少女と幼馴染とハンターギルド
一応一章の着地地点を目指して書いてはいるのですがどうにも文字数が増加傾向にある…
リンとアリスは特に道中何事もなくハンターギルドについていた。
「改めてみると本当大きいよね」
「村じゃこんな大きい建物無かったもんね」
3階建ての建物を見上げながらリンとアリスが会話を交わす。
「ここで話していてもしょうがないし中に入りましょ」
「なんだか緊張する…」
「ガラの悪い人もいるけどとりあえず私の傍に居れば大丈夫だよ」
アリスはそういうと扉を開ける。
カランコロン、と扉上部に付いている鈴が鳴りハンターギルド内に来店を知らせる。
1階の受付兼食事場は昼間と言うこともあり多数の客で賑わっておりあちこちから様々な会話が音となって聞こえてくる。
扉に近い席に座っていた何人かは来店したリンとアリスの方を見る。
「お?アリスじゃねぇか!!!」
扉の近くに座っていた程よく筋肉が付き、引き締まった体をしている茶髪の男がアリスに話しかけてきた。運動により鍛えられた身体は無駄な肥大化はしておらず使うための筋肉は洗礼された強さすら感じる。
「ダントルさん!お久しぶりです!」
「おう!」
アリスとダントルと呼ばれた男はガッチリと握手を交わす。
そして、握手したまま肘を机に付ける。その状態で制止すると周りに見物客が集まり始める。何故人が集まってくるのか分からないリンは困惑と怯えた表情を浮かべながらアリスの近くによる。
「い、一体何してるの?」
困惑のあまりリンはアリスの肩を叩き問いかける。
アリスは顔だけリンの方に振り向くと
「ハンターたちの正式な決闘…『腕比べ』だよ」
「う、『腕比べ』?」
『腕比べ』—―古くはハンターギルド設立者であるマコト・タイラが制定したハンター同士のいざこざを収めるために定めたルールだ。設立当初あれくれ者が多くギルド内で流血沙汰が絶えなかった。そこで初代統括ギルドリーダーであるマコトが、自身の故郷にある力比べの方法それをアレンジしたものだ。ルールは腕力+魔法による力比べといったもので直接的妨害、外野からの妨害以外は何でもありだ。古くはいざこざを収めるために使われていたが最近ではお互い何かしらをかけ力比べをすることに使われている。
「ま、こんな感じだな」
「あ、ありがとうございます。おじさん」
「おじさん…俺ももうそんな歳か…」
近くにいたハンターの男がリンに解説してくれたがおじさんと言われたことに並々ならぬショックを受けていたが、それはまぁ関係ないことだろう。
「掛け金は?」
「私が勝ったら私とリンのご飯代」
「なら俺が勝ったら俺が昼飲み食いした分だ」
「成立だね」
掛け金が決まったところで二人が手を組んでいるところにギャラリーの中から出てきた男が手を添える。
「合図は俺がやろう、準備はいいか?」
「私は大丈夫」
「俺も問題ねぇ」
緊張感が高まる。見物客は息を潜め周りに見えない糸が着実に張り進められていく。
「アリス…」
リンは小さく呟く。それをアリスは聞き逃さず振り返り大丈夫と言わんばかりに微笑む。
「あの嬢ちゃんはアリスの知り合いか?」
「うん、私の幼馴染。名前はリン、かわいいでしょ?」
「なるほどな、かっこいいところ見せたいわけだ…」
「そゆこと」
「二人ともいくぜ…はじめ!!!」
掛け声がかかった瞬間、ダントルの腕が盛り上がる。力こぶが浮かび上がり一目見て尋常じゃない力が加えられている。肘が置かれている机がミシミシと音を立てる。今にも机が破壊されそうだ。しかし、それでなおアリスの細腕とダントルの剛腕は均衡を保っていた。そう、吊り合っているのだ。全く微動だにせずその場に静止している。
片や鬼の様な形相で、片や余裕そうな笑みを浮かべ。
もちろん、余裕そうな笑みを浮かべているのはアリスの方だった。
「ぐぐ…ぬぉお…」
「弱い者いじめしてるみたいでかっこ悪いから決めるね」
アリスが軽く息を吸うと短く息を吐き右手に一気に力を込めた。
「はぁああ!!!」
