今代最強の男
七夕?この世界の七夕は街の上で1年に一回ドラゴンが殺しあう日を七夕と呼びます。
彦星龍と織姫龍ってあだ名がついています。大抵は織姫龍側のブレスで決着がつきます。尚余波で街は半壊する模様。
『ーーー死亡しました。』
『デスペナルティとして経験値が剥奪されました。』
『レベルが下がりました。』
『リスポーンします…』
◇◆◇◆◇
僕がゴブリンに生花みたいにグッサグサにされた後、目を開けると簡素な個室のベットで横たわっていた。しかも全裸で。
「ここは…てかなんで裸?」
僕はその部屋に置いてあった浴衣の様な物を一着拝借して部屋の外に出る。
「ここが世界で一番安全な所なのか…」
そこは僕達が武器を授かった神殿だった。
…そういえば最初にあった時にリスポーン地点の変更がうんたらと説明された気がする。まぁ武器の印象が強くてとっとと忘れてしまったけれど。
もしかしたらサノは覚えていたかも知れない。まぁ彼の能力も常時発動しているわけでは無いから一概には言えないのだが。
「おや、お目覚めになりましたか。おはようございます。」
僕が辺りを見渡していると最初の時と同様に神官さんが微笑みかけてくれた。
「おはようございます。あの…僕以外に後2人程ここに来ませんでしたか?」
僕が彼に問うと、彼はいつもの笑顔を崩さずに答える。
「えぇ。大丈夫ですよ、無事にここをリスポーン地点に変更出来ているようです。」
どうやら僕たちが最初に来た時にお祈りをしたのがそのままリスポーン地点変更の儀式らしい。
これは神やそれに近しいもの達からの唯一の優しさであり、代償は魂の磨耗。
このリスポーンを繰り返すたびに人類は弱く、そして早死にするらしい。そしてそれを改善できるのがモンスターの討伐による経験値の取得。
経験値とは人間で言うところの魂であり、レベルアップとは魂が次の位に上がる事を意味するらしい。
「そうですか、よかったです。所で何ですけどもイヴさんがどちらにいらっしゃるか分かりますか?」
僕は2人が無事だと確認したのち、僕たちのリスポーン地点で待っていると言ったイヴさんを探すも見当たらない。
「あぁ、彼ならそろそろ来ますよ。」
彼が言う通り本当に来た。
…神殿の入り口からでは無く先程僕が出てきた個室の並ぶ通路の方からである。
つまりここに来るまでに死んだのだろう。ひでぇ世界だ。
「やぁリュウ君。どうやら同じ道を辿ったようだね。」
イヴさんは死んだのにどこか他人事だ。多分死ぬことに慣れたのだろう。生物としてそれはどうかと思うが、多分この思いも一年もしたら消えるのだろうと理解できる。
なぜなら今の現状でさえ自分はそれほど取り乱していないからだ。
おそらく転生前にあの人形に説明をされていなかったらもっと取り乱していただろう。
その点に関しては感謝している。でも許さない。
「ははは…どうもイヴさん。」
僕が若干居心地悪く挨拶をしているとアレクとサノが個室から続々と部屋から出てきた。
「ここって何処?」
僕は彼らに掻い摘んで報告する。
かくかくしかじか。
「なるほどね。まさか武器を得るのとリスポーン地点の更新が同時にされていたとは思わなかったよ。」
アレクはニコニコ笑いながら辺りを見渡す。それを見ながら神官さんが申し訳なさそうに謝る。
「教えなくてごめんなさい。ですがこれは必要な事だったのです。」
神官さんは申し訳なさそうにしながら説明してくれる。
「今までの統計から見てリスポーン地点が神殿に変更されていると知っている人より、リスポーン地点が変わっていないと思っている人の方が真剣にダンジョン攻略をしてくれるんです。だから許せとは言いませんが…理解をしてくれると嬉しいです。」
なるほどね。
確かに僕は今回のゴブリン討伐において、リスポーン地点が街内になっていると知っていたらなぁなぁで済ませたかも知れない。
…途中で心が折れてしまったけれど、それでも真剣に考えて行動した自信はあるのだ。
「分かりました。それに関して責めるつもりはもうありません。それよりも…」
僕がチラリと神官さんからイヴさんに視線を移すと、イヴさんは苦笑いを浮かべながら。
「いやぁ、ここに来るまでにスズメガの散歩道に当たったみたいで轢き殺されてね。まいったよ、ははははっ。」
人間は 鳥が歩いて 死ぬんだよ。諸行無常の響きがあるね。
「まだアレいるんですか?あの鳥公、僕たちが寝泊まりしている宿の前に居座っているんですよ。困ったなぁ…」
僕がぼやくと神官さんが少し俯いて考えだした。
「フム…分かりました。そのスズメガの討伐、私が引き受けましょう。」
…え?
