注文の多い異世界転移者 3
「しかし飛び先が不明だと、すぐに死にませんか?」
自慢じゃないがアウトドア派や野山を駆け回った元野生児ではない。
「そこで『裏技』がある。
転移者や転生者は『魔王を倒す』とかの艱難辛苦な使命が伴うから相応の力が得られる。
逆にささやかな力を付けたり便宜を図るなら‥‥何が起こるか解らないものの、効果相応の使命や制限が付くわけだ。
希望する力はあるか?
もちろん駄目なものはあるし、こちらから制限を付ける場合もある」
とりあえず、そろそろ動けるようにしてくれないかな?
それにしても何がいいだろうか?
地球では暇も無かったし、結婚とかしたい。
かといって二人くらいならともかくハレーム作るほどモテモテになってしまうのも困る。
心を操ってしまうと言うのも後ろめたいものがあるから、その辺はナシだな。
しばらく寝転がったまま黙って考える。
「‥‥まずは人里にたどり着ける場所、人里の近くに転移させてください。
見つからないように夜だとありがたいです」
「それから?」
金髪9ピーはボールペンを持ち出して何やら書き始める。
「それからネット○ーパーとか通販的ななにかで、地球のものを取り寄せる事ってできますか?」
「できなくは無いが、制限が付いた上に使命も大きくなるぞ?」
「付く制限とは?」
「とりあえず私からは『武器の類・電気製品・内燃機関の付いた機械・薬品・書籍雑誌新聞・ペットとかの生物と苗木種、など』が禁止だ。
値段は日本で売ってる値段の10倍ってとこだな。
それと取り寄せた物を売って商売も禁止だ」
「制限多いですね、『など』というのは?」
「あー。
包丁やバットやモップは武器になるがOK。
化学調味料はセーフだが、化学肥料は薬品扱いでアウトとか。
細々としたOKな物や駄目な物がある訳。
武器になるものの制限は大体日本の『銃刀法』が基準だと思ってくれ。
後は取り寄せるときのカタログを見ろ。
リストになければなしだ‥‥イチイチ説明してたら面倒だし、更新されてリストが変更になる事もある。
あちらで開発されて売られるようになって条件が変わったり、期間限定品とか、販売中止とかあるからな」
期間限定品にも対応って、スナック菓子やアイスの新味出ても食えるのか。
これはありがたい。
しかし、一応聞いておこう。
「制限なしでは駄目なのですか?」
「科学が進んだところで原始人として暮らすならともかく。
魔法があるようなところで、『銃とか取り寄せてヒャッハー』ってか?
駄目に決まってるだろー!!」
そういう『サツバツ!』な事はしませんから。
あーでも自分の命がかかれば別か‥‥。
「それは仕方ないですね」
「他には生物や種は生態系を壊しかねない。
あと書籍類から知識チートってのも世界に影響が大きすぎるから駄目だ。
下手すりゃ宗教的なタブーに触れて死刑ってこともあるぞ」
ガリレオさんかよ。
「中世の暗黒時代に飛ばされるわけではないですよね?」
「そういう訳ではないが、魔法って超常現象があるなら大抵は宗教の力も強いからな。
しかも大抵の『神聖術』はただの魔法を神の力と称してるだけだが、実際に目に見えるご利益がある。
追放だから『自分だけ使える魔法』なんて優遇はない。
かと言って魔法が無いところに飛ばしたら、お前はすぐ死ぬからな」
一応ちゃんと考えてくれてるのか。
でも金髪9ピーだからな。
「『地球のものを取り寄せるスキル』はその制限付きでいいのでお願いします」
「OKだ。
それから言い忘れてたが、今ポケットに入ってるスマホと財布と鍵も没収だかんな」
お見通しか。
財布は入ってるカードなソーラー電卓が駄目なのだろう。
鍵はキーホルダーに付いてる懐中電灯とUSBメモリか?
