―18― 対決! 巨大女王蟻
僕は巨大女王蟻と対面していた。
ギルドの情報が正しいなら、一般的な冒険者にとって巨大女王蟻はあの黒の人喰鬼より弱いらしい。
けど、僕にとって巨大女王蟻のほうが厄介な可能性が高いんだよな。
僕の目的は、倒すことでなく壁抜け。
そう考えたとき、目の前の巨大女王蟻は非常に厄介な存在だ。
シュッッ!!
ギルドの情報通り、巨大女王蟻が糸を口から吐いた。
「うわっ」
僕は慌てて糸をかわす。
べったり、と糸が地面にくっついたのを見て、思わず身震いをしてしまう。
糸は非常に厄介な粘着性を持っていた。
もし、糸に絡まってしまえば僕は動けなくなる。そんなことになったら、確実に僕は死ぬ。
シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!
僕に対して巨大女王蟻は何度も口から糸を吐いた。
一度吐いた糸は地面へとへばりつき、そのまま残る。
もちろん、それを踏んでしまえば僕は動けなくなるため、地面にへばりついている糸にも警戒しなくてはならない。
だから、巨大女王蟻が口から糸を吐けば吐くほど、足場がなくなってきいき、より避けるのが困難になっていく。
「なんで、糸以外の攻撃をしてくれないんだよぅ!?」
思わず絶叫する。
ギルドの情報によれば、糸以外の攻撃もしてくれるって書いてあったのに!
僕が求めているのは、僕を壁に叩きつけてくれるような攻撃だ。
黒の人喰鬼なら、簡単に棍棒を振り回してくれた。だから、僕はそれに当たりにいけばよかった。
だが、巨大女王蟻は糸を吐くばかり。
このままだと、いつまで経っても壁に叩きつけられない。
「これじぁ、埒が明かない……っ」
そう思い、僕は「えいっ!」と巨大女王蟻に近づき、ナイフを突き刺す素振りをする。
すると、警戒してか巨大女王蟻は地面を滑るようにして、後ろに下がる。
ナイフは空を切る。
例えナイフが巨大女王蟻に当たったとしても、僕の低い攻撃力では一切ダメージを与えることができないため、攻撃そのものには意味がない。
とはいえ、わざわざナイフを当てようとしたのには意味がある。
巨大女王蟻はナイフを持って近づいた僕を見て、こう思うはずだ。
このまま糸を吐き続けていても、いつかは僕に近づかれてナイフで斬られる、と。まさか僕の自信満々にナイフの振るう姿を見て、実は、僕は一切ダメージを与えることができない、とは思わないだろう。
狙い通り、巨大女王蟻は糸を吐くのをやめて考える素振りをした。
そして、答えを出したのか。
行動パターンを変えた。
巨大女王蟻が尻のほうから、白い球体をポコポコと出し始めたのだ。
「なんだこれ……っ!?」
僕は唖然とする。
すると、白い球体はパキパキとヒビが入り、中からモンスターが産まれてきた。
「産卵かっ!」
そういえば、ギルドの情報にもそんなことが書いてあったことを思い出す。
子供蟻。
卵から産まれたのは、そう呼ばれるモンスターたちだ。通常の巨大蟻に比べると非常に小さいが、侮っていいわけではない。
なにより産まれた子供蟻の数が半端ない。
もちろん子供蟻から、僕を壁に叩きつけてくれるような攻撃は期待できない。
「余計ピンチになったじゃないかぁああああああ!」
ナイフによる攻撃が裏目に出た。
僕は自分のした行いを後悔していた。