ソルトバレー 冒険者『シルバ』 2
カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン。
四人の盗賊が横一列に並び、長い棒で一歩に一回のタイミングで石畳を叩きながら進んでゆく。
その後を追うように少し距離を開けて残りのメンバーが続く。
幸いにして、地下一階も入口同様に天井に照明の魔道具が並んでおり煌々と明るい。
おかげで少し先に右に曲がる通路が見えている。
「まだ30m位しか進んでないのに、もう30分経ってるのかよ」
後列の誰かが愚痴る。
「仕方ねぇだろ。
17人もいてダンジョン経験者が5人しか居ないとか、俺だって思わねーぞ」
しかも盗賊のダンジョン経験者はシルバ一人。
魔力探知による魔法罠の探知の講座に始まり、棒による機械罠の探知、マッピングもなぜ要るのかから説明した。
臨時のパーティじゃなくて、臨時の実地訓練講師だなこれは。
薬品類に加え、棒の加工を手伝ってくれた連中にも一杯奢る約束もした。
銀貨25枚の報酬は殆ど残らないだろう。
「もう少しで曲がり角だ、そこで戦士‥‥特に盾持ちの出番があるから楽しみにしとけ」
「そこで止まれ」
しばらく進んで通路の手前、棒が曲がり角から出る寸前に止めた。
「なぜです?」
盗賊の一人が聞いてくる。
「いいかダンジョン内のモンスターは『ダンジョンマスター』に命令されて動いてる。
これがどういうことか解るやつがいるか?」
前の盗賊には居ない。
後ろは5人ほど手を上げている。
「そこの赤杖の魔道士さん答えてくれ」
「『ダンジョンマスター』が人間や魔族だった場合、そいつらの命令で戦術を使って来るのか?」
「そうだ。
人間がやるみたいに待ち伏せして、壁から顔出したところを弓とか撃ってくる。
ここは照明で明るいから、暗闇から奇襲がないだけマシなほうだぞ。
さて少し準備するから待ってくれ」
シルバは『長い棒』で曲がり角から石畳一枚分出たところを探ってゆく。
今までの叩いて調べると言うのと違って音を立てずに擦るように探る。
それから顔を出して、すぐに戻した。
「とりあえず敵はいないな。
宝箱が10m先に見える。
その先は左に分岐、この通路より広い通路がある。
練習だと思って戦士系は顔出してやってみろ。
まだその先は罠を調べてない、石畳一枚分から飛び出すなよ」
無事練習を終えて。
宝箱に飛びつきたい連中をたしなめながら、また床を叩いて進む。
「さて宝箱も基本的には通路の対処と同じだ。
まず魔法探知で見る。
これで転移や爆発とかの魔法罠があるのが解る。
その後で棒で叩いたりつつく。
宝箱に擬態するミミックというモンスターや触ったら発動する罠もあるからな。
そしたら最後に盗賊が他の罠を調べたり鍵を開けることになる」
「面倒くさい」
一人がボソッっと言う、残念ながら16人も居るので大体の方向しかわからない。
「確かに面倒くさい。
しかしそういう奴向けの方法として『兵士解除』とか『騎士解除』という方法がある。
まぁ盗賊技能持ってる奴がいない連中が良くやる方法なんだが」
「そんな便利な方法あるなら、それでやったらいいじゃないか」
今度は解った、盾持ち青鎧の戦士だ。
「わかった、教えてやるからお前やって見ろ。
なぁに簡単だ。
一人で先行して、ただ歩いて宝箱を開ければいい」
「本当に簡単じゃないか」
「あのー、それだと罠があったら‥‥怪我だけでなく最悪死にませんか?」
男僧侶が手を上げて発言する。
「そうだぞ、一人で先行して罠に引っかかってもらって解除する。
もし気づいても、後続を守るためにむしろ罠に突っ込むくらいだ。
行動不能か死んだら交代。
他の奴は巻き込まれないように離れて付いていく。
なぁに、今回は発見物の儲けは均等割りだ。
死ぬようなことがあっても、お前のパーティメンバーが死体担いで墓くらいは建ててくれるだろう」
「そ、それは‥‥か、勘弁してください。
すいませんっした」
