少女と幼馴染と王都到着
のることのること。
日常の何気ない風景の描写もどんどん書いていきたい。
馬車での一件から4日が経ちリンとアリスは順調に王都への旅の過程を消化していた。道中魔物と遭遇することも無く至って平和な旅路だったことは運がよかったというべきか。
という訳で今は王都から西側に広がる森沿いの街道を進んでいた。
まだ王都は見えていないが、森越しの北方向に背の高い山脈が見えるところからもうすぐ王都の城壁が見えてくるだろう。
「リーン、そろそろ城壁が見えてくると思うよ?」
「ん…ふわぁぁあああ…」
「よく寝てたね」
「…アリス…きもちぃ…」
「寝ぼけてるリンちゃんもかわいいねー」
馬車に乗ってただけとはいえ連日の移動もあり疲れの溜まっていたリンは、スライムクッションの柔らかさとアリスの腕の中という安心感で眠っていた。
王都付近になったのでリンを起こしたが、どうやら寝ぼけているようでアリスの肩に頭をぐりぐりと押し付けていた。
暫くすると完全に覚醒したのかリン自身何をしていたのか自覚し少し顔を赤らめる。
「も、もう起きたから腕離して///」
「揺れると危ないからね、支えておくよ。リンの可愛い顔も見たいし」
「もう///」
リンは握り拳を作り軽くアリスを小突く。
「あはは」
「むー」
「ほら、そろそろ王都の壁が見えてくるよ」
アリスは馬車のカーテンをずらし外が見えるようにする。
アリスにずらしてもらった隙間からリンが覗きこむと木々の切れ間から石でできた壁が見えてきた。
「…すっごい…」
「だよね、私も初めて見たときこんな高い壁を作れるんだって思ったもん」
石でできた壁は高く、木々が邪魔で上までは見えないがそれでもかなりの高さがあることがわかる。一体どうやって作ったのか、材料はどんな石を使っているのか、知的好奇心が刺激されたリンはキラキラした瞳で街壁みて感嘆のため息を漏らす。
「おーい、嬢ちゃんたち。そろそろ着くから荷物をまとめときなー」
先頭で馬車を操っているおじさんから王都に着くと声をかけられる。
「わかりましたー!じゃあ、リンスライムクッション片付けるから返して―」
「わかったーまた貸してね」
「いいよー、王都に着いて落ち着いたらリンのも買おうね」
「うん」
リンとアリスは他愛のない話をしながらそれぞれの荷物をまとめる。といっても、出していたのはスライムクッションと軽食や水筒ぐらいなものであっという間に片付け終える。
もともと、衣服以外は王都に着いてから揃える予定になっていたのでリンの荷物は殆どない。逆にアリスは剣や槍等の武器を幾つか持っているのでアリスの方が荷物が多いぐらいだ。
「いよいよ王都だね」
「王都に着いたらどうするの?」
「住居を探して必要なものを揃えるかな。前は寮に住んでたから生活用品は一通り揃ってたけど、もう学生じゃないから寮は使えないしね」
「なるほど…だとするとシーツとか敷布団とかいるね」
「だね、昼前には王都に着くし先に物件を物色して、その後お昼食べてリンとデートだね」
「僕、全然お金持ってないよ?」
「私が出すからいいよ、元々そのつもりだったし」
「でも…」
そう言うと、アリスがリンの唇に指を当て続きの言葉が出るのを止める。
「じゃあ、リンが王都で仕事が見つかるまでは私が養う。仕事が見つかったら二人で頑張って生活する。それでいい?」
「…アリスがそれでいいならいいけど、僕あんまりお荷物になりたくないよ?」
そんな事を言われ、アリスは感極まったのかリンの頭を抱きかかえる。
「うわ、アリス!何するの!?」
「リンはいい子だよね」
「…アリス?」
「私はリンに何度も助けられたんだよ?リンのことをお荷物なんて思うはずないじゃないか…それに、これは私なりのお礼なんだよ?素直に受け取ってよ」
「アリス…うん、ちょっとの間だけどよろしくね」
「えー、一生養ってもいいんだよ?三食昼寝間食首輪付きで!」
「待って、それは養うっていうより飼ってる。僕はペットか奴隷なの?」
「リンが、私の奴隷…ちょっといいかも」
「全然よくないよ!!?」
「冗談だよ~。でも、ほんとに一生養ってあげてもいいとは思ってるんだよ?」
