少女と幼馴染と旅道中
第一章始まります。
—―リ・エステル王国・王都エステル。
それが今回リン達が目指している王都だ。
王都エステルは特徴として資源が豊富なことが挙げられる。海には面していないが様々な鉱石が取れる鉱脈があり、西の方には木々が生い茂った森がある。近くに太い川も流れておりそこでは川魚の漁が頻繁に行われている。
また、王城は小高い丘の上に建っており、その背後には傾斜のきつい山岳に面している。王城から扇状に城下町が広がっており王城に近いほど位の高いお貴族様の屋敷が建っている。逆に王城から離れると平民の住居区、一番外周近くにハンターギルドや鍛冶屋など生産に携わっている人々の工房がある。上空から見ると3層綺麗に分かれているのが見て取れる。
リンとアリスはそこを目指して馬車に乗って既に3日が経っていた。
リンは馬車道中、自分が本の中で学んだ王都の特徴と実際にアリスが経験した王都でのことを聞きながら王都に思いを馳せていた。
だが…
「うー…お尻痛い…」
それほど舗装されていない田舎道は地面の凹凸をダイレクトにリンのお尻に伝えてくる。
最初の1日目は馬車に乗るのが初めてで馬車の乗り心地を新鮮に味わっていたが、2日目からその振動にやられ遂に3日目である今日、リンのお尻は限界を迎えていた。
「私も最初はそんな感じだったね」
アハハ、と笑いながらアリスが答える。
彼女は王都やハンターとして活動しているときに馬車に乗り慣れたのだろう、3日経った今でも平気な顔をして馬車に揺られている。そんなアリスをリンは不満顔で見つめる。
そんなリンを見てアリスは一つ息をつくと「ちょっと待ってて」といい何もない虚空に手を突っ込む。虚空が歪み、アリスの手首から先が歪んだ空間の先に消えている。
「これって…もしかして冥系空間属性魔法?」
「お、さっすがリン!正解だよ!!冥系空間属性魔法【神様の箱】だよ」
「空間属性って習得できる大半の魔法がほぼ最高難易度じゃなかったっけ?」
「うん、だからまだ習得できてるのこの魔法だけなんだ。属性魔法は最上級以外は殆ど習得できたんだけどね」
「えぇ…」
さらりととんでもない発言をする幼馴染に正直引いているリン。
魔法は身体に関する無系、火や水などの自然の力を使う属性系、前述2系統に属さない冥系の主に3系統に分類されている。他にも吸血鬼や獣人などの種族のみが使える種族魔法があるがこれは分類上冥系に属している。
そして、魔法は系統と属性により習得難易度が上がる。無系→属性系→冥系の順で取得難易度が上がりその中でも空間系は取得難易度が極めて高い。種族魔法以外を極めた魔導士はここ3000年で2人しか居ないのだからその難易度は計り知れない。そもそも15歳という若さで上級属性魔法と一部とはいえ冥系魔法を使いこなすのははっきり言って異常だ。
それに、アリスは魔導士ではなく剣士である。
「あ、あったあった!」
そういうと【神様の箱】から半透明で青色の柔らかそうなものを取り出す。大きさは丁度アリスが抱えて持てる程度の大きさだ。取り出した物体をアリスはリンに手渡す。リンが受け取ると謎の物体に指が沈み込む。軽く押し返してくる弾力にリンは興味深そうに何度か手を握って確認する。
「えっと…これは?」
「王都で見つけたんだけどね、スライムクッションっていう今流行りの家具なんだー」
「へー、この柔らかいのがクッション…王都ってすごいね」
「まだまだ見たことないものも多いとから、王都に行ったらいっぱい観光しようね!」
屈託のない笑顔でアリスが笑いかける。その笑顔に癒された直後に馬車が小石に乗り上げたのか大きく揺れ、リンは強かにお尻を馬車の椅子に打ち付ける。
「~~~ッ!!!」
「リン!大丈夫!?」
声にならない悲鳴を上げお尻を両手で持ったまま馬車の床に突っ伏すリン。そんなリンにアリスは肩を貸し助け起こすとスライムクッションを椅子に置きそこにリンを座らせる。
柔らかな感触に支えられ先程よりも馬車の振動が抑えられ、辛そうだったリンの顔が和らぐ。
「これ、すごいね。馬車の振動がだいぶ楽になったよ」
「でしょー、学校の寮でもいつも使ってたお気に入りなんだ!今度リンの分も買いに行こうね!」
「うん…と、ちょっとバランスが悪いね…」
「馬車で揺れてるしね…私が支えておくからリンは楽にしてていいよ」
そういい、アリスはリンの腰に手を回すとリンの身体を自分の方に寄せ固定する。
「ひゃ!」
「ごめん、くすぐったかった?」
「うんん、ありがとアリス」
「どういたしまして」
そんな感じの他愛もない話を繰り広げながら馬車は王都を目指し進んでいく。
そして、途中村や町に立ち寄りながらも4日の時が流れリンとアリスを乗せた馬車は王都近郊までたどり着いていた。
説明回。
幕間とか書いてみたいよね。
後はリン視点、アリス視点で3年間の内容とか…