ソルトバレー 領主邸での会談 2
「旨い、しかしそれだけに惜しいな」
「ならば、もう一本進呈しよう。
蓋は開けるときに矢印の方向に捻れば開く。
逆に蓋をはめて矢印と逆方向に捻れば閉めることが出来る。
つまり一気に一本あけなくても大丈夫ということだ。
あとは普通の酒と同じように、日の当たらない涼しいところで保管してくれ。
領主殿の部下が『説明会』に参加してくれるなら、『説明会』が終わった後にさらにもう一本進呈しよう。
それでは本題に入ろうか。
ルプ、丸芋と肉を出して差し上げろ」
「はい、マスター」
もうポケットから出すフリとかお構いなしに普通に収納魔法で出している。
一皿目が半月切りにした皮付きフライドポテト。
丸芋というのは、実の黄色い『きた○かり』系の地球で言うジャガイモだ。
半分は塩のみ、もう半分は乾燥させて粉にしたバジルもまぶしてある。
海苔塩派の人には申し訳ないが、『異世界』カテゴリの通販リストに海苔は載ってなかった。
二皿目はウサギ肉のソテー、一つは塩、残り三つは唐辛子系な何か、ショウガ、ニンニクで味付けた。
それを四葉のクローバーのように4つに分けて3枚ずつ乗っている。
「ああ、ルプも収納魔法が使えてな。
こうやって作り立てを冷めないように持ち運びできる。
まず一皿目が農園で取れた丸芋を植物油で煮たものだ。
魔道具も使った贅沢な料理だが、酒には一番合うのでこれにした。
丸芋というのは大根やにんじんの様に地面の中で実をつける植物だ。
これを主食にしてる国もあるくらいで腹に溜まる。
緑の方は同じく農園で取れる香草もまぶしてある、味の違いを楽しんでくれ」
「領主様毒見を‥‥」
「いらん」
領主は制止も聞かずにフォークを突き刺して『丸芋の油煮』にかぶりついた。
「これは食感が楽しいな、表面はパリッと香ばしく中身はホクオク、そして酒が進む塩加減。
たまらんな、こいつは名物になるのではないか?」
「味も良く腹にも溜まる、小麦のように粉にする必要もなく、煮るなり焼くなり火を通せば食えると言うのがこの丸芋の特徴だ。
一応生で食えないことは無いが、腹の弱い人は下してしまうことがある。
油で煮るのに高い温度が必要だから、魔道具を使ってる。
これを安価に提供できれば、間違いなく名物になるだろう。
しかしデメリットもあってな、ダンジョン内で作ったのが原因かと思うのだが、ウチの農園で作ったものは採ってから6日ほどで腐り始めてしまう。
ひとつのりんごの幹から甘いのと酸っぱいのが取れるように1、2日の誤差はあるがな。
あと種が入ってる植物もあるが、外の土では育たないのだ」
「つまり街ですぐ消費するには問題ないが、長期保存したり輸送して外で売ることはできないと」
「一応研究は続けるが期待しないでくれ。
日持ちを優先させると農園の再生速度に影響が出る事も解っている。
あと値段を高騰させない為には、これくらいで良いと思ってる。
ルプ、資料を出してやれ」
「畏まりました、どうぞ」
コピー用紙をバインダーで束ねたものを領主に渡す。
ちなみに端末のワープロ機能で作ったものだ。
「この雪のように白い紙の製法も駄目なのか?」
「ああ、私は製法を知らないので答えようが無いのだ。
まず農園のルールで聞きたいことはあるか?」
しばらく領主は黙って資料を読んで口を開いた。
「火が禁止なのはこの説明で解るが『貴族の出入り禁止』とは?」
「農園は満足に食えないものを食えるようにするためのものだ。
農園内で権力をかさに威張り散らされても、他の来園者が困るからな。
例外として領主殿と『この地の役人』は入れるようにしてある。
視察の必要もあるし、休みの日に子供にせがまれて行く必要がでるかもしれんからな。
それ以外の貴族は、転移陣の仕掛けで対応して入れないようにするつもりだ。
他には攻撃魔法や暴力行為の禁止だな、基本的に街中と変わらん」
「違反したらどうなる?」
「私かルプを手を下す。
一番軽いのが、牢屋に入って貰って次の朝まで水だけで過ごしてもらう。
後は時間が3日まで長くなったり、場合によっては所持金の没収だな。
