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第148話 馬引けー! (涙目である)

「急げ! 急げ!」


 フォーワ辺境伯は、馬にまたがり街道を疾駆していた。

 後ろには家臣が十名ほど従う。


 全員、顔が必死である。


 フォーワ辺境伯は、戦争不参加のメロビクス王大国貴族だ。


 メロビクス王大国は、名前の通り面積が広い。

 それほど中央集権が進んでいるわけではなく、領地を持つ貴族は独自の判断で、今回の戦争への参加、不参加を決めている。


 今回の戦争はメロビクス王大国東部、地図でいうと右側に位置するフリージア王国との戦争だ。

 東部の貴族にとっては、新しい領地獲得のチャンスだが、地図の左側、西部の貴族にとっては旨味のない戦争である。


 南西部に領地を持つフォーワ辺境伯としては、旨味がない戦争には参加したくなかった。


 さらに、出兵するにしても、メロビクス王大国を横断しなければならない。


 さらに、さらに、フォーワ辺境伯領は西と南で、外国と国境を接している。

 軍事的な隙を作るわけにはいかない。


 そんな事情があるので王宮に支援金を贈り、出兵は行わなかったのだ。



『みんな、がんばれ~♪』



 ……と、フォーワ辺境伯が自分の領地でノンビリと過ごしていたところ、早馬が到着した。


「我が国の南部に、フリージア王国軍が現れたそうです!」


「え……?」


 フォーワ辺境伯は、地図を机に広げた。


(はて? 南部にフリージア王国軍? 南部はフリージア王国と国境を接しておらぬはずだが?)


 フォーワ辺境伯は地図を確認したが、メロビクス王大国は南部でフリージア王国と国境を接していない。


 常識的に考えれば、メロビクス王大国南部にフリージア王国軍が現れることはないのだ。


 だが、フリージア王国軍は、ケッテンクラートや六輪自動車タイレルを用いた高速移動で、赤獅子族と青狼族のテリトリーを横断し占拠した。


 実行した第二騎士団やケッテンクラートを造ったホレックたちが非常識なのである。


(多分、誤報だろう。盗賊団を敵と見間違えたのであろう)


 フォーワ辺境伯は、早馬の報告を誤報と思い込みぐっすりと眠った。



 ――それから数日後。


 また、早馬が到着した。


「我が国の南部の貴族家領地が、次々と占領されています!」


「えっ!?」


「敵はフリージア王国第二騎士団!」


 フォーワ辺境伯は、至急家臣を呼び寄せて協議を行った。


「これは……どういうことであろうか?」


 混乱するフォーワ辺境伯。

 家臣たちも混乱していた。


「やはり、何かの間違いでは?」

「いや、しかし、早馬が二回……」

「敵の欺瞞工作ではあるまいか?」


 結局、情報収集を密に行う事になった。


 フォーワ辺境伯は、なかなか寝付くことが出来なかった。



 ――それから、また、数日後。


 また、また、早馬が到着した。


「我が国の南部にフリージア王国軍の新手一万が現れました!」


「ええっ!」


 一万と聞いて、フォーワ辺境伯は顔面蒼白になった。

 家臣の一人は事態が飲み込めずに、不用意に言葉を発する。


「辺境伯様……これは一体? 我が国がフリージア王国に攻め入ったはずでは?」


「馬鹿者! これは逆侵攻だ!」


「ぎゃ、逆侵攻!?」


「どうやって来たのかは知らないが、フリージア王国の連中は南部に橋頭堡を築いたのだ! さらに、一万の軍勢ということは、本格的な侵攻であろう!」


「そ、それは、一大事!」


「馬引けー!」


 フォーワ辺境伯は、馬にまたがり城を飛び出した。

 家臣たちが慌てて後に続く。


 フォーワ辺境伯は、フリージア王国軍と一戦交える気はさらさらない。


 自分の領地や自派閥の貴族家領地にフリージア王国軍が攻め込まないように和平交渉を行おうとしたのだ。


 馬を乗り継ぎ街道を走っていると、新しい情報を抱えた早馬と出会う。

 早馬からの情報では、フリージア王国軍は北上をしているようだ。


(西には来ないか? 西に興味がないなら、交渉の余地はある!)


