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神様チートは美少女《ヒロイン》のもの!  作者: 文月蜜夜
序章 少女と幼馴染とはじまり
2/35

少女と幼馴染と見極めの儀

長くなった。

 リンとアリスが見極めの儀について話してから2か月の時が流れ、ついに儀式当日になった。

 リンは少し髪が伸びて毛先にくせっ毛が出てきてふわっとしている。今日は白のワンピースと花をモチーフにした飾り付きのピンを髪に差して少しおしゃれをしていた。

 対するアリスは動きやすいパンツスタイルで、空色のシャツを着ている。長い金髪を今はうなじ辺りで一纏めにして動きやすいようにしている。アリスは長い髪を短くしようと思っていたが、リンから綺麗だと褒められて以来髪を伸ばしているし、毎日手入れを怠っていない。

 そんな彼女たちは今、隣町にある教会に来ていた。

 見極めの儀は12歳になった子供達が一人ずつ教会に入り、神父の指示に従い女神像に数分祈りを捧げる。そして、女神の声を聴くことができたら加護を授かり、仮に聞くことができなかったとしても女神像の足元に置かれている水晶によって自身のスキルを知ることができる。


「なんだか緊張するねー」


 そういい、アリスは教会の外に設置されている遊具のブランコに座り足をブラつかせている。その様子からは全く緊張といったものは感じられず、寧ろリラックスしているように感じる。

 リンは幼馴染の能天気さに呆れつつもすぐ隣のブランコに腰かける。


「アリスはいいよね…いっぱい色んなことができるし」

「私からしたらリンはとってもすごいと思うよ?」

「…そうかな」

「そうだよ、だってリンは私の1番の友達だもん!!」


 にぱー、と笑いながらアリスは力強く断言する。

 リンはそんな彼女の表情を見て、さっきまでのひねくれた思考をやめた。


 その後、他愛もない会話をしているとついにリンの番が回ってきた。

 教会の扉を開け神父が出てくる。


「えー、次はリンちゃんですねぇ。リンちゃんいますかー?」


 間延びしている優しい声で神父がリンのことを呼ぶ。


「僕の番みたいだね」

「頑張って、リン!応援してるよ!!」

「ふふ、才能を図るのに頑張るはないでしょ」


 リンがブランコから立ち上がるとアリスは握りこぶしを作って応援した。

 それに対してリンはクスリと笑うと軽口をたたく。


「でも、ありがとアリス」

「えへへー」


 お礼を言いながらリンがアリスの頭を撫でるとアリスは嬉しそうに笑う。

 アリスの笑顔を見てリンは自分の中にあった緊張が解けていくのを感じた。そして、リンは改めてアリスが自分の傍に居てくれて良かったと感じた。

 そんなことを内心で思いながら、リンは神父が待っている扉に歩いていく。


「ベネ村から来ました、リンです。よろしくお願いします、神父様」

「リンちゃんですね。しっかりしてますね、えらいですね」


 よしよし、と言いながら神父が柔らかい手つきで髪を撫でる。

 ここの教会は孤児院も兼ねて経営しているからだろうか、神父の撫で方は熟練していた。


「さぁ、見極めの儀を始めましょう。ついて来てください」

「はい」


 教会の扉を潜ると神父が扉を閉め、突き当たりの礼拝堂に案内してくれる。

 礼拝堂の中央には大きな女神の像があり、その周りを半円状で囲う様に長椅子が並べられている。

 神父に案内され女神像の前まで行くとそこにはリンの顔ほどの大きさがある水晶が置いてあった。


「それでは見極めの儀を始めます。リンちゃん、この赤い絨毯の上に座って目を瞑って両手を胸の前で合わせ、女神様に祈りを捧げてください」

「わかりました」


 リンは轢かれた絨毯の上で膝をつくと両手を合わせ目を瞑り祈りを捧げる。

 それだけで真っ暗な自分以外が存在していないような感覚に囚われる。


(…………)


 それ(・・)は突然だった。

 真っ暗な静寂の中唐突に頭の中に雑音が走ったと思うと少し浮遊感に襲われる。思わず、ぎゅっと力強く目を瞑る。数秒もすると浮遊感は収まった。それでも目を開けずに祈りを捧げていると今度ははっきりとした肉声が聞こえた。


『リンよ、目を開けなさい』


 今まで聞いたことのない、だけどどこかで聞いたことのあるような声がリンの名前を呼ぶ。言われた通り、恐る恐る目を開けるとそこは真っ白な何もない空間だった。そして、そこには一人の女性がいた。その女性はまるで地面を流れる川のように長い銀髪を引きずりながら近づく。髪と同じ色の銀眼に、モノクルを付けて少し吊り目な彼女からは厳しさと知的な雰囲気を感じ取れる。そしてその顔はこの世のものとは思えないほど整っており今までリンが出会ってきたどの女性よりも美しかった。


