スライム
前回までのあらすじ
イヴ再登場。
昨日僕達の命を救ってくれた男、イヴに再会した。
「その節は本当にお世話になりました。ありがとうございます。」
僕達が頭を下げながら最大限の感謝を込めてお礼を言うと、イヴは照れ臭そうにしながら頭を上げるように言う。
「いやいやいや、そんなに感謝される様な事はしてないよ。僕にとってあれは仕事であり当然の事なんだ。なんたって僕も最初はああいう風に助けられたのだから。」
だから君達が僕に感謝しているのなら強くなったら同じ事をしてくれれば良いよ。と彼は笑った。
「…はい。必ずそうします。」
僕らに強くなる理由が出来た。
今までは生きるためにレベルを上げようと思ったが、これからは彼の様になる為に強くなろう。
…出来ればあの狼4匹を倒せるくらいの。
「さて、湿っぽい話はこれで終わりにして君達の仕事の話をしよう。」
イヴは仕切り直すように咳払いをした後に話をレベル上げに関する事に切り替えた。
「君達にはこれからこの街の中心部にあるダンジョンに潜ってもらう。もちろん僕も同伴するけどね。そのダンジョンはスライムしか湧かず、しかも湧く範囲も決まっているから初心者ダンジョンとも呼ばれている。武器は持っているね、それじゃあそこに行ってから更に詳しい話をしようか。」
◇◆◇◆◇
「ここが初心者ダンジョンのリアライズさ。」
そこは簡素な扉のついた縦穴型の洞穴だった。
理解?どういう意味で付けたダンジョンネームなのだろうか。
「名前の由来としては戦闘に関するあれこれやダンジョンの性質、そしてモンスターに関する事を理解する。という意味があるよ。後は、まぁ行ってみれば分かるさ。」
イヴは笑顔でそう言い、ダンジョンの入り口である階段を下っていった。なんか不安な言い方やんけ、怖い。
僕達は彼の後に続いて階段を下る。
それほど下った覚えが無いのに後ろを振り向くとすでに出入り口の光は見えなくなっていた。
「ダンジョンは所謂異次元的なものなんだ。だから階段を少し降りただけで外界の光は届かないし、外にモンスターが出てくる事も無いよ。まぁ例外的にダンジョン内で異変が起こったりするとその限りでは無いけどね。」
ふーん。異世界の中の異次元ね。あの出入り口以外から出ようとしたらどうなるのだろうか。
「うーん実行するのはおススメしないな。ここは外界との接続が不安定だから。もしかしたら別の世界に繋がっていたり、はたまた何もない虚無空間かもしれない。まぁいい方向に転ぶ事は無いだろうね。」
「絶対やりません。」
心に誓った。なんか最近心に誓う事が多すぎて頭の中のコルクボードが混雑してきたなぁ。
「うん。それがいいね。っと、ついたよここからがモンスターがいる場所だ。言っておくけどスライムだからと油断しない様に、君達は今はレベル1で地球にいた頃と変わらない。だから慎重に、いいね?」
僕達は頷いて各々位置を調節する。
剣士のアレクが一番前で、魔術師のサノが2番目、そして弓兵の僕が最後尾だ。もちろんイヴさんもいるが出来れば3人で倒したい。
「うん。いい陣形だね。さらに言うとリュウ君は背後からの奇襲に備えてダガーか何かを装備して、あとアレク君は盾持ちになった方がいいね。まぁそれはお金に余裕が出来てからで良いよ。どうせ外にいるモンスター達には1発もらったら終わりなんだから。しばらくはここで戦闘訓練する事をオススメするよ。」
イヴさんは僕達にアドバイスしつつ最悪な一言をくれた。
ワンパン=死て、難易度調整ミスりすぎじゃないか?
