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私達はあれから応接室に集まっていた。
そして、皆がソファに座るなり、すぐモルガン伯爵令息が頭を下げてきたのだ。
「本当に申し訳ない。僕がきちんとレイダー伯爵令嬢を見られていなかったばかりに……」
そう言って申し訳なさそうに——と、私は首を横に振る。
「いいえ、それを仰るなら私も同罪になりますのでおきになさらず。何しろ王太子殿下がレイダー伯爵令嬢と会っていた事に気づけませんでしたので……」
こちらはそういうことに注意していたはずなのに気づけなかったのだから、むしろ、落ち度はこちらにあると思いながら。
つまりは私こそが……
頭を下げようとするとモルガン伯爵が慌てて言葉で止めてきたが。
「頭を下げるのだけはおやめ下さい。貴女がどれだけ大変な思いでお妃教育を受けていたのかはここにいる全員が理解しています。だから、どうかご自分だけは責めないでいて下さい」
まるで、私の心を読んでいるかのように。
思わず涙が出てきそうな優しい言葉を……
「……ありがとうございます」
ただ、私は何とか耐えると彼に尋ねたが。
「いつからなのですか?」
きっと、話し合いをしていたのだから、こちらよりは知っているだろうと。
そう考えているとやはり正解だったらしく、彼がすぐに答えてくれる。
「本人達が言うには、半年前に行われた教会への出資パーティーがきっかけということになりますね。確かに、あそこからボランティアに目覚めたと言ってレイダー伯爵令嬢は僕とはあまり会わなくなったので。しかも、徐々に会う回数も減っていって。まあ、僕達の婚約は領地経営の都合で結ばれたものでしたから、彼女には好きなようにすればと言っていたので気にはしていませんでしたが……」
わかりやすいほど、出会いのきっかけになってしまう状況を。
ただし、貴族じゃなく平民であったならの話しだけれど。本来なら、そういうことは学んでいるはずなので。
特に王太子殿下の立場なら。
いや、彼がしていなくてもきっと周りが……
「でも、良くお二人はバレずに会えましたね。従者や周りに人がいたはずなのに」
すると、その疑問に父が眉間に皺を寄せながら答えてくれる。
「レイダー伯爵や王太子殿下を操りたい貴族が介入したんだ」
もっとも、シンプルで納得できる答えを——と、私は腑に落ちる。
「なるほど、そうだったのですね」と呟き、真実の愛とやらだけでなかったことに少しだけ気持ちが楽になりながら。
何しろ、政治が絡んでいるなら私個人ではどうしよもないので。恋愛感情で動いてしまうような彼ならなおのこと。私達には仲間意識みたいなものはあっても恋愛感情はないので付け入る隙は沢山あっただろうから。
ただ、そうは言っても父には申し訳ない気持ちだったけれど。きっと、幻滅させてしまっただろうし……
不甲斐ない娘だと。
「リリーナが幼い頃から、ずっと頑張ってきた努力をあいつらめ……」
そう言って悔しげにテーブルを叩く父を見なければ——と、私は心底驚いてしまう。
将来、王妃になるはずだった私には莫大なお金が使われているのに、それが藻屑になったのだから、少なからずも怒ってると思ったので。
「すみません、お父様は私にがっかりされてるとばかりに……」
「そんな事は一度たりとも思った事はないが……まさか、私にそう思われていると思って修道院に行こうとしていたのか? それはすまなかった。私はいつも言葉足らずだな……」
そう言って父が項垂れた瞬間、その考えは消えてしまいも。
「ねっ、早まっちゃ駄目って言ったでしょう」
父の手を握りながら母がそう言ってきたら跡形もなく。
だから、兄が「まあ、これは普段ムスッとしてる態度の父上が悪いね。リリーナは気にする必要はないよ。それで、お二方の目的は他にあるのだろう?」
