―102― 開かずの扉
レイドイベントが始まるまで、残り一週間を切った。
始まるまでに、少しでも強くなろうと僕は今日もダンジョンを潜る。
潜るダンジョンは、この町で最難関のダンジョン、コンプレジョダンジョン。
「〈必絶ノ剣〉」
スキルを使って、15層にいる中ボス、飛竜を打ち倒すことに成功する。
◇◇◇◇◇◇
レベルが上がりました。
◇◇◇◇◇◇
「あれ……?」
以前、飛竜を倒したさいには、経験値ボーナスが手に入りレベルが3つも手に入ったが、今回はそうではなかった。
どうやら経験値ボーナスが手に入るのは、初回だけなんだろう。
さて、以前は中ボスを倒した先にある転移陣を使って、地上に出たが、今回はさらに下層へと進む。
今日の目的は以前、ロドリグさんに教えてもらった開かずの扉だ。
16層か17層のどこか、という曖昧な情報を頼りに僕はくまなく探していく。
途中、モンスターと遭遇した際にはレベルを上げるためにできるかぎり倒しながら。
「あっ、これだ」
ダンジョンの壁面に扉があるのを確かに見つけた。
その扉は壁と同色で、取っ手のようなへこみがあるだけで、事前に扉があることを聞いていなければ、見落としていたことだろう。
念の為、本当に開かないのか、試しに取っ手に手をかけてみる。
扉が動く気配が一切ない。
やはり、開けるにはなにかしらの条件があるんだろうけど、ここには扉があるだけで、ヒントのようなものはどこにも見当たらない。
これでは、いくら考えてもわかりようがなかった。
と、なれば、僕の壁抜けの出番だ。
いくら開かない扉があろうと、壁を抜けてしまえば関係ない。
だが、いくつか問題がある。
壁抜けにはいくつかの条件がある。
その条件として、僕の体がモンスターに吹き飛ばされる必要があるわけだ。
そう考えたとき、このダンジョンでそれを達成するのが非常に厳しいことがわかる。
例えば、このダンジョンの代表的なモンスターとして巨大芋虫がいるが、このモンスターは手足がないモンスターなため、吹き飛ばすのは得意ではない。
このモンスターは、噛み付いたり、毒を吐いて攻撃するのが得意な部類のモンスターだ。
他には、火蜥蜴は全身が燃えているため、触れるだけで大ダメージを受けてしまうし、火を吐く猟犬も火を吐くばかりで近接攻撃は滅多にしない。
あとは、水晶亀なんかもいるが、このモンスターは守ってばかりで攻撃をほとんどしてこないし。
というわけで、このダンジョンに限って、僕を吹き飛ばすのに向いていないモンスターばかりだ。
もし、吹き飛ばすのが得意なモンスターがいれば、扉の前までなんとか誘導して、吹き飛ばしてもらえば壁抜けができるんだけど。
さて、困ったぞ。
立ち止まって考えたところで、いい案が浮かぶわけではないし、ここはダンジョンを散策しながら考えよう。
まだ見たことないモンスターと出会える可能性もあるし。
◇◇◇◇◇◇
〈首なしラバ〉
討伐推奨レベル:82
首のないラバ。首の断面から炎が燃え上がり全身を包んでいる。
◇◇◇◇◇◇
早速、上層では出会わなかったモンスターと対峙できた。
だけど、このモンスターも炎に包まれており、吹き飛ばれされようと攻撃を受けた瞬間、炎によって焼かれてしまう。
炎のせいで近づくのも難しいモンスターだが、僕には氷属性の魔法、〈氷の槍〉があるため、なんとか倒すことに成功する。
他にも、何体かのモンスターと対峙したが、どれも僕を吹き飛ばしてくれるのに向いたモンスターではなかった。
結局、この日は開かずの扉に入ることは叶わなかった。




