―41― 策略
この町――カラボゾの町は多くのダンジョンが密集するかのようにあるため、冒険者が多く集まっている。
冒険者にとって大事なのは、強さと金。
どちらも持っていないものは人間とは見られない。まるで、ゴミのように扱われる。例えば、アンリのように。
このカラボゾの町では、冒険者たちが力を持っているため、名目上の土地を治めている貴族はいるが、この町に限っては貴族の力は皆無に等しい。
「ガッハッハッハッハ!! やっぱダンジョン帰りの酒はうめぇえええなぁあああ!!」
そんなカラボゾの町の酒場でギジェルモとその一味は飲んだくれていた。
ギジェルモは荒くれ者の多い冒険者たちの間でも狂犬として知られている。
他の冒険者と喧嘩をするのは日常茶飯事。それでいて、治安の維持を担う衛兵には賄賂を送って見逃してもらうなど小賢しい一面もあった。
他の冒険者からもギジェルモは嫌われていたが、この町は強さと金が正義なため、文句を言えるものは一人としていなかった。
「よぉ、ギジェルモ。お前は相変わらずのようだな」
酒場で暴れているギジェルモを見て、そう接してくる男がいた。
「あん? これは珍しい。ワルデマールじゃねぇか」
ギジェルモに対等に接してくる冒険者は珍しい。だが、ワルデマールはレベルが100を超えてる最強とされている冒険者の一人だ。まだ、レベルが80にも届いていないギジェルモにとっては格上の存在。
「B級以上のダンジョンがないこの町にはもう用がないんじゃなかったのかぁ?」
ギジェルモはニタニタと笑いながら、格上であるはずのワルデマールにも臆せず突っかかる。
ギジェルモの言う通り、カラボゾの町にはC級までのダンジョンしかないため、上級とされる冒険者はこの町を出ていく傾向にある。
「最近、この町で隠しボスが見つかったみたいだからな。そいつ目当てで来たんだよ」
「隠しボス?」
ギジェルモは眉をひそめる。そんな話を聞いたことがなかった。
「親分、最近トランパダンジョンで隠しボスが見つかったみたいですよ。相当強いらしくて、挑んだ冒険者は全滅したらしいっすね」
ギジェルモの子分が補足するように口を挟む。
隠しボスが見つかったなんて、今初めて知った。そういえば、最近冒険者ギルドによっていないからな。知らなかったのはそのせいだろう。
「ときにギジェルモ、ベンノのせがれはどうなった?」
「ベンノのせがれ?」
「アンリだよ、アンリ。忘れたのか?」
あぁ、そういえばそんなやつがいたなぁ、とか思う。話題に出るまで忘れていた。
「知らねぇな。今頃、どこかで野垂れ死んでいるんじゃないのか?」
「どういうことだギジェルモ。俺は言ったよな。アンリをパーティーに入れて、うまく殺せ、と」
ワルデマールは『殺せ』の部分を周りに聞こえないよう耳打ちする。
そういえば、こいつに依頼されてアンリをパーティーに入れたんだった。なんでアンリのことを殺したがっているかは知らない。恐らく、アンリの父親と因縁があるらしいことまではなんとなく察しているが。
「あいつ、〈回避〉っていうスキルを持っているせいで上級のモンスターがいるダンジョンに潜らせても生還してくるんだよ。だから、邪魔くさくて追放してやった。どうせアンリに金を稼ぐ手段なんてないからな。今頃は盗みを働いた罪でブタ箱に入れられて野垂れ死んでいるだろうよ!」
そう言って、ギジェルモは「ガハハッ」と笑う。ギジェルモの取り巻き達も一緒になって笑った。
「おい、それはどういうことだ?」
だが、ワルデマールだけは不服だったようだ。
「お前、〈回避〉がなんで外れスキルと言われているか知っているか?」
「そりゃ、モンスターからよけたって倒せなきゃ意味ないからだろ」
質問の意図がよくわからなかったが、とりあえず頭に浮かんだことを口にする。
「違う。〈回避〉は扱うのが難しいスキルだからだよ」
「あん?」
そんなの初耳だ。〈回避〉はユニークスキルなんかと違い珍しいスキルでは決してない。だが、ギジェルモの周りでは持っているやつはいない。
「〈回避〉はあらゆるスキルの中でも珍しいカウンター型のスキルだ。敵に攻撃されたときじゃないと発動しないんだよ」
「それがどうしたっていうんだ?」
「タイミングがすごいシビアなんだよ。敵の攻撃が自分に当たる一瞬にしか、〈回避〉ってのは発動することができない。ちょっとでもタイミングを間違えれば、〈回避〉は発動せず敵の攻撃が当たってしまう。だから、お前の話は信じられん。いくらアンリが〈回避〉スキルを持っていたとしても、お前が行くようなダンジョンで生き残れるとは到底思えん」
そう言われてもギジェルモは眉をひそめるしかなった。現に、アンリは数々のモンスターに襲われたが〈回避〉を使って生き残っていた。
「俺も〈回避〉スキルを持っているからわかるんだよ。何度か使ってみたけど、100%発動させることなんてできなかった。当たったら致命傷になるかもしれない攻撃に対して、そんな博打みたいなスキル使えるはずがない」
「まぁ、ワルデマールの兄貴の言い分はわかったけどよ。アンリがこの町で生きていけるわけがねぇ。どうせ死んでいると思うぜ」
ギジェルモは興奮し始めたワルデマールをなだめるようにそう言う。
すると、ワルデマールは「ふんっ」と鼻を鳴らしながら硬貨をテーブルに置く。
「おら、追加の依頼料だ。本当にベンノのせがれが死んでいるか確かめてこい」
テーブルに置かれた硬貨がそれなりに多い額であることはすぐにわかった。
「あぁ、わかったよ。アンリが死んでいることを確かめるだけでいいんだろ」
ギジェルモはニタリと笑う。
「おら、野郎ども! 今夜はもっと飲んで食っていいぞぉおおお!!」
取り巻きたちに、ワルデマールからもらったお金を見せつけながら、そう叫ぶ。
すると、みな「うぉおおおおおおおおお!」と興奮し始めた。そして、深夜まで飲んで食っての大騒ぎを始めた。




