異世界転生者の街へようこそ
クソゲーとか言ってるけどこれは異世界です。ゴメンね分かりにくくて。
「クソゲーーーーッ!!!」
僕は空に向かって大きく叫ぶと直ぐに気持ちを切り替え、走り始める。
「サノ!!アレクっ!!取り敢えずあの見えてる建物まで走るぞ!」
今一番避けるべきなのはレベル1の状態で敵とエンカウントすることだ。ならば選択肢は決まっている。他の人類の手を借りる事だ。
いや、この際人類じゃなくても良い。取り敢えず『言語理解』だよりで知的生命体ならなんでも良いから助けてほしい。
左之助とアレクサンダーも少し遅れて走り始める。
「なんで!?なんであの人形はあんな事言ってて俺らを人類領域に入れなかったの?死ぬじゃん、オレらレベル1じゃん!!」
アレクが悲鳴のように叫ぶがその理由が分かってたらこんなに取り乱してない。いや、多分分かってても取り乱す。だって幾ら考えてもサポート無しでレベル1の人類にクマが倒せるとは思えない。
だってレベル1の僕らの身体能力は体感的に地球にした頃と大差ないのだから。
「そんな事言ってる暇あったら速度上げろ!!!何となくだけど後方からなんか来てる!!!」
それは『視力強化』の力なのだろう。なんか奈落に落とされる直前に別の単語を聞いた気もするが今は構っていられない。
「無理だ!!振り切れない!!」
そして僕が感覚的に敵の存在を先に理解したとしても人間の足じゃ四足歩行動物には敵わない。
直ぐに追いつかれるだろう。
「クソッ!迎撃するぞ!!!1匹だけなら何とかなるだろ!!!」
僕たちは後ろを振り返り手頃な石を各々掴む。
大昔の人類は石で野生動物と渡り合った。
平和ボケした現代人には及び用もない偉業だが、もしかしたら多対1なら何とかなるかも…
相手は4匹いた。多対多でしかも数は相手が上である。
「あー、えっと。ハ、ハーイ?」
それは狼のようなものだった。目が4つある。
そして残念ながら言語を用いないご様子。コミュニケーションを取ろうにもウォンとかウーしか言わない。
…今のところ『言語理解』も『ステータス』も一切役に立ってないんだけどこのまま何の役にも経たずに死ぬのかなぁ。
そんな考えを持ちながら、出来るだけ背後を見せないようにジリジリと後退する。
そして相手は僕らが下がった分近寄ってくる。
多分そこが射程範囲内ギリギリなのだろう。
そんなに警戒しなくてもいいのに、僕ら5メートル先を攻撃する手段なんて今持ってないんで。僕らは諦めた風に見せかけて相手が油断した瞬間に石を投げた。
「そぉいっ!!」
余裕で躱された。やっぱ人類ゴミだわ。
そしてこちらが反撃に出た事で相手は先ほどのまでの油断を消した。強敵で慢心しないとか嫌になるね。
あわやそのまま全滅かという時に希望の光が差し込めた。
「やぁ、助けは必要かい?」
茂みから1人の男が現れた。白銀の髪に碧眼の高身長。
実用的かつ芸術的でもある鎧を身につけて、彼はあのバケモノ4匹と対峙してなお笑っている。
「見たところ異世界転生直後にあの草原に飛ばされたのかな?」
こくりと頷く。
「成る程、ならばここは私が引き受けよう。君たちは振り向かずにあの街まで走りたまえ。何、直ぐに追いつくさ。」
男は優しく笑っていう。
僕たちは少し迷った後、会釈をして駆け出す。
レベルが上がればバケモノ狼相手ですら倒すことが出来るんだ…
僕はやる気をフツフツと滾らせながら走る。
少しでも戦闘技術を学ぼうと振り向こうとするが直前で思いとどまる。
あの人が作ってくれた時間を無駄にするのは憚られたからだ。
…でも少しくらいいいよね。
青年は狼相手に剣を抜き、喉元を狙って斬りつける。
狼の皮膚が硬すぎて剣は弾かれ、次の瞬間には引きずり倒されていた。
チラッと後ろを向いて直ぐに走り出す。
残された時間は短い。
僕が振り向いた事でつられて振り返ったサノが取り乱す。
「お、おい、リュウ。あの人っ…」
「やめろ。それ以上言うな。」