「いやいやいやいや…神官さん、あの鳥公のレベル知っていますか?あれレベル50ですよ?今代最強の転生者でもレベル30なんですよね。…流石に無理ですよ。」
神官さんは僕の言葉を聞きながらニコリと笑う。
「1つ、いい事を教えましょう。レベル=絶対では無いんですよ、まぁ見てて下さい。もちろん、離れた所でね?サクッと倒して見せますよ。」
彼は僕が何かを言う前に神殿を出てスズメガを討伐しに行った。
「…イヴさん、なんで止めなかったんですか?」
アレクが少し責める様な口調でイヴさんに問い詰める。
「貴方はこの街でも上位の力がある筈です。その貴方が散歩ついでに轢き殺される様なモンスター相手に1人で行かせて勝ち目なんてある筈ないでしょう。」
イヴさんはアレクの糾弾を何でも無いかの様に受け流しながら笑う。
「アレク君、僕はね、勝ち目の無い戦いに誰かを送り込む程クズでは無いんだよ。それにーーー」
イヴさんは今まで見た中で一番キラキラした目をしながら言葉を続けた。
「彼が負ける所なんて僕はカケラも想像できないんだよ。」
◇◆◇◆◇
〜神官視点〜
私は『目』を使いながら歩く。
私の目は並行世界を見る『並行視』のギフトがある。所謂パラレルワールドというものが見えるのだ。しかもこれが中々に便利で現在の並行世界だけでなく、その過程も少しは見えるのだ。
そのパラレルワールドの中で私がスズメガと広い場所で遭遇するパターンを見、その通りにそれを実行する。
歩く道を変更し、少し経つとスズメガと遭遇した。
【スズメガ レベル51】
ふむ、転生者を殺してレベルを上げたのか。コレはそろそろ人を殺す事の虜になるね、ああは言ったが追い払えば良いと思っていたんだけどこれはダメだな。始末しよう。
「来い、『アヴァロン』。」
私は固有武器を呼び出しダンジョンにて発掘されたいわゆる発掘装備の剣を構えた。
「モンスターよ、そろそろ地に伏す時だ。」
〜リュウ視点〜
「すっげぇ…」
僕達は神殿の屋根に梯子を使って登り、神官さんとスズメガの戦いを眺めていた。
イヴさんによると神官さんはパラレルワールドという、いわば可能性が見えるのだ。
その力を使い、敵の攻撃パターンを全て見て、それに対する最善手を行うらしい。
僕の『目』とはまた違うベクトルの力だ。僕が結果を見る目なら彼は過程を見る目なのだろう。
そこから敵の攻撃を見切るのはひとえに戦闘経験の差であろう。
僕が彼と同じ『目』を持っていても、スズメガ相手には3分もつかどうかだろう。
「これが今代最強か…」
そんな事をサノが呟くと同時に神官さんの腕が千切れ飛んだ。
…
「ほらぁっ!!そういう事言うからぁ!!」
「俺のせいじゃなーーいっ!!!」
僕が急いで弓を召喚し、加勢しようと矢をつがえた時には神官さんの腕は元に戻っていた。
「は?」
サノが構築した魔術を消滅される。
僕達が口を開けながら唖然としているとイヴさんが突然笑いだす。
「フフフッ…いや大丈夫だよ、彼はあの程度じゃ死なない。彼を殺すなら身体を木っ端微塵に消しとばすくらいしないとね。」
神官さんの固有武器は『聖鞘 アヴァロン』。効果は所有者に常に異常回復、肉体回復をかけ続ける。代償は所有権の放棄らしい。
「所有権の放棄?」
「あぁ、所有権とは死んだ場合でも魔力を使えば呼び出し出来る機能の事を言うんだ。」
「…つまり彼が死ねばあの鞘は二度と戻ってこないと?」
「いや、あの鞘無しで死んだ所まで場所まで行けて、尚且つモンスターがあの鞘を持っていなければ取り戻せるよ。まぁ、もしモンスターが鞘を持ってしまった場合は人間には討伐不可能だけどね。」
永遠に回復し続けるモンスター。悪夢かな?
「なるほど、代償としてはかなり重いですね。まぁ効果もチートクラスですけど。」
「まぁその効果を使ってる間はゴリッゴリに魔力を消費するからいくらレベル30でも1時間も発動してられないけどね。」
…それ結構シビアじゃないですかね?僕らなんてスライム倒すのにもかなりの時間を食うんですけど。
「もちろん対策はあるよ、あの鞘には魔力保管機能もあるんだ。それに彼は、彼らは四六時中魔力を注ぎ続けているんだよ。」
へぇ〜。つまり死なない限りは回復し続ける人か、そりゃ今代最強だわ。ってか歴代でもかなりの上位だろう。
「まぁそこら辺の話しはおいおいね。それで、どう?」
イヴさんは遠回しに僕たちに聞いてくる『彼が負けると思う?』と。
僕は首を振った。
「回復し続けるなんてチートでしか無いですよ。それなのになんで彼は神官なんてやっているんですか?」
「そこら辺は彼自身に聞いた方がいいね。ほら、後1時間後くらいには倒せるよ。」
イヴさんの予想と反して神官さんは1時間半くらいかかってスズメガを追い返した。
…いや、惜しかったよ?うん。
アイツが「ケガしたから帰るわ。」みたいなノリで飛んでいったのが予想外だっただけで。
ホントよ?
惜しい!羽さえあれば…
ちょっとネタバレすると神官さんとあともう1人は歴代でも数少ないモンスターに真っ向から立ち向かえる人類です。
まぁ真っ向から立ち向かえるってだけで空は飛ばないんですよね。つまり飛行モンスターへの対処が激ムズっていう…