「は、初めまして…リンです」

『まさか貴女記憶が…いえ、失礼。私は秩序と知識を司る神。名をメーティス』

「え?神様…」

『そうです。12歳にしながらその好奇心と知識欲を称賛し私から加護を授けましょう』


 そういうとメーティスはリンの額に指を当て人間には理解できない音の羅列を唱える。

 数秒で音の羅列が終わるとメーティスは、リンの目の前にしゃがみ額にキスする。

 突然、絶世の美女に額とはいえ口付けをされ放心したリンは、放心から立ち直ると自分が何をされたのか気が付き茹でたカニの様に顔どころか耳までを真っ赤に染め上げる。


「え?へ?めめめ、女神様!?いったい何を!!?」

『今、リンに加護を授けた』

「加護ってどんな…あれ?…意識が…」

『む、時間か。加護はこの世の叡智との巡り合わせがよくなる。好奇心のままに知識を貪るがよい』

「…ま………って…………」


 リンは、メーティスの言っていたことを殆ど聞き取れずに意識を失う。そして、リンの体が光に包まれるとメーティスの前から姿を消した。


『そうか…彼女は一部以外の記憶を無くしているのか…願わくば彼女の旅路に幸あらんことを…』


 ぽつりとメーティスが呟くと彼女も消えた。

 後には二人が居た痕跡などどこにもないただの白い空間が広がっているだけだった。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「…ン……」

「ん…?」

「リ…ゃ…ん……リンちゃん」

「…?ここは…」

「あぁ、よかった。リンちゃん起きたのですね」


 ぼけ、とリンは辺りを見渡すとそこが礼拝堂の中であることに気が付いた。

 そして、自分が意識を失ってしまっていたことにも気が付いた。


「し、神父様!眠ってしまいごめんなさい!!」

「いえ、大丈夫ですよ。恐らく神様に意識を呼び出されていたのでしょう」

「あ、そうだ、僕女神様にあって…それで…」

「おめでとうございます。リンちゃんの日頃の行いが神様の目に留まったのでしょう。それで、何の権能を司る神様に会いましたか?」

「えっと…」


 リンは先程のメーティスとの会話を思い出す。


「女神様は秩序と知識を司るメーティスと名乗られていました」

「なるほど、メーティス様ですか…ありがとうございます。では、こちらの水晶を覗いてみてください。貴女のスキルが表示されているはずです」

「はい」


神官に言われリンは水晶を覗く。

そこには加護の内容とリンのスキルが表示されていた。


――――――――――――


リン 女 12歳


スキル:叡智の書庫


加護:メーティスの加護


――――――――――――


(叡智の書庫?聞いたことないスキルだ…)


 リンは内心そう思う。

 加護を貰った以外ではよくわからないスキルがあるだけだった。名前から察するに知識をため込んで置くといったものなのだろうか。


「…こんなスキル初めて見ました」


 隣で水晶を覗いていた神父が驚きの声を上げる。


「名前の通りのスキルなのかもしれませんが詳しくはわかりませんね…」

「そうですか…」

「そう落ち込まないでください。メーティス様が認めてくださったのですから、きっといいことがありますよ。はい、これで見極めの儀を終わります。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」


 リンは丁寧に頭を下げお辞儀する。神父もそれに合わせ礼をする。

 その後、神父に連れられ教会の外に出ると入れ替わりでアリスの名前が呼ばれる。辺りを見渡しても他の子は残っておらずどうやらアリスが一番最後のようだ。


「リンちゃん、ちょっと待っててね!私行ってくるよ!!」

「うん、待ってるね。いい結果だといいね」

「うん!!!」


 アリスが神父と共に教会に入る。すぐに扉が閉まりアリスの姿が見えなくなり、手持ちぶさたになったリンはブランコに座りゆっくりと漕ぐ。


(叡智の書庫…いったいどんなスキルなんだろ…)


 リンはぼんやりと夕日が沈みゆく空を見ながら自身のスキルについて考える。

 

 結局、何のアイデアも出ないまま時間が過ぎていくと見極めの儀を終えたアリスが教会から出てくる。

 その顔はいつもの笑顔ではなく、何かを決心したような真剣な目つきになっていた。


「アリス?」

「リン、私ね…」



 言い辛そうな表情で、あーやうー、と言い淀むアリス。

 やがて決心がついたのか真っ直ぐにリンを見つめる。


「私ね…来年から王都の学校に行こうと思うの」

「…え?」


 それはアリスの口から告げられた別れの言葉だった。

序章は後1話で済むと思う。


PS.誤字報告ありがとうございます、修正しました(2019/11/19)

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