僕らはスピードを上げて更に駆ける。幸いな事にあの狼は青年をご飯にしたのでお腹いっぱいだったのだろう。
追ってくる事は無かった…
◇◆◇◆◇
青年の決死の行動により出来た時間で僕たちは街までたどり着いた。
城壁に囲まれた街の出入り口にいる門番に何かを言う前に、彼らは同情の眼差しと懐かしさを滲ませた暖かい言葉で僕らを迎え入れてくれた。
「分かってる、言わなくていい。異世界転生者だね?よく生き延びた。ようこそ転生者の街、リスタートへ。あぁ、死んだ彼の事なら気にしなくて良い。彼は今日が転生者保護の仕事だったんだ。今頃は依頼達成報酬を貰っている頃さ。」
どうやら新人を助けて死ぬのは日常茶飯事らしい。やっぱ人類ゴミすぎでしょ、これ。
◇◆◇◆◇
その街は異世界転生者達が作った街、対モンスターようの厚く、高い城壁で囲まれた街だ。
そこで僕ら3人は冒険者ギルドに案内された。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。新しい転生者ですね。こちらにニックネームで良いのでお名前と、レベル。後は出来ればで良いので固有スキルのご記入をお願いします。」
受付では優しいお姉さんが書類の内容と意味を教えてくれる。
この世界において人類はクソ雑魚で、そしてこの世界にいる人類は全て異世界からの転生者らしい。
だからこそ人類は地球にいた頃より団結力があり、優しい。
共通の現象を体験し、あの人形に対する憎しみを共にする者達には前世の差別意識すら意味を持たない。
さらに異世界転生者は『言語理解』により言葉の壁すら超えた。ある意味でここは理想郷と言えるだろう。
だからこそ名前は国がわかる実名ではなくニックネームなのだと言う。
そしてこの世界で生きていくにはレベルが必要だ。だから冒険者ギルドではレベルの報告を義務づけしているらしい。
パワーレベリングをしてやらないと人類はどんどん減少していくからである。
また、何故固有スキルを記入した方が良いのかは明白だ。僕たちは集団で転生して気心が知れた仲間が居たからまだ良いが、ソロで来る人も少なくないらしい。
だから自分を売り込むために固有スキルを記入してもらう。
そりゃあそうだ。誰だって有能な勇者と平凡な村人なら勇者を仲間に入れたいだろう。
「じゃあ名前とレベルだけでお願いします。」
別に隠す必要を感じはしないがまだ僕らのはこの世界を良く知らない。最初良い人がラスボス展開などいくらでも存在するのだ。警戒して損は無い。
そんな僕ら心境を理解しているのか特に嫌な顔もせずに笑顔で仕事をこなしてくれている。
「それではレベル1の転生者3名様ですね。では、明日からレベル15の剣士を1人付けてレベリングの方をお願いします。報酬の方は冒険者ギルドが新人応援としてお支払いしておきますのでお金の事は気にせずに頑張ってくださいね。」
そう言って受付嬢さんは微笑んだ。
可愛い、癒しかな?
◇◆◇◆◇
僕らは冒険者ギルドを後にして近くの宿に向かった。
「いや〜疲れたな。」
サノは伸びをしながら呟く。
ほんとそれな。
何これ?転生直後に死ぬと本当に死ぬから気をつけてとか言っといてモンスター跋扈するフィールドに送りこむってあの人形に優しさは無いのだろうか。
僕はいつかあの人形を泣かすと心に決めた。
「うん。まぁこれで寝る場所に困らなくなったのは助かったね。」
アレクは疲労を滲ませながらも安心したように笑う。
僕らの今日の宿泊と食事も新人応援として無償らしい。本当に冒険者ギルド様々である。
「そうだな…取り敢えず今日は早く寝て、明日の朝に作戦会議をしよう。武器も防具も何も無いしね。明日からは忙しくなるぞ。」
やる事は山積みで、でも取り敢えずは全てを投げ出して寝たい気分だった。
僕は明日の朝が来るまでの時間が出来るだけ伸びるように祈りながら目を閉じた。
みんなが通った地獄だからこそこの街は新人育成に力を込める。