第268話 初見殺し
黒丸師匠が、地面へと墜ちていく。
俺は身をひるがえして、急降下で黒丸師匠を追った。
「グッ!」
黒丸師匠は背中から地面に墜落した。
声が聞こえたので、生きている!
「黒丸師匠! 大丈夫ですか?」
「大丈夫である……。イツツである……。ここに一発食らったのである」
黒丸師匠は、額を指さした。
額に弾丸をくらって、意識が飛んだのだろう。
「他に怪我は?」
「大丈夫である。体のあちこちに痛みを感じたであるが、まあ、どうということはないのである」
黒丸師匠はドラゴニュートだ。
全身が硬い鱗に包まれているので、防御力が高い。
火縄銃の弾では、傷一つつかなかった。
「あの攻撃は何であるか?」
「たぶん、鉄砲です」
「あれが……。話に聞いていたテポであるか……」
黒丸師匠が立ち上がると、棒型の鉄砲を構えていた横陣の女隊長が声を上げた。
「退却!」
「「えっ!?」」
横陣の棒型の鉄砲を持った女の人たちは、撃ち終わるとさっさと退却していった。
俺と黒丸師匠は、あっさりと退却する女性たちを呆然と見送った。
「第二射は……、ないのであるか?」
「初見殺しに徹すると……。空から撃ち落としたので、そこで鉄砲隊の仕事は終わり……。次のお客さんが、来ていますよ」
鉄砲隊と入れ替わりに、後方にいた剣盾装備の歩兵部隊が突撃してきた。
初見殺しの鉄砲で敵の隊列を崩したところへ、歩兵が突撃する。
なかなか悪くない攻撃パターンだ。
ただ、悲しいかな。
ドラゴニュートの黒丸師匠に、鉄砲は無効だ。
なにせ、存在自体が、反則みたいな人だからな。
人族や獣人相手なら上手くいっただろう。
「さて、アンジェロ少年。敵は千ほどであるが――」
「ハイヨー!」
空からルーナ先生が降ってきた。
イセサッキに乗ったルーナ先生は、防壁の上から飛び降りたのだろう。
黒丸師匠の上に落下して、黒丸師匠がぺしゃんこになって、また気絶してしまった。
「行くぞ! マエバシ! タカサキ! イセサッキ! グンマーストリームアタックをかけるぞ!」
「「「グアア!」」」
「ちょっと! ルーナ先生!」
ルーナ先生は、突撃してきた歩兵部隊にグンマーストリームアタックをかけた。
突撃に対して、突撃で応戦した訳だ。
赤軍兵士は、きりもみ回転するグンマークロコダイルに、次々と吹き飛ばされて星になった。
*
「黒丸が墜とされただと!? 敵が強かったのか!? 古代竜が出たのか!?」
「いや、人族のおばさんとお姉さんである」
「?? 古代竜並に強いおばさん?」
「違うのである!」
ダメだ!
会話が、かみ合ってない!
戦いが終わって、ルーナ先生、黒丸師匠と反省会の最中だ。
今回ソ連の攻撃を振り返ってみると、この異世界では異質過ぎることがわかる。
・不意打ち攻撃
・テロ攻撃
・初見殺しの火縄銃
そこには、転生者の影が見える。
ヨシフ・スターリンだよな……。
同じ転生者でも、俺とは違う。
俺は自分の感じたことを二人に話した。
「今月末までに回答しなければ開戦である。連中は、期限の前に攻撃してきたのである」
「女子供を巻き込む自爆攻撃なんて、考えられない」
黒丸師匠もルーナ先生も、ソ連の攻撃方法に否定的だ。
だが――。
「有効であったのは確かです。こっちは多くの死傷者を出しました」
「むむ! 悔しいのである!」
「対策が必要。それより、アンジェロ。攻撃はここだけ?」
ルーナ先生の質問が、ひどく嫌な予感を俺に持たせた
「ルーナ先生。どういう意味です……?」
「私がソ連の将軍なら、他の拠点にも同時攻撃をかける」
「クソッ……!」
他拠点への同時攻撃は、俺がメロビクス王大国戦でとった戦法だ。
同じことを、ソ連がやらない訳がない。
「一旦、キャランフィールドへ戻りましょう! 情報を集めます!」




