―07― 二度目の壁抜け
それから僕は一直線にボスの部屋へ向かった。
途中、何体もの狼と接敵したがどうせ倒せないことはわかっているので、全部無視して進む。
二時間走り続けて、ボスの部屋へと辿り着く。
「て、手が震えてきた……」
昨日は不可抗力でボスの部屋に入ってしまったが、今日は自分の意志で中に入るのだ。
ここは勇気を振り絞って扉を開ける。
「グォオオオオオオオッッッ!!」
と、ダンジョンボスの人狼が咆哮して僕のことを出迎えてくれる。
こ、怖い、と思いながら僕はナイフを構える。
しかし、狙って吹き飛ばされるのって想像以上に難しい。
ジャブのような弱い攻撃を受け止めても恐らく意味がない。吹き飛ばされるには全力で殴ってもらわなくては。
それに吹き飛ばされる方角も重要だ。
報酬エリアがつながっていない壁に投げ飛ばされ、結果その壁をすり抜けたらボスエリアの手前に戻されるなんてことになりそうだ。
それから僕は人狼を的確に翻弄するようにがんばって動いた。
昨日苦しかったのは疲労が溜まったからだ。まだ体力が余っているうちなら、人狼の攻撃はそう怖くはないはず!
イライラしているのかな?
人狼の表情を見て、なんとなくそう察する。さっきから僕は避ける一方で攻撃は一切していない。人狼側からすれば、僕がなめているから攻撃してこないんだと思っているのかもしれない。
なら、その苛立ちを利用させてもらおう。
「よしっ」
僕はそう口をし、人狼に対してバックステップをして距離をとる。
そして、ナイフを手元で器用に回転させて、こう口にした。
「か、かかってこい……!」
どうだろう? うまくいったかな?
「グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
人狼が明らかに普通じゃない雄叫びをあげる。
挑発は成功したようだ。
その成果もあって、人狼は僕に対して一直線に踊りかかる。
これだっ!
僕は確信する。
この攻撃を受け止めれば、僕は勢いよく壁に投げ飛ばされる。それに、背中はちゃんと報酬エリアとつながっている壁だ。
バリンッ、とナイフが砕ける音がする。
人狼の爪をナイフで受け止めたのだ。体で直接受けたら、その長い爪が体をえぐるためこれは必要な工程だ。
そして、砕かれたナイフごと僕の体は壁へと一直線に吹き飛ばされる――。
「〈回避〉!!」
壁にぶつかる一瞬手前、僕は叫んだ!
スッ、と体が壁に吸い込まれるような感触を味わう。
成功した。
僕の体は壁をすり抜けて報酬エリアへとたどり着いていた。
「やったぁ!」
僕は興奮のあまり両手を上に掲げていた。