ソルトバレー その後の冒険者組合
偵察隊のパーティリーダーは『冒険者組合』の二階に集まり、報告をしていた。
そして二の鐘|(午前9時)に現れた巨大な幻影とそれがダンジョンの構造を話したことについて話し合っていた。
「長い棒振り回して腕がパンパンなのにくたびれ儲けかよ」
「じゃあ、僕たちが苦労してやってきた偵察は無駄だったってことですか?」
「実働3時間で1パーティーにつき銀貨100枚に、正体不明のナイフの分け前がある。
ドワーフの爺さんが言うには刃は未知の合金だとさ。
それでも不足か?」
ジーク達が怒るのをギルマスがたしなめる。
「そうだぞ。
長く冒険者やってれば、難癖付けて報酬をケチって出さない貴族様に当たることもある。
報酬あるだけマシじゃないか。
それにダンジョンの経験も詰めて、一番乗りして実物見て描いたマップっていう得がたいものもあるだろ」
シルバが仲裁に入る。
なお彼が書いたマップはギルドに提出済みだ。
「その地図は持ってていいが『説明会』とやらが終わって情報公開されるまで他の連中には秘密にしとけ。
普通に命狙われて盗られるぞ。
ひとまず俺が全部預かったことにしとけ‥‥何なら俺が本当に預かって一時保管してもいいぞ」
「「「おねがいします」」」
『命狙われる』と聞いて全員が一斉に差し出した。
「しかし、こうして並べてみると三者三様で面白れぇな」
「似顔絵描くようなものだからな。
目に見えるものが同じでも描く人が違えば捉え方が違う」
「ところでシルバ、明後日予定入ってるか?」
「忙しいと思う。
ここもダンジョンできてのんびり出来なくなったからな。
引越しを考えてる」
「そうか残念だな。
それじゃ、そっちの3人に頼むか。
誰か一人『説明会』に行きたい奴いないか?
毒見役だが、お前らダンジョンの中に居て『ダンジョンマスター』の面ぁ拝んでねぇだろ?」
ギルマスは意地の悪い笑いを浮かべた。
「ちなみにウチから出す職員は、アイリス嬢とジェイクだ」
「他は『商業ギルド』と『役人』か、戦力になる奴いないのかよ」
「僕はジェイクと心中するのは嫌だ」
「アイリスちゃんはともかく‥‥」
ジェイクは一応副ギルマス、戦力としてはさっぱりのいわゆる事務屋だ。
むしろ受付暦7年のアイリスの方が言い寄る男どもを相手にしてるので、下手な冒険者より強い。
「ジェイクがジークやギルマスと交代しても同じだろ。
相手は『ダンジョンマスター』だぞ。
『説明会』に来れるのは、『冒険者組合』『商業ギルド』『ここの役人』が2人ずつ、毒見役入れて3人ずつ。
孤児院が5つだから最大でも14人。
ただ殺したいなら俺たちの偵察隊を全滅させたほうが、人数多く殺せたわけだ。
もしもっと殺したいなら人数制限なんてかけずに大勢呼び込めばいい。
しかも来たくないなら、来なくても良いとか言ったんだろ?
ギルマス気が変わった、俺が行く」
「で、本音は?」
「アイリスちゃんには色々と世話になってるからな、引っ越す前に恩を返しておきたい。
あと他の大陸の食い物って奴を食ってみたい」
「だそうだ、おまえらはそれでいいか?」
「「「はい」」」
「でもなんでシルバはそんな考え方を?」
3人のリーダーのうち一人が口を挟んだ。
「相手は元人間の商人って言ったんだろ。
自分が『ダンジョンマスター』だったらどうするか考えろ。
おまけに商人だから最大限に儲かる方法も考える訳だ。
ホントに元孤児で慈善事業したいだけなのかもしれんが‥‥他にも理由があると考えたほうがいいな」
「じゃあ『説明会』は危険がないと」
「ジェイクや他の連中が『ダンジョンマスター』怒らせればわからん。
可能なら俺が怒らせるのを止める。
『破壊と殺戮』を考えるなら、俺だって今朝の明るくなる前に夜襲してる。
その力が無いって目もあったが、街の反対側まで見えるサイズの幻術と『金属の扉』の魔法反応の強さでその目も無くなったわけだ」
「そう考えりゃ、今日の五の鐘の『領主に合いに行く使者』ってのも安全か」
シルバが演説を書き写した紙を手に取って見始める。
「傀儡になるように脅すとかも、可能性としては薄いかな。
そんなの予告なんてせずに、こっそりやっちまえばいい。
あと使者は防壁を超える飛行能力とかを持ってるな。
領主の館前は使者を一目見ようと大勢詰め掛ける上に、帰りは閉門時間過ぎてるからな」
「わかった領主様に報告書届けるときに言っておく。
ひとまずこの偵察任務は完了だ。
シルバ以外は受付で報酬の銀貨だけ貰って帰っていいぞ。
ナイフは査定出るまで待ってくれ、買取たい奴はそのときな」
「俺は?」
「報告書書くの手伝ってくれ。
あと地図を木炭でなくインクで清書してくれ」
「ただ働きって事はないよな?」
「この騒動が一段落したら、酒付きで飯を奢る」
「『説明会』の日の夜に頼む。
恐らくそれからも騒動は終わらんだろ」
「わかった、それでいい。
まず通路なんだが‥‥」
ギルマスは領主に提出する資料を作り始まる。
しかしシルバの『騒動が終わらん』の予言めいた言葉が引っかかるのであった。