そう言ってモルガン伯爵とモルガン伯爵令息の方を向いたことで気持ちをすぐに切り替えたが。モルガン伯爵だけでなく、お二人で来るぐらいだから、きっと、先ほどとは別に大事な話があるのだろうと。
もしかしたら派閥争いの件とか。
「ええ、今回の件で双方、婚約者がいなくなりましたので、それでぜひ、レンブラント公爵令嬢に我が息子の婚約者になって頂きたいと」
モルガン伯爵がそう言ってきたことで予想は外れてしまったが。全く、想像していなかった方に——と、私はすぐに口を開く。
「私にですか?」
「ええ、あなたの様に聡明な方が、我が領地を息子と切り盛りして頂けたらどんなに素晴らしい事かと」
その言葉を聞き、嬉しさと共にすぐにモルガン伯爵家の領地の情報を思いだしも。
山と海に囲まれた自然豊かな場所で、特に茶葉と海産物に力を入れており、王都にも出荷していて領地経営は上手くいっていることを。
つまりは申し分ない縁談話しであると。文武両道、正義感も強く人当たりも良いと評判のモルガン伯爵令息が相手であるのならなお。
まあ、だからこそ、なぜレイダー伯爵令嬢はこの方じゃなく王太子殿下を選んだのだろう? そう疑問にも思ってしまったけれど。
「本当に急な話で大変申し訳ありません」
モルガン伯爵令息が申し訳なさそうに言ってきたらなおさら。言葉だけでなく態度からも彼の真摯さが伝わってくるので。
ひしひしと。
ただし、続けて「この非常識な話で貴女のことを更に傷つけてしまうか心配しています」
そう言ってきたことで首を傾げてもしまったけれど。
「えっ、なぜですか?」
「それは、あなたの心は今とても傷ついているのに、その日のうちにいきなり婚約してほしいなんて非常識だと思ってますので。けれども、王妃陛下から言われてしまって……」
彼の真意を理解しながも——と、私はすぐに口を開く。
「王妃陛下が仰ったのですか?」
頭の中が疑問だらけになって。
だって、彼女こそもっとも私に失望しているだろうから。
これからのことを考えれば。
「ええ、きっとレンブラント公爵令嬢は落ち込んで変な事を考えるだろうから、その前にあなたが婚約者になりなさいと。もちろん、耳を疑いましたよ。傷ついている人に付け入るような真似はしたくないと進言も。ただ、その考えができるなら大丈夫だから今すぐ後を追いなさいと言われまして……。ああ、だからといって、この話は断っていただいても結構ですから。ただ、これは王妃陛下から言われただけでなく、僕個人としても貴女が婚約者になってもらえればとても嬉しい、そう心から思っていることでもありますので」
まあ、彼からそう聞いたことで私は全容を理解すると同時にまた勘違いしていたことに気づいてしまったけれど。
ただし、父と違って王妃陛下の場合は何か含んでいそうだけれど……
そう考えながら、私はモルガン伯爵令息を一瞥する。
感情論でなく貴族視点で、この縁談を断る理由が見つからないと思いながら。
何しろ、王太子殿下やレイダー伯爵令嬢のように感情に流されて私は彼と婚約をするわけにはいかないので。
それは家族も——と、彼らを見ると皆、笑顔で頷いてくる。
「私は賛成だ。モルガン伯爵令息とは何度か会って仕事ぶりを見せてもらったが立派にこなしていたからね」
父がそう言うと母も。
「実を言うと何度かうちに来て相談を受けていたのよ。どう償えばいいかって。必要ないのに何度も頭を下げてこられて……」
「全く、誰かに爪の垢を飲ませてやりたいね。まあ、だから彼なら心配してないよ。それに領地経営も上手くいってるし、将来はぜひうちと提携して欲しいしね」
そして、兄も。
まあ、ただし兄は一番貴族らしい考え方での了承だけれど——と、私はモルガン伯爵令息に頷く。
「では、私で良ければよろしくお願いします」
「ありがとう、レンブラント公爵令嬢」
そして、二人して微笑み合いも。
新たな婚約に今度は明るい未来を期待をしながら。




