるしかないのだろう。
ただ…あのアリアがそのままで終わるはずはないが。
「私は本当に何も知らずに過ごしていたのね」
改めて守られているのだと実感する。
「それがオリエーヌ公爵の願いでしたから。せめて学園に入るまでは心穏やかに過ごしてほしいと」
「お父様の優しさが嬉しいわ。でも…私も侮られないためには強くならなければいけないわね」
飛んでくる火の粉は己の手で振り落とす。
いつまでも守ってもらってばかりでは、アリアには勝てない事をミリヤは知っている。
「私やジーク様もいます。何があってもお守りしますわ」
ローズの言葉にジークも力強く頷いており、1人ではないと思える事がとても心強い。
「ありがとう。それにしても…アリアは厄介ね。私の知るあの子なら…グレン侯爵に知られないよう、水面下でリディオン様との接触を図ろうとすると思うわ。優先順位はディアルガン様を王にする事だとは思うけど」
ミリヤの言葉にローズの顔も険しくなる。
「探らせます」
アリアがそう簡単に尻尾を出すとは思えないが、せっかくのローズからの申し出だ。
少し悩んだ後、探るよう頼んだ。
「無理はしないようにしてちょうだい。少しでも異変があればすぐに撤退すること。それだけは守るように伝えてくれるかしら?」
「承知しました。家に戻り次第、すぐに手配します」
ミリヤは頷くと、アリアの話題からディアルガンへと話を変えた。