反抗しても仕方ない。
何より今は動けないから、素直に従っておくか。
「異世界では使い道ないですから、いいですよ。
ところで太陽電池な腕時計は没収しなくて良いのですか?」
放って置いてもいいが、後で難癖付けられたら厄介だからな。
「売り飛ばすって言うなら没収するが、そうでないならアナログ式だから『不思議な力で動く時計』くらいに思ってくれるだろ。
動力や原理は様々だが、同じような時計があるとこも多いからな。
ついでに生活リズム崩されて死なれても困るから、一日が24時間のとこに送るようにはしてやんよ」
「それはありがたいですね」
確か木星の一日が地球時間で9時間くらいで、一日が2400時間以上のとこもあるんだったか?
「ところで値段が10倍なのと商売禁止も何か理由がありますか?」
「今の日本では塩とか工場生産品とかも安すぎるからな。
それから100均の調理器具を売って、ぼろもうけとかされても困る。
あとはその腕時計も含めて通販スキル手に入れたものの出所とか、製法とか聞かれてもお前は答えられないだろ?
だから売り物にするのは禁止にした。
どうしても商売したいなら向こうで入手できるものでやってくれ」
ラノベに読んだ『知識チート』『胡椒や鏡を売ってボロ儲け』とかも潰された。
「‥‥言っとくが意地悪で言ってるわけでなないぞ、制限無くすと影響が大きくなるから対価も大きくなる。
つまり『世界10位から20位までの化物と戦って回る』とか『大気圏を突破して衛星まで行け』とか、使命の方もとんでもないのにされるからな。
影響を少なくするための措置だ」
「ところで仲間内に料理を振舞うとか、贈答品に使うのも駄目ですか?」
「炊き出しとか必要な場合があるからな、ただで料理を振舞うくらいならあちらさんの神様も見逃すだろ。
それに贈答品とか『袖の下』は、影響が出ないよう少ない量なら見逃してもらえるだろう。
どっちも出所や製法をうまく隠すのを忘れるな。
魔法や拷問で出所を無理やり吐かされても、制限を破れば試練が酷くなる。
困るのはあんただからな」
なるほど制限を破ることになれば、試練や制限が増えて生存難易度が上がるのか。
権力者に大量入手可能とバレればタカられることになる。
色々制限は付いたが、とりあえず今までと同じような食生活はできそうだ。
「最悪『世界を荒らされた』と向こうの神様が刺客送ってお前を消しに来る。
神様は『地球の食い物UMEEEE』とかで買収はできないぞ。
俺まで責任取らされて、どうにかなるかも知れん」
それはまずい。
ゲームと違って神様がテェーンソーで倒せることはありえないだろう。
そもそも動力がエンジンか電気モーターだから取り寄せできない。
保身のついででも、こっちのことを考えて貰えるのは神に感謝。
「あとはそうですね‥‥」
「まだあるのか?
『地球のものを取り寄せるスキル』はさっきの聞いても辞める気にならないか?」
「はい、問題ないです」
「しかし、もうリミット一杯だぞ。
偏屈で気難しい神様に当たったら『悪影響出る前に神様本人がすっ飛んできて消される』くらいに」
「あと一つだけ。
今話してて思いつきました」
「なんだ? 言ってみろ」
「時々でいいので、こうやって『神様に相談できる』ようにしてください」
「なぁ。
最初のほうで『神様はシステムの維持で忙しい』って言ったよな?」
「追放先の神様が暇してるかも知れないじゃないですか?」
「使命どころか酷いペナルティ付くぞ。
行動制限とかついて普通の生活できないレベルで」
「そこは‥‥神様に相談して何とかできるのでは?」
|(小一時間ほど経過)
「わかった。
どうやらこれ以上説得しても無駄のようだ。
申請は書いてやる‥‥時間押してるし、こっちも予定があるらな。
ただ手足の一本や二本とは行かなくても、酷い対価をが付くのは確定だ。
その上あちらさんの神様の都合もあるから、どうなるかわからんぞ」
勝った!
「相手は神様だし、そこまで酷いことにはならないかと」
「いいか、俺は止めたからな。
もう追加とかないよな、あっても却下して送り出すが‥‥」
「もうないです。
申請してくださってありがとうございます」
「それでは異世界に追放、行って来い。
向こうで可愛いねーちゃんと添い遂げられることを祈ってるぞ」
そして、また意識が途絶えた。
この時の俺は忘れていた。
世界を治める神様が善なるものとは限らないことに。
この後、金髪9Pはかなりマシな方であることを思い知らせれる事になる。