―７１― アレアトリオダンジョンの初回クリア報酬
偶然成功した、モンスターに追いかけられては別のモンスターと遭遇させて、お互いに戦わせるというのは、何度か試してみたところ意外と成功率が高いことがわかった。
モンスターは基本、人間を優先して攻撃するというのが世間一般の常識だが、一度でもモンスターが別のモンスターに、例え狙い通りでなかったとしても、攻撃をしてしまえば、攻撃対象が人間からモンスターに切り替わるらしい。
そんなわけで、僕は今もモンスターに追いかけられていた。
「グルゥウウウウウ！！」
後ろからは巨大爪狼が喉を震わせながら、追いかけてくる。
「グルゥ！！」
と、目の前にも巨大爪狼が現れる。
「〈回避〉」
２体の攻撃が交差する直前、〈回避〉を使う。すると、モンスターはお互いに長い爪をひっかき合うことになった。
あとは、２体のモンスターは僕のことを忘れて戦いを始める。
例え、同種のモンスターでも、戦いを始めるという事実に変わりはないようだ。
あとは、２体が弱り始めたのを見計らって、僕が攻撃する。
◇◇◇◇◇◇
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
◇◇◇◇◇◇
すると、２体分のレベルが僕に加算された。
「なんか申し訳なくなる戦法だな」
とはいえ、生きるか死ぬかの世界なので、やめるつもりはないけれど。
と、この調子で僕は奥へと進んでいった。
「やっと、着いたー」
息を吐きながら、僕はそう宣言していた。
目の前には、ボス部屋に続く扉があった。
途中、モンスター同士を戦わせる作戦で何体ものモンスターを倒したから、けっこう時間がかかってしまった。
おかげで、レベルは合計で１２もあがったけど。
ちょっと休憩をしたあと、僕はボスエリアに入る
◇◇◇◇◇◇
〈三首猟犬〉
討伐推奨レベル：８０
３つの頭を持った巨大な犬。それぞれの口からは属性の違うブレスを吐く。
◇◇◇◇◇◇
「「グォオオオオオオオオン！！」」
三首猟犬の三重に重なった鳴き声が耳をつんざく。
さぞ、倒すのは苦労するんだろうなぁ、とか思いつつ盾を構える。
まぁ、僕は倒すつもりは一切ないんだけど。
三首猟犬はそれぞれの口から、火、氷、雷、と三種類のブレスを放つため、それだけには気をつけつつ、うまく立ち回る。
そして、タイミングを見計らっては攻撃を受けた。
「〈回避〉！」
吹き飛ばされつつ、うまく壁抜けをするのに成功する。
「さて、お目当ての初回クリア報酬だ！」
と、宝箱の中を開ける。
目に入ったのは一冊の本。
これは目当ての魔導書な気がする！
◇◇◇◇◇◇
〈習得の書〉
スキル〈索敵〉を習得できる。
◇◇◇◇◇◇
あ、違った。
まぁ、悪くはないから、がっかりはしないけど。
今まで、初回クリア報酬といえば一つのダンジョンにつき、一種類と決まっていたが、このアレアトリオダンジョンに限ってはそうではない。
なんと、１０種類以上の初回クリア報酬の中からランダムで選ばれる。
そもそも初回でない通常のクリア報酬からして、このダンジョンは特殊だ。
ここのクリア報酬はレアリティという等級が存在し、ランクＳの報酬から、ランクＡ、ランクＢ、ランクＣ、ランクＤ、と５種類のランクに分かれている。
その中でもさらに、ランクＤだと２０種類以上の報酬があったりと、ランクごとにたくさんの報酬が含まれているわけだ。
この、たくさんあるクリア報酬の中から、ランダムで選ばれるわけだが、もちろんランクＤといった下のランクほど、選ばれる確率は高い。
だが、まれにランクＳの報酬も手に入るので、それを目当てに、このダンジョンを周回する冒険者は多い。
そして、初回に限り、絶対にランクＳの報酬が手に入るわけなのだ。
今手に入れた〈習得の書〉も、ランクＳの報酬だ。
そのランクＳの報酬の中には、僕がほしい魔導書も含まれている。
だから、当面の間は魔導書が手に入るまで、このダンジョンを何度も周回しようという魂胆だ。
ちなみに、手に入れた〈索敵〉が獲得できる〈習得の書〉は自分に使うことにした。
◆
「な、なんだ、これは……」
巨大爪狼や鎧ノ熊など、１０体以上の亡骸を換金所に持っていくと、当然受付の人に驚かれた。
そりゃ驚かれるよなぁ、と思いつつ、これをきっかけにまた噂をされたら、嫌だなぁ、とか思う。ある程度は割り切るしかないのだろう。
「ぼ、坊主が一人でこの数を討伐したのかい？」
「いえ、違います。僕は換金をお願いされただけで、実際に倒したのは僕ではありません」
さらりと嘘をつく。すると、受付の人「そりゃそうか」と納得した表情をしていた。
ちなみに、〈アイテムボックス〉から出し入れするところは見られたくなかったので、荷車を借りて、誰にも見られないところで荷車に亡骸をのせては換金所まで運んできたのだ。
「それじゃあ、今から計算するが、時間かかりそうだけど、大丈夫か？」
「はい、大丈夫です」
ちなみに、受け取った合計金額は２０万イェールを超えていた。
これは想像以上に稼ぐことができたみたいだ。
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