望んだものの対価とは? 3
「とりあえず今は一通り聞いてください。
質問は受け付けますが、もう一度最初から説明する時間はないので」
「ちょっと待った『時間が無い』とは?」
「それは次に悪い話になるので黙っていたのですが‥‥。
ダンジョンの端末を起動したときに、ルプは『カウントダウン開始』って言いましたよね?」
「そうだったか?」
「言いましたよ。
あの時から72時間経過すると、設計をしなくても自動的にダンジョンが構築され地上と繋がります。
結論だけ言えばダンジョンの入口の階段がコアルームに直結のかなり不味い状況になりまず。
『なるべく夜に』という要望もありましたから、最悪でも日の出前の明るくなる前のさらに1時間前です――今は初夏ですから午前3時過ぎ当たりに地上に入口が構築でしょうか?
ちなみに『迷宮構築』を押しても時間切れ前に作ったとしても、地上に繋がるタイミングは変わりません。
ここは異空間で『精○と○の部屋』みたいなものですから。
これからの予定は、ダンジョン構築の説明、魔法や近接戦闘の訓練などですね」
これはマズいんじゃないか?
ネタの内容的な意味でなく。
「‥‥魔法や近接戦闘の訓練は後回しだ。
ひとまずダンジョンの構築を先にやる」
「了解です。
ではコアルームに戻りましょう」
「待ってくれ。
その前に2つだけ。
まず、さっきの転移者で『今のところ』と言うのはなんだ?」
「今後はどうなるか神様にもわからないという事です。
未来を見て神様が知ればバタフライエフェクト的に未来が変わってしまうかもしれないし、変わらないかもしれない。
じゃあ運命は変えられたのかと未来を見て確認すれば、またしても未来は変動する可能性が生まれてしまう。
つまり神様っていうのは未来視的なものが使えず対処療法に追われてまして、だから多忙なのです。
さっきの『日本人の転生者がここに来るか?』『ドラゴンと戦う』みたいのは、あくまで情報分析で予想ですので低いですが外れる可能性がありますよ。
成功確率99%を連続で落とす強化担当とか、前評判を奇跡を起こしてひっくり返す人とかいますからね。
また一つや二つのことならいいですが、主神様は人だけでなく全部見なければならないので予想を立てる処理すら追いつかないのです」
「神様って聞いてた話より万能じゃないのか」
「なんと言いますか‥‥。
ものすごい力はあるけど限界はあって、万能ではないのです。
だから制限とか対価とかあって、忙しい神様自身も救えないのですよ」
宗教戦争になるな、これ以上はいけない。
「さて最後の一つ、デメリットの残りを教えてくれ。
確か『四六時中狙われる』『ダンジョンから出れない』‥‥他に何がある?
これを聞かないことにはダンジョンの設計ができない。
調査や侵攻を遅らせる時間稼ぎって奴もできないからな」
「まず『時間が余り残ってない』ことはさっき話しましたよね。
ちなみに残りは54時間切ってます」
12時間以上ずっと説明聞いてるが、全然疲れてない。
残り50時間フル稼働できそうだ。
「ああ、それから?」
「『この異世界での成人は15歳です』。
つまりマスターの36歳につり合うような20代後半以降の女性となると、かなりの行き遅れの不良物件か再婚希望者になります。
それと奴隷は犯罪奴隷と借金奴隷と捕虜奴隷などがいますが、『ダンジョンマスターは奴隷が買えない』という事です」
「国で奴隷売買を禁止してるとかでなく、『ダンジョンマスター』だけ買えないのか?」
「はい。
奴隷契約主側にかける方の魔法が『ダンジョンマスター』に効かないのです」
なんということだ。
処女厨ではないが、不良物件やこぶ付きは嫌だ。
奴隷購入は最後の手段としてできて欲しかった。
異世界でヲタばれの心配もなくなって、仕事もなくなって時間もできたと言うのに!
「神は死んだ!!」
「冗談なのはルプはわかってますけど、そういうのは神様や宗教関係者の前では止めて下さいね。
さて続けますよ。
ラスト二つどっちが最悪かは微妙なとこなので、あえて言いません」
「これ以上の悪いことがあるのか‥・・ハハハッ」
「気をしっかり持ってくださいね。
最悪な二つは『出現予定地はソルトバレーという街から約50mの地点』『ダンジョンマスターは人類の敵と思われてる』という点です。
前者は『人里の近くに転移してくれ』という要望ですので。
後者の人類と言うのはエルフやドワーフや獣人も含みます」
「終わったな。
俺にはこの世界でも、結婚とか無理なのか?」
癒しや共に生きていける者が欲しい。
やりたい盛りではなくなったが、そういうこともしたい。
「なあルプよ、質問追加するけど俺が死んだ場合の『災厄級にヤバい事』ってまだ起きるのか?」
「異世界転位に使うエネルギーに変換して『厄』なものはかなり減りましたから。
今の状態ですと、普通に記憶消してこっちの世界の輪廻に組み込まれますね。
‥‥最悪でも、人が祓える程度の悪霊ですよ」
そうだ魔法あるし、幽霊の類は倒せるモンスターな異世界だった。
「それもいいかもなー」
真っ白な灰になったり、塩の柱にはなった気分で崩れ落ちるように膝を突いた。
「マスター。
ダンジョンに冒険者だけでなく、一般の女性も呼び込む方法を考えて見ません?
駄目元でやってみたらいいじゃないですかー」
「‥‥ダンジョンに出会いを求めるのは間違ってる。
‥‥危険な状況で結ばれた男女の『釣り橋効果』な幻想は覚めて長続きしないんだ‥‥」
「だったら安全な状況作ったら、冒険者以外の普通の人も入れて一石二鳥になるのでは?
防壁から50mなら衛兵の目も届くから、早朝とか夜でなければ安全です。
それにマスターはマスターですから、DPさえ足りてればこのダンジョンの中を好きにできるのですよ?」
ルプは俺の右手を取って慰める。
顔を上げると目の前に半泣きの少女がどアップでいた。
近い近いって。
寧ろその異常な状況のせいで正気に戻る。
「そうだな‥‥やって見るか。
まずは『DP-Shop』使った端末での買い物の仕方を教えてくれ。
そしたら筆記用具と出現場所の地図と資料を買うぞ」
「その意気ですよマスター。
ルプもサポートしますよっ!
この異世界のことなら大体答えられるので資料は要らないですっ」
ルプは目尻に涙を残して微笑んだ。
可愛い。
外見が美少女ゲーキャラなのも加味されているが、性格や声は違う。
それにしても、さっきのアップはドキっとした。
こうやって女性と長い時間話すのははじめてだ。
社会人になってから、ヲタ話を平気でできる相手もいなかった。
いやいや、さっき『危険な状況で結ばれた男女~』とか言ったばかりじゃないか。
しかもサイズが違いすぎる、2m超えた大型犬がチワワのような小型犬を相手にどうにかするのか?
もっとも普通に小型犬の方に捻じ伏せられそうだが‥‥。
おまけに彼女は『神の配下』だ、種族が違う。
人間ではなく『のっぺらぼう』だ。
下半身的意味でも。
「‥‥ないよな」
「マスター?
端末はいいのですか?」
ルプは首をかしげて、こっちを見ている。
「すまんな、ダンジョン設計の考え事してた。
すぐ行く」
気を取り直してコアルームの端末前に移動することにした。