少女と幼馴染と鑑定士試験①
あっという間に時間は経ち、ついにリンが鑑定士試験を受ける日がやってきていた。
「リン荷物は大丈夫?ハンカチとか筆記用具持った?」
「うん、持ったよ」
リンのいつもより硬い声色にアリスは緊張していることを見抜く。
「緊張してる?」
「うん、緊張してる」
アリスは玄関に座って靴を履いていたリンを後ろから抱きしめる。
リンはアリスの温もりを背中に感じたリンは、強張っていた身体から力が抜ける。
「リンはすごい頑張ってきたし、周りの助けも借りてきたからね。多分私が思う以上に緊張しているだろうね」
「…」
「月並みだけどリンなら大丈夫。だって私が一番近くで頑張ってるところ見てきたんだもん」
リンは顔だけ後ろを振り向きアリスを見る。
「頑張れ、リン!」
眩しさすら伴うアリスの笑顔にリンは緊張が吹き飛ぶのを感じた。
「うん、頑張る。…いってきます!」
もう不安はない。
後は自分の学んできた全てを出し切るだけだ。
リンはその思いを胸に試験会場へと向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
鑑定士試験が受けられる場所は需要に対し以外にも少ない。
理由として、鑑定士試験に使われる素材の確保が難しい上に大量に必要だからだ。
小さな市町村では素材の保管場所に困り、ハンター達に依頼を出すにもかなりのお金が必要だ。
また、会場の確保も大変だ。
不正が行われないように受験者同士の席をなるべく離してお互いの解答を見えないようにするためだ。
そんな理由がありリ・エステル王国がある大陸では王都エステルを含め3か所でしか受けることができない。
「ここが会場…」
リンは家から徒歩15分ほどの場所にある会場にいた。
石造りの大きな建物は試験会場以外も色々と使われているらしく、リンが事前に調べた情報によるとここは闘技場も兼ねており『ハンターフェス』の時にも使われるらしい。
「鑑定士試験を受けられる方は受付で登録をお願い致しまーす!」
会場から案内を担当する係員の声が聞こえる。
受付に行き登録を済ませると会場に案内される。
鑑定士試験は年に2回しかない関係上地方から多くの受験者が王都に訪れる。
そのため、何部屋にも分かれて行われている。
部屋に案内されたリンは自分の席に座ると筆記用具を用意していく。
準備を終え、一度頬を手で軽く張り気合を入れる。
その後、しばらくリンは頭の中で復習をしていると試験官が入室してきた。
「これより試験を開始する。制限時間は120分だ。全員不正は行わないようにしろ!」
「よし、頑張るぞ」
「…用紙は全員に行き渡ったな?では、始め!!」
試験が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カリカリと紙に書く音が部屋の中にこだまする。
リンも順調に問題を解いていく。
(よし、植物関係は終わった。次は鉱石関係だ…)
筆記試験の内容は主に植物関係、鉱石関係、魔物関係となっている。
全部で75問ある問題は選択式、記述式の問題があり1問辺りにかけられる時間は90秒と短い。また、時間が少ない中ひっかけ問題や素材の特徴を筆記する問題もあり急いで解かなければいけない中意地悪な問題もある。
見直しする時間も含めると早めに解き終わるに越したことはない。
(ディビアさんや先輩が言ってた通り時間が足りない…!)
リンは文章を読んでもすぐに答えの出ないものは飛ばしていき、確実にわかるものから埋めていく。
試験開始から80分かかり、わかるところは全て書き終えたリンは空欄のままになっているところに取り掛かる。
飛ばした問題は20問前後でその中でも配点の高い記述式から埋めていく。
(ミスリル銀鉱石が採取できる場所に関する問題…確か、芳醇な魔力溜まりがある洞窟深く…魔力が多い関係上強力な魔物が多い。また、採取できる量も少ない。そのため、価格が高くなる…と、この問題はこれで大丈夫かな?)
手をなるべく早く動かしつつもしっかりと読める字で書く。
ギルドの受付嬢として手早く筆記する機会が多かったため、文字を書く速度が自然と上がっていたのはリンにとって嬉しい誤算だった。
そのおかげで全問解き終わっても5分の時間を残すことに成功し、見直しをする時間をとることができた。
「やめ!筆記用具を机の上に置くように。解答用紙は係りの者が回収するので終わるまでは席を動かないように」
試験官が終了の合図をするとカタカタと筆記用具を置く音が木霊する。
ふぅ、と一息つくと今回の出来を反芻する。
(まぁまぁ…かな?結構かけてたとは思うけど不安な部分も多かったし…)
リンが試験の出来を自分の頭の中で振り返る。
「よし、回収も終わったな。午後からは実技試験に入る。昼休憩を各自とった後は13時までにここに再び集合すること。では一時解散!」
試験監督が部屋から出るとそれに続き他の受験者も退室していく。
リンもそれに続き部屋から出ていくのだった。
1章は次で終わりかな。