時間が来たらダンジョン入口の裏側に転移で放り出す。
悪戯しした子供が、飯抜きや小遣い抜きにされるようなもんだ。
殺人・傷害だけは拘束して凶器と死体を添えて南門の警備のものに引き渡そう。
命の危険があって治せるものなら、治癒魔法もかけていい」
「治癒魔法も使えるのか!!」
「ここの寺院や治療院と争う気はないから最低限にしか使わないつもりだ」
まだ魔法習ってなくて一つも使えないのにひどいハッタリだ。
もっとも『DP-Shop』では欠損部位すら元に戻す薬とかもあるんだよな。
「マスター、領主様、ルプが口を挟むことをお許しください。
肉料理が手をつける前に冷めてしまったので、交換しても宜しいですか?」
「そうだったな、交換してやってくれ。
ここにこうして来たのは、ダンジョンの食材を味わってもらうためでもあるからな」
「失礼します」
冷めた皿を下げ新しく湯気の出てるものと交換する。
「グラスも空いてますね。
もう一杯水割りいかがですか?」
「うーむ。
できれば、薄める前のを少し飲んでみたい」
「わたしもお願いしたい」
毒見以外口を挟んでこなかったカインが口を開いた」
「マスター宜しいでしょうか?」
「すでに酒瓶ごと領主殿に差し上げたものだ。
ただ、まだ話すことがあるから少しだけだぞ」
「畏まりました」
差し出されたグラスを受け取り、飲み残しと氷を収納魔法内に棄てる。
そしてワンフィンガーの半分ほどついでお返しする。
待ってる間、領主はウサギ肉のソテーを食べ比べていた。
「これは面白いな。
赤いのが乗ったのは辛くて酒が進みそうだ。
他のも旨くて、食欲をそそる。
これはルプ殿が調理したのか?」
「マスター――スーノ様が料理したものです」
「旅商人やってると飯は必ず店で、とは行かなくてな。
手間のかかったものではないが喜んでもらえて何よりだ」
そうして話を進めてゆく。
『説明会』で公開することになっている、あの3種の転移陣の発動方法と行き止まりの金属の扉、それ以外のことを。
「最後に宜しいかな?
なぜワシや『冒険者組合』に『刺客を差し向けるな』と言わない?」
デザートの白桃の完食して満足していたが、やはり気になっていたようだ。
「やはり領主殿は聡明だな。
『冒険者組合』にせよ領主殿にも立場と言うものがあるだろう。
だから『味方になってくれ』とは頼んでいない。
出来ないような無理難題を言わないのも『共存』の内だ。
もし王都が文句言ってきたら『街の住人を人質に取られてる』と私を悪人にした報告を入れてもかまわないぞ」
「なぜ、そこまで‥‥」
「人間、知らないもの、得体の知れないものには恐怖を覚える。
特に商人と言う人種は自分の目で商品を見ないと信じられないからな。
だからこっちは手の内を晒して『他のダンジョンマスターとは違う』と見せているわけだ。
今回持ってきた資料とか『説明会』はその為だ。
もちろんコアに続く通路のモンスターや罠の配置とか晒せない部分もあるがな。
他に質問はあるか?
無ければお暇しよう」
「ないな、少し考えさせて欲しい」
「わかった、『説明会』の朝まで十分時間もある。
じっくり考えてくれ。
それでは、また会おう。
ルプ、通信球を切ってくれ。
それと空いてる皿を下げてやれ」
「了解です、スーノ様。
失礼します」
一礼して水晶球をポケットにしまい、空の皿を収納魔法で片付ける。
「それとマスターは言い忘れていたようですが‥‥私、ルプが今後マスターのお使い役としてこうやって街に出ることになります。
これからよろしくお願いします」
「こっちから用がある時は、どうしたらいい?」
「それは『説明会』でのお楽しみと言うことで‥‥
それでは失礼します」
スカートを摘んでカーテシーをして立ち去ろうとするが、ドアの前で止まった。
「聞き耳を立ててる兵士さん、ドア開けますよー。
離れてくださいねー」
あわててドタドタと騒がしくなるがすぐに治まった。
「あいつ等‥‥」
「まぁまぁ、上司思いのいい兵士じゃないですか。
それでは本当においとましますね」
ドアを開けると2人だった兵士が8人に増えていた。




