王家継承の秘密
その後話し合いはスムーズに進んだ。
ミリヤはグレン家から除籍し、新たにリアムの子としてオリエーヌ家の長女になる事になった。
「私は嬉しいのですが……おじ様の家族の方は……」
ミリヤとしては嬉しいが、いきなり現れたミリヤをリアムの家族は快く受け入れてくれるだろうかと不安がよぎる。
「心配しなくても良い。私はまだ婚姻を結んでいないし、婚約者もいない」
「訂正するならば、婚約者の方はいましたが、閣下のレティア様への重過ぎる愛に疲れて、婚約破棄されたが正しいです」
すかさずルークの訂正が入る。
(重過ぎる愛での婚約破棄とは……)
妹への愛さえ我慢すれば、公爵夫人の座も金も顔だけならハンサムなリアムも手に入ると言うのに……それを辞退させるほどの妹への愛とはと若干の引き気味になるミリヤ。
前公爵がグレン家に打診した契約はあながち間違っていなかったのかもしれない。
「本来なら口を挟んできそうな父も、私が結婚したら家督を譲れと言われるのを恐れたのか、何も言っては来なかったしね」
婚姻を機に一人前と判断され、家督を譲られる事も多い貴族社会。
祖父にとって、リアムが結婚願望がなかった事は安心材料だった事だろう……その後無理矢理当主の座を奪われたことを思えば、婚姻時にさっさと渡していた方がマシな老後生活は送れただろうが。
「ミリヤは安心して、私の子として過ごせば良いんだよ」
母の笑顔によく似たリアムの笑顔。
全てを包み込んでくれるような笑顔に、ミリヤはホッとすると同時に、一つの懸念材料を思い出す。
(前世の記憶……言った方がいいのかしら)
話した方が今後何かあった時に助けてもらえる確率は上がるが……いきなり前世の話をし始めたミリヤを頭のおかしい子と思われないか不安が襲う。
グレン家の者にはどんな風に思われようが気にしないが、優しく暖かい場所に連れてきてくれたリアム達に嫌われるのが怖かった。
不安と心細さが顔に浮かんでしまう。
「ミリヤ?どうしたんだい?」
「あの……あの………」
ミリヤがいなくなった事で、アリアがどんな行動にでるか分からない現状、話しておいた方が良いのは分かる……分かるのだが。
「私……」
言葉に詰まってしまう。
嫌われたくない。頭のおかしい子と思われ、追い出されたりしたら……温かい愛情を知る前なら割り切れた。けれど今はリアムの大きな愛を知ってしまった。
泣きそうなミリヤを落ち着けるように、リアムが優しく包み込んでくれる。
「ゆっくりで良い。大丈夫。何があっても私たちがミリヤを守るから」
視線を動かせば、アンナにルーク、ノアも優しく頷いてくれる。
(……信じよう……信じたいんだ……)
「私……生まれる前に、違う自分として生きた記憶があるんです。思い出したのは昨日なのですが……」
信じようと決めても、周りの反応が怖く下を向いてしまう。
だがミリヤの中での最悪の予想はあっさりと裏切られた。
「あぁ。だから助けを求めたんだね」
「私も何故ミリヤ様が今助けを求めたのか、不思議でしたが……そう言うことだったんですね」
「……信じてくれるの……?」
ミリヤ自身、自分の身に起きなければ信用するかも分からない信憑性に欠ける話を、簡単に信じてくれたリアムとアンナ。
ルーク達を見れば、こちらも疑う気配は全くなく、寧ろ思い出してくれて良かったなと喜んでさえいてくれた。
「私たちはミリヤが言うことなら、例え明日王国が滅びると言われても信じるよ。だから泣かないでおくれ」
涙がこぼれている事に、初めて気付くミリヤ。思った以上に緊張していた現れである。
「それよりも、その話を詳しく聞かせてほしい。ミリヤの記憶のおかげで君はここに来てくれた。という事は思い出さなければ、私はミリヤに会えなかったと言う事だろう?」
そこからミリヤは堰を切ったように前世でのアキからの仕打ち、思い出すまでのグレン家での生活、アキがアリアではないかと言う不安、全てをリアム達に話した。
リアム達は時折相槌は打つものの、ミリヤの話を遮る事なく最後まで聞いてくれた。
ミリヤが話し終えれば、誰の顔も怒りと侮蔑に満ちたものになっていて、うっかり見てしまったミリヤからひゃあという声が漏れたのは致し方ない事だっただろう。
「ミリヤ話してくれてありがとう。とりあえず結論だけ先に言うね」
リアムがにっこりと微笑むが、笑みに黒いものが滲んでいる。
「グレン家は潰そうね」
そんな簡単に侯爵家が潰れるかは別として、誰も異を唱えないところを見ると、満場一致で賛成のようだ。
「おじ様……それは……流石に」
無理ではと続けようとしたが、リアムの顔を見て言葉を飲み込む。
そこには般若の顔で笑う修羅がいた。
「親は、私の可愛い可愛いミリヤに虐待を働き、娘は前世では君を陥れた者。今世でもその可能性がある限り生かしておくわけにはいかないだろう?大丈夫。侯爵家一つ滅んだくらい、何も変わらないよ」
「そうですね。特にグレン家は現侯爵になってから借金も増え、自領での税もこれ以上引き上げられない程高額になっております。潰れて違う方が管理した方が領民のためにもなります」
グレン家はレティア亡き後もオリエーヌ家から援助を受けているのは、この場にいる誰もが知ることで、オリエーヌ家からの援助がなくなれば一気に財政は苦しくなるだろうことは簡単に予想できた。
「それにね、陛下は我が家かグレン家、どちらかを選択しなければならなくなった場合、確実に我が家を取る」
侯爵家より公爵家の方が家格が上だからかと考えたが、リアムの顔を見るとそれだけではないようで。
「何故言い切れるのですか?」
疑問をそのまま口にする。
「父に最前線に送られたと先程話しただろう?オリエーヌ家はバルティナ王国の中で唯一、争いを起こそうとする隣国と接する領なんだよ。今はそんな気も起きないだろうけど」
最後の一言が不穏であるが、それほどリアム達の力は強いと言う証明でもある。
「もし万が一私が隣国に寝返れば、バルティナ王国は一夜にして滅ぶ」
隣国アルティス帝国はバルティナ王国より巨大な国であり、常にどこかを侵略している国でもある。
先程の話から、バルティナ王国が現在侵略されていないのは、リアム達の力でねじ伏せてきたからなのだろう。
(確かに……どちらを選ぶか考えるまでもないわね……)
選択肢は一つしかない。
ミリヤはうんうんと頷くと、そこで一つ思い出した。
「私、ディアルガン様から婚約破棄されたのですが……」
オリエーヌ家に来たら、婚約続行になってしまうのではと不安が過る。
するとその場にいるリアム達から、思っていたのとは違う反応が返ってきた。
「ミリヤと婚約破棄すると言う事は、王太子の座を降りるのか?あの馬鹿王子は」
(……うん?王太子の座を降りるとは……?)
「降りてくれた方が今後楽ではありますね」
「あのぉ……何故王太子を降りる話になるのですか?」
アリアの話では彼女が王太子妃教育を引き継ぐと言っていた。恐らくだが、ディアルガンも王太子の座を降りる気はないはずだ。
「そういえばミリヤ達の年代にはまだ話してなかったね」
「親から教えられない限り、王家の後継者の話は15歳で学園に入った時まで伝わらないですからね」
王家の後継者になるためには、必要なものがある事をこの時初めて知る事になる。