「ぉお゛あ゛ああああ!!!?」
ズダァンッ!と豪快な音が響きダントルの右腕が机に叩きつけられる。
見物客が盛り上がり悔しそうな客が笑みを浮かべる客にお金を払っている。どうやら後ろでは賭け事が行われていたようだ。
「いってぇ…」
「すいません!ダントルさん、強くしすぎましたか?」
「アリスに心配されるほどやわじゃねぇよ…ちくしょう、今回も俺の負けかぁ!ほれ、奢ってやるから席に付け席に!」
ダントルがそう言うと見物客が散り、2人掛け用の席が空く。
「ありがとうございまーす!」
「すいません、僕まで…」
「構やしねぇよ、『腕比べ』で負けたら筋を通す、それがハンターってもんだ!」
アリスはお礼を言いながら席に座り、倣うようにリンも謝罪しながら席に着く。
笑いながら構わないとダントルが言うと店員を呼ぶ。
すぐに給仕の服を着た女性がニコニコしながら歩いてくる。
「はーい、ダントルさんまた負けちゃいましたね」
「うっせ!アリスとリンちゃんの分の食事代俺にツケといてくれ」
「わかりました!」
それだけ言うとダントルは受付の方に去っていった。
「シアちゃん久しぶり!」
アリスが水色の髪をしたちょっと背の高い快活な女性に気軽な挨拶をする。
「アリスちゃん久しぶり!そっちの…リンちゃんだっけ?は初めましてだね、私はシアルリア。ここのギルドで受付女兼給仕をやってるんだよ!気軽にシアお姉ちゃんって呼んでね!」
シアルリアは腰を引き顔を前に出して横向きピース。更にウィンクをバッチリと決める。妙に様になっていることから普段からこの仕草をしているであろうことが予測される。
「はい、よろしくお願いします。シアさん」
「うぅ、完全に聞かなかったことにされた…だけど、リンちゃんはかわゆいねー。お姉さんサービスしちゃうよ?」
リンにポーズと発言を聞か無かったことの様に無視され、シアルリアはシクシクと悲しそうな声を上げたかと思えば急に元気になりリンのことを可愛いと褒める。なんとも、感情の上下が激しく気持ちの切り替えが早い。
「お姉さんって言ってるけど歳ほとんど変わらないじゃない、私たち」
「なにおー!私の方が一応2歳年上なんだぞ!」
威嚇するように両手を上げるシアルリアはどう見てもリン達よりも年上とは思えない。だからこそなのだろう、アリスとシアルリアはお互い気を遣わずに自然体で話している。
「それよりも!シアちゃん、注文いい?」
「それよりもって…うー、まぁいっか!はいはーい!ご注文は何にしましょうか?お嬢様?」
「いや、お嬢様じゃないし」
「気分気分、ほらいいから何にする?今日はお肉もお魚もいいものが仕入れられたからどっちもおすすめだよ!」
シアルリアはエプロンの裏側から料理が書かれている木のボードを取り出す。そこには何種類かお昼のメニューが書かれており、肉と魚料理に本日のおススメと書かれている。
「私はガッツリ食べたい気分だからお肉かな!量は肉増量で!リンはどうする?」
「僕は食が細いし今日はお魚の気分だからお魚で」
「よしじゃあ、後は付け合わせでパンもお願い!」
「はーい!肉盛り定食肉増量に魚定食と付け合わせにパンね。リンちゃんは知らないと思うから言っておくと、付け合わせのパンは一料理に2個まで付いてくるよ、食べきれなかったら持ち帰れるからその時は給仕の誰かに声をかけてね!」
そう言うと、シアルリアはスキップしながらカウンターの方に消えていく。
リンが食が細いと言ったのを聞き逃さず、食べられなかった分は持ち帰れるから無理して食べる必要はないと暗に言える細かいところまで気の利いた接客だ。
「シアさんって本当はできる人?」
「間違いなくそうだね。まぁ、素でやってる部分もあるとは思うけど気の配れるいい人だよ」
リンとアリスは何気に失礼な事を言いながら、料理が来るまでの間しばし会話に花を咲かせていた。
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