「まー、パーティで盗賊が先にくたばったりはぐれてしまったり。
盗賊が無事でも道具のほうが無事でなくて、罠を調べることが出来なくなった場合の最後の手段だ。
頭の隅にでも入れとけ」
「「「はい」」」
シルバが宝箱の安全を確認して、鍵もかかって無いことも確認した。
他の魔道士や盗賊にも練習と言うことで同じように確認して、宝箱が空けた。
「鞘つきの『短剣』というより刃が短いから『調理用ナイフ』だな、それが5本。
それから紙が一枚。
こういう場合、念のため魔法探知だ。
宝箱の中身が、読んだら発動とか触ったら呪われるとかあるからな。
それから機械罠がないか調査。
俺は一人で出来るが交代してやれよ」
「「「はい」」」
『調理用ナイフ』は地球の日本人が見たらきっとこう言うだろう‥‥『果物ナイフ』と。
おまけに鞘と握りは木製だ。
「全部魔法反応はなし。
残念ながら魔法の武器って事もないようだ」
シルバは紙をもって振り向いた。
「紙を読むぞー。
『ダンジョン入場の第一号として、記念品を授ける。
それとダンジョン地下二階以下は、そこを左に入った大部屋の転移陣から行ける。
危険な場所もあるので、発動の方法に気がついても発動させないように。
あと大部屋の石碑にも書いてあるが
【ダンジョン出現から3日目、二の鐘|(午前9時)の説明会を待て】
ダンジョンマスターより』
だってよ。
お前らどう思う?」
「まっすぐ行った先には何が?」
「割と友好的ですぞ」
「今んとこ、罠もモンスターもないしな」
「ひょっとして地下二階までできてなくて、入られると不味いとか?」
「まだ実物は見てないが‥‥左の部屋で魔法反応がある床は転移陣だと思ったほうがいいな。
とりあえず俺たちは、領主様に転移陣の進入も禁止されてる。
『ダンジョンマスター』の言う通りにもなるが、こうやってわざわざ止めてるところに立ち入って機嫌を悪くされるのも困る。
『説明会』とやらで転移陣の発動方法も飛び先も教えてくれる筈だ。
少なくとも俺は踏まないし、最初に言ったとおり転移した奴は置いて帰る」
「それでこれからどうする?」
ジークだ。
ずっと黙って言われたことを色々考えていたようだ。
ちょうどいいな。
「ジーク、左の大部屋の調査はお前に任せる。
お前のパーティと4人のパーティを連れてけ」
「しかし僕は大部屋なんて‥‥」
「やる事は今までと同じだ。
曲がり角でやったように、部屋の中を覗き込む。
敵がいなければ、魔法探知で見てもらって怪しい魔法反応がないか確認。
それから進む方向の床を棒で探りながら進む。
今まで通り意味がないかもしれないが、『罠がない』と言うのを調べることに意味がある。
それと時計は持っているな」
ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する。
「はい」
ジークも取り出し確認する。
「今がダンジョンに入って1時間くらいだ。
いいか、もう1時間経ったら俺たちが戻ってこなくても帰れ。
罠は確認してここまで来たから、帰りは曲がり角でモンスターを警戒するだけでいい。
それと宝箱もそっちの組で持ってけ」
「シルバ、あんた‥‥」
「預けただけだからな。
『均等割り』って約束忘れんなよ。
残りのメンバーは行くぞ。
叩いて罠がないのを確認した石畳だけ踏め」
「「はい」」
シルバは再び木の棒で床を叩きながら進行を開始する。
◇◆◇◆◇
小説で死ぬ前のような事を言っているものの‥‥
シルバとその一行は20分後、無事に戻ってくることになる。
「通路の突き当たりは、鍵穴のない大きな『金属の扉』だった。
この大広間以外の分岐はない。
おまけに扉全体にかなり大きな魔法反応があるから手が出せん。
ありゃあ、単純な魔法の鍵だったとしても俺や初級の魔道士じゃ解除は無理だわ」
基本的にしまらない男なのである。
その辺が『6級止まり』の所以ではあるが、ここで扉に手も触れさせないあたりが冒険者を長く続ける秘訣なのである。