まぁ良い。そんな事はとうに知っている。
僕は『千里眼』を使用して索敵をする。
そういえば今日の朝に作戦会議をして僕の固有スキルがレベルアップしてるの言うつもりだったのにあのスズメガのせいで頓挫してしまった。まぁ良い、帰ってから言えばいい話だ。
僕のスキル『千里眼』は『視力強化』の能力に加え、未来視、死角消失、暗視、魔力視がついた。
おそらくは僕の地球にいたころからある未来を見る力が影響したのだろう。
これにより僕は自身の視力で見ることが出来る範囲ならば例え壁で隔たれていようとも見ることが出来る様になった。
ただしこの能力の追加を知って誰もが思い浮かべただろう(偏見)覗きは出来ない。
何故ならこの目には4つの能力を新たに得た代わりに『人の尊厳を無視する事は出来ない。』という制限がついているからだ。
この世界の固有スキル、専用武器にはある性質がある。
それは何かを得るには何かを代償として支払わなくてはならないという事だ。
たとえば武器の召喚には魔力がいるし、固有スキルを手に入れるには命を一度捨てなくてはならない。
サノの本は攻撃性と効果を失う代わりに内容は条件付きではあるが全魔術の情報という破格の内容だし、初代異世界転生者の固有道具である例の像は所有権を手放し攻撃性を失い、さらに不壊すらも失う事で他の人に専用の武器を与えるというぶっ壊れ性能を発揮している。
…初代がいなきゃ僕ら後続はこんなにたくさん生き残ってはいなかっただろう。初代様々である。
なので特に厳しい条件も無い僕の弓はそれほど異常な能力を有していない。これを最初に知っていたらもっと何か強い力にしたのに。
閑話休題。
「…見つけた。アレク、この通路の曲がり角右側に一体何かいるぞ。サノなんか使える魔法を使え、僕の射撃と共に撃つぞ。」
僕は魔力を矢を生成できる最低量だけ使用する。それだけでレベル1で尚且つ武器生成にも魔力を消費した僕はMP切れである。世知辛い。
「3…2…1…撃てっ!!」
着弾。即座に後退し生存を前提に防御を固める。
【スライム レベル5】
無傷とまではいかないがかなりピンピンしている状態のスライムが出て来た。うへぇっ、萎える。
「ふっ!!」
アレクが剣に魔力を注ぎ、射程を伸ばして攻撃する。
斬りつけようとしたのにイヴが狼に斬りかかった時同様に弾かれる。しかし前回の狼と違いこのスライムはあまり攻撃的では無いのか反撃してこない。
ただ反撃してこないだけで全然倒せない。
あれ?僕の見立てでは今日中にレベル3まで行って受付嬢さんに褒めてもらう予定だったのにこれじゃレベル2すら怪しいぞ。
僕達はスライムが反撃してこないのを良い事にMP不足から弓を射るのでは無く鈍器として、剣を鞘に収めた状態でハンマーみたいにして殴り続けた。
〜30分後〜
「あ"ぁ〜しんどかった!!!」
僕たちはようやくスライムを1匹倒し終わった。
そう、未だに1匹である。ほんとに人類ゴミすぎ、何だこの鬼畜使用は。
「うんうん。理解したみたいだね。」
イヴは昔を懐かしむような目をしながら僕達が1匹倒すのに手こずっていたスライムを3匹纏めて相手して、10分足らずで斬り殺していた。
…僕らに比べたら充分すぎるくらい強いけど何か、その、ワンパンとか出来ないんすかね。あっ、無理すか、そうすか。
「えぇ、なんとか。」
つまりこのダンジョンの名付け親はこう言いたいわけである。
『俺たち人類は俺TUEEEE何て出来ねぇから。』と。
それを初心者ダンジョンの、しかも対スライム戦で教えてくれるという優しさ。
ありがたすぎて泣けてくるね!
僕達が人類のゴミさ加減に絶望しているとイヴが励ましてくれる。
「まぁほら、鍛えればいつか僕はみたいにスライム相手なら俺TUEEEE出来るから、ほら、ね?頑張ろ?」
「…あ"ぃ」
僕は絶望のあまり精神が溶けた。
〜2時間後〜
『レベルが上がりました。』
長く苦しい戦いだった。
あれからスライムを5匹討伐してようやくレベルが2になった。最後らへんは如何にスライムを早く殺すに集中していた為、最初の頃よりは討伐時間は短くなったが、ぶっちゃけあんまし身体能力的な変化は見られない。
「レベルアップというのはしたその瞬間に身体能力が劇的に伸びるわけじゃ無いよ。今日寝て明日の朝起きたら完全に身体がレベルアップに馴染む筈だから期待しててね。さて、それじゃ今日はこれで帰ろうか。」
イヴはそう言いながら笑った。
スライム1匹倒すのに30分かかるゲームってやってみたい?私は絶対に嫌だし。