 フォーワ辺境伯一行は、グラント川を渡し船で渡河した所で、フリージア王国軍と出会った。

 グラント川近くにいたフリージア王国軍分隊の指揮官は、フォーワ辺境伯に告げる。


「責任者ですか? それならルシアン伯爵とコーゼン男爵ですね。かなり先へ進んでいますよ」


「どちらへ向かわれた?」


「北です。今は、シメイ街道の入り口辺りにいると思います」


 フォーワ辺境伯は、持参した地図を分隊の指揮官に見せた。

 指揮官が指さす箇所を確認して、フォーワ辺境伯は唸る。


(もう、こんなに北上しているのか!)


 フリージア王国軍の進撃速度に舌を巻いた。


 分隊の指揮官に通行許可書を書いてもらい、フォーワ辺境伯一行は先を急いだ。

 そして、シメイ街道のメロビクス王大国側の入り口で、フリージア王国軍本体に追いついた。


「この軍は一体……」


 そこには、第二騎士団とフリージア王国アンジェロ派貴族軍が野営をしていた。


 ケッテンクラートや六輪自動車タイレルが走り、異世界飛行機グースが離発着を行う光景を、フォーワ辺境伯一行は大きな衝撃を受けた。


「辺境伯様!」


「お、落ち着け! そ、そう言えば、先の戦争で空飛ぶ魔道具があったと噂が……」


「聞いたことがあります! そうか、あれが空飛ぶ魔道具ですか……。それでは、あの馬がないのに走っている馬車は?」


「私に聞くな!」


 会談を行う天幕まで案内される間に、フォーワ辺境伯一行は、フリージア王国軍をつぶさに観察していた。


(空飛ぶ魔道具だけでなく、攻撃用の魔道具も複数ある……。食料も充実しておる……)


 野営地であるにもかかわらず、スープや肉料理が兵士たちにたっぷりと振る舞われていた。


(補給も万全という訳か……。ならば、彼らの侵攻はまだ続く……)


 フォーワ辺境伯は、気合いを入れて会談に臨んだ。



 ――一時間後。


 フォーワ辺境伯とフリージア王国軍代表ルシアン伯爵、コーゼン男爵との会談は無事終了した。



 ・フォーワ辺境伯とフォーワ辺境伯派閥の貴族は、フリージア王国軍と争わない。


 ・フリージア王国軍は、フォーワ辺境伯とフォーワ辺境伯派閥の貴族領地を攻撃しない。


 ・フォーワ辺境伯は、商人を通じて食料をフリージア王国軍に秘密裏に販売する。



 合意内容にフォーワ辺境伯は満足し、領地の安全を確保しホッとしていた。


 その背中にコーゼン男爵が、冷や水を浴びせた。


「念のために申し上げます。アンジェロ王子を裏切ると、ああなりますじゃ」


 コーゼン男爵が指さす先では、メロビクス王大国貴族が処刑をされている最中だった。


 戦争になっても、貴族が処刑されることは滅多にない。

 そのタブーを破る行為に、フォーワ辺境伯の足が震えた。


「……」


「フォーワ辺境伯は、機を見るに敏なお人であろうかと……。見誤ることがないよう、この光景をゆめゆめお忘れなきよう……」


「ご……ご安心……を……」


 フォーワ辺境伯は、無事に領地に帰った。

 しかし、コーゼン男爵を思い出し、なかなか寝付けなかった。


 こうして、いくつかのメロビクス王大国貴族家が、秘密裏にフリージア王国軍と和平を結んだ。

 後背の安全を確保したフリージア王国軍は、メロビクス王大国への侵攻を深めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] これ、なんてモンゴル帝国? 機動力といい、統治方法といい、ユーラシアを席巻した青き狼を彷彿とさせるなあ。
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