―30― コボルト狩り
次の日、僕は家を出ては早速ファッシルダンジョンに向かった。
目的は狼狩り。
別に狼をいじめたいという理由で行うわけじゃない。
スキルを検証をするために出向いたわけだ。
具体的なことをいうと、どのくらいの頻度でクリティカル攻撃が発生するのか確かめたかった。
それには試行回数がなにより大事。
最弱のモンスターである狼なら、たくさん狩れると思いファッシルダンジョンに来たわけだ。
◇◇◇◇◇◇
レベルが上がりました。
◇◇◇◇◇◇
ピコンとレベルがあがったことを知らせるメッセージが表示される。
目の前には狼の死体が。
すでに10体以上は狼を倒していたはず。レベル2になるときは狼を一体倒すだけで済んだのに、レベル3はこれだけの数を倒す必要があるとは。
やはりレベルが上がるにつれ、上がりづらくなるという話は確かなようだ。
「それよりも今、何回目の攻撃でクリティカルが発生したっけ?」
僕はメモ用紙とペンを取り出しながらうなる。
「確か、17回目だったはず」
おぼろな記憶を辿りながらそう口にする。
そして、メモに17と書く。
昔、学んだことがこんなことで役に立つとは、と数字を書きながらそんなことを思う。
父さんは僕を野蛮な冒険者にさせたくなかったのか、学校に通わせることに熱心だった。そのおかげで、最低限の文字や数字に関しては覚えがある。
冒険者になった今としては学校で学んだことはなんの役にも立たないだろうと思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。
「正直、10回ぐらいじゃよくわからないなー」
メモに書かれていた数字の一覧を見ていた。今まで、クリティカル攻撃が発生するまでにした攻撃回数を全部メモしていたのだ。
メモに書かれた数字はバラツキが大きく、連続でクリティカル攻撃が発生したこともあれば、50回攻撃してもクリティカル攻撃が発生しないこともあった。
「とりあえず回数をこなすしかないよね」
もっと回数をこなせば、より正確な確率を割り出せるはずだ。
そう思い、ファッシルダンジョンの奥に進んでいった。
◆
「気がつけば、ボスの部屋までたどり着いていた……」
ボスエリアに続く扉を見上げていた。
道中出くわした狼は全部狩ったはず。だけど、体力には余裕がある。
「流石に、ボスの部屋に入るのはやめておこう」
僕は体を反転させる。
今の僕では人狼はまだ倒せない。まぁ、壁抜けしてもいいのだが、今日はできるかぎり狼を倒したいので引き返すことにする。
ちなみに左手にはパンパンに膨らんだ素材袋があった。
中は狼を倒したことで手に入る魔石で埋まっていた。
当初は狼の毛皮や牙なんかも売ればお金になるため、解体して袋に詰めていたが途中から面倒になってしまい結局、一番換金率のいい魔石だけを取り出して回収することに。
それでも袋が魔石でいっぱいになってしまい入り切らなくなってしまったため、さっきから狼を倒しても魔石も取り出さないで放置している。
すでに狼を50体以上は倒していた。
レベルも4に上がっている。
「んー、体感としては30回に一回クリティカルが発生する感じかな」
メモに今さっき倒した狼にかかった攻撃回数を書いていた。
今までの傾向から鑑みるに、おおよそ30回に一回クリティカル攻撃が発生する感じだろう。
恐らくこれ以上狼を倒してもより正確な確率を割り出すことは難しい。
「この調子じゃ、狼より強いモンスターを相手にするのは難しいなぁ」
狼相手だから、クリティカルが出るまでナイフで何回も斬ることができるんだ。それに狼なら、クリティカルが出れば一撃で倒せる。
もっと強い魔物相手なら、いつ発生するかわからないクリティカル攻撃を何回も当てる必要があるわけだ。
正直、現実的じゃない。
やはり攻撃力を今以上にあげる必要がありそうだ。
もしくはクリティカルをもっと発生しやすくすれば、あるいは……。
「まだまだ課題が多いなー」
というが今日一日の感想だ。
ちなみに――
「はい、5千イェール」
「えっ」
大量の狼の魔石があったはず。
これだけものを換金すれば、いくらになるんだろうと僕はワクワクしていたのに……。
それが、たったの5千イェール!?
「あん? 坊主、なんか不満あんのか?」
「い、いえ、ありません……」
凄んできた換金所のおっさんに対し、僕は慌てて弁解する。それから僕は5千イェールを持って逃げるようにして換金所を後にした。
3万イェールで売れる旅立ちの剣と比較してみると、狼の魔石を売るのはめちゃくちゃ効率が悪いらしい。




