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婚約破棄から半年、学園入学まで残り半年

婚約破棄から半年。学園入学までも半年になったある日。ミリヤはリアムに呼ばれ、執務室に来ていた。


「お父様。お呼びと聞き、参りました」


この半年。ディアルガンやアリアに茶会で会う事もなく、とても有意義な日々を送っていた。


「よく来たね。ミリヤ。急に呼び出してすまなかったね」


婚約破棄のパーティで、リアムが現オリエーヌ公爵と知れ渡ってから、リアムは忙しい日々を過ごしていたが、最近やっと落ち着いてきたようだ。

執務室も大量の紙地獄から解放されていて、鬼気迫った空気がなくなっている。


「お父様から呼ばれたら、何を優先しても来ますわ」


「それはそれは。嬉しい限りだね」


グレン侯爵家から救い出され半年ちょっと、ミリヤは順調にファザコンへと育っている。

誰であっても嫁にやりたくない父リアムと、誰のもとにも嫁に行きたくない娘ミリヤ。相思相愛なため、婚約破棄後、婚約の打診はくるものの、今のところ婚約が成立する気配はない。


(今回はついに婚約についてかと思ったけど……違うようね)


婚約打診の時に来る釣書もなく、ミリヤの気持ちも軽くなる。


「お父様。お話とは?」


「あぁ。あと半年でミリヤも王立学園に入学となるからね。歳の近い子から専属護衛を選ぼうと思うんだけど、誰がいいとか希望はあるかい?嫡男は無理だが、次男以下なら是非にと言ってきている家もある」


今は外出時などに公爵家の騎士が付き添ってくれているため、ミリヤ専属の護衛はいない。

公爵家令嬢にして、何もなければ公爵家を継ぐ身のミリヤ。専属護衛の座は、家を継がない者からしたら、喉から手が出るほど欲しい地位だろう。


(もしかしたら……も考えるでしょうね)


バルティナ王国は女性が家を継ぐこともできるため、ミリヤと結婚しても公爵家は継げないが、貴族として良い暮らしができる事は確約されている。


「専属護衛……ですか?」


「学園には屋敷から通えるから侍女はいらないが、学園での護衛は必要だからね」


言外に危害を加えてくる可能性の者がいると言いたいのだろう。どこぞの元王太子だったり、どこぞの元義妹だったり。


婚約破棄後、ミリヤが2人に会う事はなかった上に、噂すら耳に入らぬよう配慮もされていたが……学園に入れば嫌でも会ってしまう。


「学園ではローズが基本側にいてくれると思うが、男手がいる時もあるからね。ミリヤは護衛などついたら息苦しいかもしれないが、許しておくれ」


リアムがミリヤを思って決定した事だと分かっているから、例え息苦しくても我慢できる。


「承知致しました。ただ……今すぐに誰がいいと浮かんでくる方はいなくて……」


ローズは公爵家の分家であるアベル侯爵家の娘で最初に紹介された時はマナーも振る舞いも完璧過ぎて、少し気後れしてしまった。

けれど接してみればミリヤと一緒に水遊びやお菓子の盗み食いをしてくれるお茶目な所もあり、始めは信用することが怖かったミリヤも、今では一番の友達だと言えるほどに仲良くなっていた。


(ローズみたいな子だと良いけど……)


常に共に行動するなら、相性は大切である。

リアムがミリヤに対して嫌な振る舞いをする者を選ぶとは思えないが……ある程度自由にさせてくれる人が良かった。


できれば学園帰りに買い食いを許可してくれる人がいい。


ミリヤの思い悩む姿に、クスリと笑うとリアムは一枚のチラシを渡してくれた。


「あまり悩まなくてもいいよ。貴族が嫌なら屋敷の者の子から選んでもいい。とりあえずそんな話もあると思っておいて。それより、コレ」


チラシには今日のお昼から街で花祭りがあると書いてある。


「お父様!! 行っていいのですか?」


リアムが渡してきたと言うことはそう言うことだろう。

リアムはダメな時はミリヤの目にも触れぬよう処理している。


「ルークを護衛にする事が条件だけれどね。アンナも連れて、行っておいで」


「行きたいです!! ありがとうございます!」


前世を思い出す前も思い出した後も祭りに行った事はなく、アリアが楽しそうに出かけていくのを見送ってばかりだった。

そのたびアリアは「お姉様も一緒に行きませんか?」と行けないと分かっていても聞いてくるのだ。


(嫌なことまで思い出してしまったわ……)


「ルークからは離れないよう、日が暮れるまでには帰ってきなさい」


「ありがとうございます!! お父様、お土産買ってきますね!!」


リアムが目を細めミリヤを見る時は、母レティアを思い出している時。


「ティアもね。お土産買ってきますと言っては、勝手に屋敷の塀を乗り越え、祭りに行っていたよ」


リアムと出会い、母の話を聞くようになり、ミリヤの中の母像は音を立てて崩れていくばかりだが、リアムから聞く母の話はいつも楽しく、ミリヤを楽しませてくれる。


「あの屋敷の周りの塀をですか?」


屋敷の周りの塀は、ミリヤの身長の2倍はある。


「そう。あの塀を、行く時は木からつたって、帰りはルークやノア達の手を踏み台に帰ってきていてね。お土産がいつも少し潰れていたり、袋から滲み出てたりしてね」


懐かしいなと笑うリアムに、それはどうなのとツッコミたくなるが、リアムが幸せそうなので、何も言わないでおく。


「それは……怪我がなくて良かったです」


「私もそう思うよ。ミリヤ。私は君に我慢を強いたくない。行きたい所に行きたい時に行けば良い。もちろん屋敷の門からね」


木に登り塀を乗り越えるほどの運動能力はミリヤにはないため、門以外の選択肢はないが、リアムの基準が母によって大分歪められている事だけは分かった。


「はい。門から出て門から帰ってきます!」


「うん。行っておいで」


街に行くためワンピースに着替えると、ミリヤは屋敷の門を開けてもらい、門からきちんと出発した。

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