―42― 試し斬り!
翌日、僕は武器を買うために、プランタダンジョンに向かった。プランタダンジョンの初回クリア報酬は2万イェール分の硬貨。
今までも、僕は余裕があったらプランタダンジョンに行き初回クリア報酬を受け取っていた。やはりお金は貯めれるだけ、貯めておいたほうがいい。
「今日だけで6周できた」
プランタダンジョンを後にしながら、思ったことを口にする。
6周したので12万イェールも稼いだことになる。以前は、一日に3周が限界だったので、そのときに比べたらけっこう成長しているかも。
それからお金を持って、僕は直接武器屋に向かった。
「はい、まいどありー」
店員にそう言われながら、店を後にする。
手に持っているのは〈蟻の短剣〉。あの巨大蟻を素材にして作られた剣だ。値段は4万イェールで性能は攻撃力プラス95。
「うん、手に馴染むし短剣にして正解だった」
ずっとナイフを使っていたのと、得意な敏捷を活かせることを考えて短剣にしたのだ。
「まずは狼を相手に試すべきだよな」
素の攻撃力の23に武器の攻撃力を合わせて、今の僕の攻撃力は118だ。これだけ攻撃力があれば、狼なら問題なく倒せるはず。
「よぉ、アンリちゃん。なんで、こんなとこにいるんだよ」
「え……!」
道すがら、声をかけられる。
「お、おいっ、どこに行くんだよ!」
僕は全力で逃げた。声をかけてきたのはギジェルモの取り巻きの一人だった。
油断していた。〈水晶亀の小盾〉を奪われたとき以来、会っていなかったので少しだけ気が抜けていた。
「大丈夫だよね」
後ろを振り向き確認する。どうやら僕の速さについてこれなかったようで、うまく撒くことができたようだ。
「もっと用心する必要があるな」
と、自戒を込めて口にする。
〈水晶亀の小盾〉を奪われた日以来、また奪われても大した損害にならないよう高い武器を買うことを控えている。お金はまだあるが、4万イェールの〈蟻の短剣〉にしたのも、そういう理由だ。
◆
それから僕は新しく買った短剣の性能を確かめるため、ファッシルダンジョンに来ていた。
やっぱり試し斬りするなら、狼が一番ちょうどよい。
「ガルゥッ!」
飛びかかってくる狼に対し、僕は短剣を振りかざす。
「あれ?」
狼に傷を負わすことはできたが、倒れることはなかった。
前までなら、一撃で倒すことができたのに。
〈クリティカル率上昇〉が使えなくなってしまった弊害か。
「ダメージを与えられるだけマシだけどねっ!」
以前のダメージすら与えられなかった頃のことを思い出しながら、狼を斬り伏せる。
それから僕は狼を何体も倒していった。
「レベルが一向にあがりそうにない」
けっこうな数の狼を倒したのに、レベルがあがる報せがない。
そういえば、同じモンスターばかり倒しているとレベルが上がりにくくなるって話を聞いたことがあった。
「もう少し、レベルが高いダンジョンに向かうべきかな……」
そんなことを思いながら、僕はダンジョンを進む。
ふと、ボスの部屋の手前まで来ていることに気がつく。
ここに来ると必ず思い出してしまう。初めて、壁を抜けたときのことを。あのときは本当に絶望的な状況だった。
「今の僕なら倒せるのかな……」
ボスの部屋にいる人狼のことを頭に浮かべる。
以前は全く歯が立たなかったけど、今の僕はそうじゃない。それに倒せたらレベルが上がるのは確実だ。
「よしっ」
僕は気合いを入れて、ボスエリアの扉を自分の力で開けた。




