―17― 新しいダンジョンに行く!
「エレレート、行ってくるね」
まだ昏睡状態の妹にそう口にして、僕は家を出た。
昨日までなら、パイラルダンジョンに直行だったが、今日はいつもと違う。
ダンジョンの情報を見るために僕は冒険者ギルドへと向かった。
やっぱり入りづらいな、ここ。
ギルドの扉を開けつつ、そんなことを思う。
冒険者は血の気の多い人達が多い。だから目を合わせるだけでも、僕は思わずビクッとしてしまう。
ギジェルモはいないよな。
この前みたいにギジェルモと遭遇したら、また殴られてしまうかもしれない。
だから、僕はギルド内を見回してギジェルモがいないかを確認する。そして、いないとわかれば僕はほっとしつつ、中へ踏み入った。
それから掲示板に入られている情報を見て回る。
掲示板には近隣のモンスターの出現報告や薬草の採取位置や荷馬車の護衛依頼などもあるが、それらをスルーしてダンジョンの情報のみに絞る。
こうして見ると、周回するのに適したダンジョンって少ないんだよな。
壁抜けするにはボスに吹き飛ばされなくてはいけない。しかし、僕を吹き飛ばしてくれそうなボスは意外と限られる。
例えば火蜥蜴なんかは火を吐いて攻撃するのが主なので、火蜥蜴がボスのダンジョンを周回することはできない。
んー、ファッシルダンジョンで〈旅立ちの剣〉を何度も入手するのが一番効率が良さそうなんだよなぁ。けど、〈旅立ちの剣〉を何度も換金するのは目立ってしまいそうなので、できれば避けたいが……。
「あ、ここならいいかも」
目に入ったダンジョンは僕の目的に合致していた。
◆
プランタダンジョン。
攻略の目安はレベル23の冒険者が6人のE級ダンジョン。
パイラルダンジョンよりも少々攻略が容易とされているダンジョンだ。
中に入ると、今までの無機質な壁が続くダンジョンと違い、洞穴なような構造になっていた。
「キシャァアアッッ」
「うわっ、びっくりしたぁ」
プランタダンジョンの多くを占めるモンスター、巨大蟻が目の前にいて、思わず驚いてしまう。
巨大蟻は鋼のような肌が特徴を持つモンスターだ。それもあって剣のような物理攻撃に強いため、倒すには火を放つといった魔法で倒す必要がある。
だから、このプランタダンジョンを攻略するには魔術師といった役職がいると心強い。
まぁ、僕には関係ないんだけど……。
地面を蹴って巨大蟻を飛び越しながら、そんなことを思う。
巨大蟻は背が低いので、飛び越してしまえば戦闘をせずに済む。もちろん背中を向ける僕を後ろから追いかけてはくるが、今の僕なら簡単に振り切ることができる。
これもパイラルダンジョンで敏捷をあげたおかげだ。
「うん、この調子なら道中は〈回避〉を使わなくても大丈夫そうだな」
感触を見て、そう思う。
〈回避〉を使わないで済むなら、MPを節約できる。できればMPは消費したくない。MP回復薬の値段がバカにならないからだ。
これなら人喰鬼ばかりのパイラルダンジョンよりはずっと進むのが楽そうだ。
そういうわけで僕はプランタダンジョンを軽快に進んでいった。
そして、気がつけばボスエリアの手前である。
「よしっ、がんばるぞ!」
気合いを入れるため、そう口にしながら扉を開けた。
「ギシャァアアッッッッッ!!!」
ボスは金切り声をあげて僕を出迎えてくれた。
巨大女王蟻。
それがプランタダンジョンのボス。
巨大女王蟻は巨大蟻を何倍にも大きくした図体をしていた。