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ダンジョン『説明会』 4

「惜しいな。

 種はあっても外では育たない、他の街で売ろうにも収穫してから6日で腐ってしまう」



「特定地域でしか育たない薬草みたいなものだな。

 もっとも他の大陸にはこれの元になった植物があるから、それを持ち込めば普通に育って日持ちもすると思う」



「しかし私達は忙しくて、なかなかここに来れないのよね‥‥」



「また『甘芋』食べたい‥‥」



「『冒険者組合』にせよ『商業ギルド』にせよ、『見習い』は入場料銅貨1枚の子供用に入れる。

 だからソロ向けの採取依頼として出せばいい。

 例えばあらかじめ布袋を用意して『布袋一杯に甘芋取ってきたら銀貨3枚』とかどうだ?


 食堂とかで定期的に消費する所なら、貧民街の子供を正式に雇って、採りに来させるとかでもいい」


 もちろん孤児院の子供たちも歓迎だ」



「しかし、これでは商業ギルドの儲けが少ないではないか!」



「当たり前だ『ぼろ儲けは出来ない』と最初に言ったはずだぞ。

 寧ろ無駄な投資をして損失が出ないように、最初から情報を公開してる。


 私は『飢える者を救うため』にこういう事をやってるのであって、お前たちを太らせるためにやっているのではない。

 それを忘れるな」




そして出口に向かう通路に到着。



「なんですか? この奇妙な通路は?」

幅1.5m長さ5m程の通路が櫛の歯のように何本も並んでいる。



「荷車をバラして中で組み立てようとか、独り占めして大量に持ち帰ろうとか考える者もいるだろう?

 その防止のためのものだ。

 商業ギルドで袋を売り出すときは幅・長さ・高さ1.5m以内の背嚢や袋にしてくれ


 これが最初の黒い石版から見て正面・左側・右側に3箇所ずつある。

 詳しい場所は資料の地図にある通りだ」



先に進んで階段を10段ほど上ると、最初に見た転移陣が5つ並んでいる部屋に出た。



「ここが出口だ。

 黄色の転移陣に乗って目の前のボタンを押せばダンジョンの入口の裏手に転移する。

 転移陣での転移なら転移酔いはないぞ。


 私はダンジョンから出れないのでここで見送らせてもらう。


 それと南の孤児院のシスター。

 今、孤児院には大人も含めて何人いるのかな?」



「26人ですか、何か?」



「他の『組合』『ギルド』『領主殿』には今日参加してくれた礼に酒を持って挨拶に行くのだが‥‥孤児院に酒というのも不都合あるからな。

 できれば、夕飯をご馳走したい」

 

 

「26人分もよろしいのですか?」



「かまわん、領主殿達に持っていく『つまみ』を作るついでだ。

 一人だけご馳走食べてズルいとか、子供達に責められるのも嫌だろう?」



「‥‥それでは、お願いしてもいいですか?」



「では五の鐘前にはルプに『丸芋の煮込み』と甘芋と果物を持っていかせよう、皿はこちらで用意する。

 他の方は四の鐘位からルプが順番に酒とつまみを持って回る。

 もしご相伴に預かりたいなら、ギルマスか領主殿の近くにいる事をお勧めするぞ」



「ワシは一人で飲むからな」



「領主様‥‥」



「ルプもいいな。

 あと外に出たら、土産を渡すのを忘れるな」



「はいな。

 出口の転移陣はこちらですよー。

 転移陣一つにつき一人ずつ順番にお願いします」



「なぁ、土産って何だ?」



「芋が2種類10個ずつ、他が香草以外5個ずつ入った布袋だ。

 美味しくいただくなり、研究用にするなり好きにしたらいい。

 6日で駄目になるがな」



「それと『油煮』は熊とかイノシシの油じゃ駄目なのか?」



「『丸芋』の方はその方が旨いかもしれないが、『甘芋』の方はあの匂いが邪魔になるから植物油の方がいいだろう」



「ありがとな、試してみる」



「すまんな。

 実際に目の前で作って見せれば油の温度とかコツとか伝えられると思うのだが、命を狙われる身としてはそうはいかん」



「何、気にするな。

 今日はごちそうさん。

 旨かった」

 そう言い残すとシルバは一番最後に転移陣で帰って行った。




◇◆◇◆◇




「やっと一息つけるな。

 慣れてきたとは言え、あの口調は疲れる」



「そうですか?

 『お前たちを太らせるためにやっているのではない』とかノリノリだったじゃないですか」



「あれは本音だよ。

 『ゴネれば何とかなる』って精神が嫌いなんだ」

ルプが椅子テーブルと料理を出す『収納魔法』を見せた時も商業ギルドのお偉いさんはウザかった。

あれは転移した時に授かったり、神のしもべのルプだから使えるのであって、伝授とか無理なんだよ。

しかも『流通革命でみんなの為になる、タダで教えろ』とかもうね。


そういうお客は何人かいた。

『そこまで裁量権が無いので』と営業に回すのが常だが、機能追加が追加料金なし納期延長もなしのゴネ得状態で回ってきたりする。


「ところで今日来た女性で一番好みなのは?」



「外見的には冒険者組合のアイリスさん、庇護欲掻き立てるのはシスターさんってとこかな」



「おや、商業ギルドの受付さんは駄目ですか?」



「あの子はわからん。

 甘芋の時以外では、終始おびえていた。

 小動物的な可愛さはあったが、あれが本性ではないと思う」



「あれが『ダンジョンマスター』を前にした人間の一般的な反応ですよ。

 『氾濫』による恐怖もありますが、子供の時から『悪いことしてるとダンジョンマスターが攫いに来る』って刷り込まれてますから」



「『魔王』や『なまはげ』になった覚えは無いぞ」



「この辺はダンジョンがない空白地帯だったので例外地域ですね。

 『ゴブリンが攫いに来る』で躾けられてますので、モンスター召喚する時には他のモンスターがいいでしょう」



「だからアイリスさんとシスターさんは普通だったのか」



「シスターはそうですが、アイリスさんは普通に修羅場を潜り抜けてますので‥‥。


 それより『説明会』参加のお礼の準備にかかりましょうか?」



「そうだな、時間もないし。

 やっぱ人手欲しいなー」



「マスター、何か忘れていませんか?

 収穫とかのある程度の単純作業なら『召喚モンスター』にも出来ますよ」



「それは農園オープンしてしばらく様子見てからだな。

 召喚しといて赤字だからクビって訳にも行かないだろ」



「クビにした『召喚モンスター』はドロップなしで、死体も残さず普通に消滅するだけですが?」



「愛着沸いたらそう割り切れないんだよ‥‥少なくとも俺は」



「ルプもですか?」



「ああ、代わりに外に出てくれるとか有能とかは別にしても、居てくれないと困る」

普通に話せる相手って重要だからな。



「えへへ、そーですか♪

 お礼のメニューは『丸芋と甘芋の油煮』でしたよね?

 先に行ってますよっ!」

にっこり笑って、ルプは飛んでゆく。



「必要とされてる事がそんなに嬉しかったのか?」

その声はルプには届かない。

そしてフラグを立ててしまったことに本人も気づかないのであった。

最初はジェイクが怒らせる予定だったのですが、商業ギルドの人になりました

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