「迷惑かけるから僕もしっかり仕事探すよ」
そんな感じの会話を続けて30分が経過した。
森の横を走っていた街道はすっかり草原に代わっており、王都の壁がはっきりと視界に映るようになっていた。
「…すごい大きい」
一体どれぐらいの大きさなのだろうか…少なく見積もっても平屋の建物を縦に5個積んだよりも高い。よく見れば壁のあちこちに窓が設けられており、魔物などの襲撃があった場合その窓から弓や魔法等の遠距離攻撃を打ち込んで撃退するようになってるんだろう。高すぎて上の方はよく見えないが、黒い砲身が並んでいるところを見ると外壁の上に大砲でも置いてあるのだろう。
壁に沿って進むと王都に入るための門が見えてくる。
検問に王都を守る門番の兵士たちが何人かおり、馬車に乗った人と軽く一言二言話すと門の中に通している。二十数組程門の前で入場待ちをしているがこの調子ならすぐに入場することができるだろう。
20分程するとリンたちの乗った馬車の順番が回ってきた。
馬車の業者と門番が挨拶を交わす。
「お勤めご苦労様です」
「無事なようで何よりです。今回はどの様な用件で王都に?」
「お客さんの送迎ですね」
「馬車の中を拝見しても?」
「どうぞ」
門番と馬車の業者が話を得ると門番が馬車の中を覗き込む。
「おや、アリスちゃんじゃないか。帰ってきたのか!」
「ケイアスさんお久しぶりです」
「そっちのお嬢ちゃんは見ない顔だな」
「私の幼馴染のリンです」
「あー、あの言っていた幼馴染か…俺はケイアス。王都で門番をしているものだ」
「リンです。よろしくお願いします、ケイアスさん」
「おう!…よし、いいだろ行ってよし」
門番のケイアスが声をかけると馬車の業者が頭を下げ馬車を発進させる。
「さっきのケイアスさんはハンター活動してるとき毎回あってたんだよね、3年もやってると顔も覚えちゃうよね」
アリスがそう呟く。
3年間で何があったか大まかな内容は聞いたが詳しく聞いてない分を今度聞こうと思ったリンだった。
「嬢ちゃんたち、そろそろ馬車停に着くから準備しといてくれ」
「わかりました!」
業者に声をかけられ、リンとアリスは床に置いていた手荷物を手に取る。リンとアリスの洋服が入った少し大きめのバックパックはアリスが持っているためリンの手荷物は水筒や携帯食料ぐらいだ。
「重くない?」
「んー?鍛えてるから平気だよ、リンに無理させれないしね」
「ありがと、アリス」
「どういたしましてー」
アリスはリンの頭をわしゃわしゃと撫でる。「髪が乱れるー」と言いながらも嬉しそうな顔で撫でられるがままにされているリンは身長も相まって小動物的な雰囲気を醸し出す。
そんなやり取りをしていると馬車が止まり業者が馬車停に着いた旨を知らせる。
「おじさん、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「いいってことよ、これが仕事だしな!」
「これ、代金です!」
そういい、アリスが革袋を差し出す。
業者は袋を開け中の硬貨を数える。2回ほどしっかり数が揃っていることを確認すると頷き「まいど」と言い馬を連れて小屋に入っていく。
「さて、リンまずは私たちの住む家を探しに行こうか」
「そんなにすぐに見つかるものなの?」
「『ふどーさんや』っていう住居を紹介してくれる仕事をしている人がいるんだよ、その人のところに行って資料を見て部屋を決めるんだよ」
「へー、王都には色んな職業があるんだね」
「ねー、その分色々と便利だからリンもちょっとずつ覚えていこうね」
「うん」
「じゃあ、付いて来て!事前に調べてるから!」
そういうとアリスが歩き出したのでリンもついて行く。王都ということもあり、人通りも多くはぐれてはいけないと考えたアリスはリンの手を取る。手を握ると少し驚いたのかビクッとした動きが手から伝わってくる。
「人通りも多いし迷子になると困るからね」
「う、うん。離さないようにする」
リンがそう答えたのを満足そうに微笑むとアリスは再び『ふどーさんや』を目指し歩き出した。
2章までは何とかプロット完成したのでそこまでは頑張って更新します!
たぶん20万文字ぐらいになりそうですw