―54― エピローグ
「別の人格に乗っ取られた人を治す方法ですか? いえ、私にそんなことを聞かれても……そんなの聞いたことがない症例ですし。えっと、〈賢者の石〉なら治せるのか? それはもちろん治せると思いますよ。なにせ、〈賢者の石〉は普遍医薬、つまりあらゆる病気を治すことができる霊薬ですからね。死んだ人を生き返らせることができるなんて噂もあるぐらいですし。えっ? 〈賢者の石〉の入手方法ですか? えっと、最上級未踏破ダンジョン、Xダンジョンの初回クリア報酬が〈賢者の石〉といわれていますけどね。えっ? なんで未踏破なのに、報酬がわかるんだって? はぁ、それは記録上は未踏破ですけど、伝説上では過去に一度、踏破されたことがあるといわれているからですよ。その際、冒険者は〈賢者の石〉を持ち帰ったと文献には残されているとか。とはいえ、曖昧な文献しか残ってないので、記録上では未踏破とされているわけです。ただ、歴史学者の間では一度踏破されたことも報酬が〈賢者の石〉であることも間違いないだろうってことらしいですけどね。だったら、未踏破ダンジョンと呼ぶのはおかしい気がしますけど、私は専門家ではないので、その辺の事情まではわかりませんが。あ、お礼ですか、そんな気にしなくても、これが私の仕事ですし。えっ、お金くれるんですか! だったら、遠慮なくいただきます。ありがとうございます!」
僕は冒険者ギルドの受付嬢に硬貨を渡していた。
「おい、もう行くよ」
と、僕は掲示板を見ている少女に声をかける。
「ちっ」
少女は舌打ちをしながらも、僕の後ろをついて来る。
結局、エレレートが気を失ったあと、目覚めたのは名称未定の方だった。エレレートと名称未定は顔は同じでも雰囲気がまったく異なるため、一目でそのことがわかってしまった。
「なぁ、どうすればエレレートに戻るんだ?」
「戻らない。この体の主人格は名称未定のほうだ。そもそも、あの人間にこの体を操れるほどの力が残っていたことが奇跡だろ」
僕の質問に彼女はこう答えた。
数日観察したが、やはりエレレートに目覚めることはなく、ずっと名称未定のままだった。
ならば、僕がやるべきことはエレレートに戻す方法を探すことだ。今わかっている方法は普遍医薬の〈賢者の石〉を使うこと。とはいえ、入手するなんて不可能に近いため、もっと簡単な方法があればいいのだけど。
もう一つ懸念にしていたのは名称未定が再び暴れないかどうかだった。〈不格好な巨人〉を造って、人類を殲滅すると宣言していたときのように、またなにか企むんじゃないかと警戒していたが、予想に反して彼女はそういった行動には移らなかった。
「なんで、なにもしないんだ?」
と、僕は何度か聞いたが、その度に「ちっ」と舌打ちするだけで質問には答えてくれなかった。
性格も以前と変わっているような気がするし、彼女の中でなにか変化があったのかもしれないが、それを僕が推し量る術はなかった。
最上級未踏破ダンジョンか。
さっき受付嬢から聞いたことを思い出していた。
噂では何度か聞いたことはあった。いわく全ての冒険者にとって、未踏破ダンジョンをクリアすることが夢なんだとか。
まぁ、僕は〈賢者の石〉さえ手に入れば問題ないのだが。
だが、手にするには自分がXダンジョンをクリアするしかないのだろう。もしくは壁抜けを使えば、クリアせずとも報酬だけを手にすることもできるかもしれないが。
「強くならなきゃな」
どっちにしろ、未踏破ダンジョンなんて、今の僕では届かない領域だ。その領域にたどり着くには、冒険者として最強になる必要があるだろう。
険しい道だな、と自分の目標に対して、そんなことを思う。
だが、やらないという選択肢はない。
なぜなら、妹のためなら僕は全てを尽くすつもりでいるのだから――。
第一章 ―完―
ここまで、お読みいたたぎありがとうございます。
第一章はこれにて完結です。
この物語において第一章は長いプロローグだと思っていて、やっと次の話から本題に入れるのかな、とか個人的に考えています。
大変恐縮ですが、下の評価欄にて『★★★★★』していただけると大変助かります。
今後の励みなりますので、ぜひよろしくお願いします。
すでに、評価したよって方はありがとうございます。おかげさで、週間総合ランキング1位を獲得できました。
さて、少し関係ないのですが、前作の『魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。』の書籍化が決定しました。
なぜ、そっちの作品が? という疑問はありますが、本当に喜ばしいことです。ありがとうございます。
続報はお待ちください。
では、第二章もよろしくお願いします。




