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体育祭と遭遇イベント

 

 夏休みが終わり始まる新学期。

 ルート回避が終わり後は緩く学校生活を楽しむ予定。それは早々に崩れ去った。


「えー綾戸先生が産休に入ったから復帰まで俺が担任代わりになった。お前達問題は起こすなー」


 ゆるい挨拶。教壇に立つのは攻略対象2・一条茂先生。

 なぜ!?本来の担任綾戸先生は確かに休み前の終業式時にはお腹が目立ち出していた。でもまだ産休はいるなんて聞いてないよー。でも赤ちゃんおめでとうございまーす。


 ゲームではこんな展開はない。これは"自分"の知らない展開。

 ここはゲームではない。分かっていたはずの現実が改めて突きつけられた。



 ◆◆◆◆



 昨夜から仕込んでいたお肉や野菜を取り出し最後の仕上げに取りかかる。お肉は2度揚げのからあげ。野菜はレンジで蒸して胡麻と和える。卵焼きは鰹節を混ぜてだしまき風に仕上げる。

 お兄ちゃんも炊きたてご飯をおむすびへと量産していく。手の皮の厚さが違うのか私では熱くて炊きたてを握るのは難しいのだ。

 2人係で出来上がった料理を詰めていく。程なくして3段の重箱が出来上がった。


「よし、出来たな。重箱は俺が持ってくから莉乃はお茶よろしくな」

「はーい」


 飲みやすいように程よく温くしたお湯で緑茶を作り、1リットルの保温水筒へと注ぐ。

 これで体育祭のお昼はバッチリだ。


 新学期に恐怖の担任交代があった以外は何も変わらない平穏な日々だった。一条先生も先生と生徒という関係以外には特に何も起こらない。ある意味拍子抜けな状況だった。

 そして本日はそう体育祭!夏休みに徹君に相談したお弁当は今お兄ちゃんとの合作で完成した。重箱なんて何時いらいだろう。


 ちゃんとあの時リサーチした健君が好きだという海老のマヨネーズ和えも入っているのです!徹君のリクエストはとりあえずお肉でした。


 体育祭なのでジャージ登校可となっているのでジャージに着替えていざ登校です。



 ◆◆◆◆



 星方学園の体育祭は3学年対抗形式となっている。

 徒競走、二人三脚、障害物競争、大縄跳び…各種目を学年ごとの代表が出て点を競うものだ。全員1種目は強制で私は愛ちゃんと玉入れに出る予定だ。…玉入れはあぶれた人の漂流地でもあるのだ。


 玉入れは午前にあるので私は早々に役目を終え、クラスメイトと応援へと徹していた。


「莉乃ー次騎馬戦だってー理人さん出るんだよね?」

「うん騎馬で出るって言ってたよ」


 愛ちゃんと雑談しながら準備を始めている出場者を見る。この体育館は学校のものではなく近所の体育館を借りていて、観覧席が2階部分となっているので全体を見まわしやすい。

 3年生の中からお兄ちゃんを見つける。改めて見るとやっぱりカッコいいなぁ。


 そのまま他の出場者も眺めていると1年2年の中にも知っている顔がいた。健君と私が避けるべき対象、攻略対象1二楷堂結城。

 健君はいつものパーカーを脱いで騎手の鉢巻を巻いている。こうして見ると健君もイケメンだな。さすがお姉さま方を嘆きの海へと落とした子だ。(ゲームファンでの話です)


 二楷堂結城も見た目はカッコいい。王道王子様系だから女子人気も高い。残念ながら私の好みではないけれど。

 そんな失礼な事を考えていたせいなのか、二楷堂結城が顔を上げて2年生の観覧席を見上げる。あれ?目合ってる?これってライブとかでの目が合ったのよー!という願望混じりではなく本当に目がばっちり合ってる?


 見つめ合うこと数秒。愛ちゃんに話しかけることで現状打破すると騎馬戦開始のアナウンスが流れる。


「……変な汗かいた」


 そっと額をぬぐった。




 ◆◆◆◆




「お兄ちゃーん」


 待ち合わせしていた出入口付近の休憩スペース。数少ない机を囲んだ4人席をお兄ちゃんと徹君が場所取りをしてくれている。

 家から持ってきた1リットル水筒と紙コップ。そしてお兄ちゃんが持ってきた重箱。ちゃんと紙皿と割りばしも用意している。さすがに重箱を持っている人は他にはいないので視線を感じる。


「いやー悪いな理人莉乃ちゃん。俺の分まで作ってくれてさ」

「莉乃も言ってただろうけど3人分よりいっそ4人分の方が作りやすいからいいぞ。貸1な」


 貸1は別にいいのだろうか。


 ぬるい緑茶を飲んでいると観覧席への階段から健君が下りてきた。騎馬戦時は脱いでいた学校指定ジャージの上着を着ている。いつもパーカーのフードを被っているからフードがないのが新鮮だ。

 私の斜め向かいの席に健君が座ると重箱を開ける。1段目は卵焼き、からあげ、ほうれん草の肉巻き、海老のマヨネーズ和え。2段目には野菜の胡麻和え、昨日の多めに作った煮物と冷凍食品のクリームコロッケ。3段目にはおにぎりがびっしり詰められている。隙間には全段キャベツの塩昆布和えを埋めている。品数は多くないけどそれぞれの数を多く用意している。


「おおー」


 健君徹君の千羽兄弟から感嘆の声が上がる。ふふふ、すごいでしょう!食べ盛りの男子高校生3人+1で何を用意したらいいか悩んだけどその反応だけでも頑張ったかいがある。


「お茶は飲みやすいように温いからなー篠原家の伝統だ。数に決まりはないから好きなだけ食べろよ」

「それじゃあ、いただきます」


 パキッと音を立てて割りばしを割る。まずはおにぎりを1つ紙皿の上に乗せる。握ってもらって申し訳ないけど箸で崩しながら少しずつ食べるのだ。そのまま朝揚げたからあげを食べる。2度揚げだから冷めてもしっかり味が染みていて我ながら美味しい。


「美味しい」

「2人も料理上手だな」

「まあ基本俺達が作ってるからな」


 お母さんがホテルのレストラン勤務で朝と夕方は仕事をしているので、両親の負担を減らす為に私達兄妹が食事を作るようになっていた。

 健君が海老に箸を伸ばす。思わず手が止まって見つめてしまう。そのまま口へと消える海老を見ていると健君が顔を上げて目が合う。


「どうでしょうか」

「凄く美味しい」

「よかった」


 ほっとして食事を再開する。横に座るお兄ちゃんがにやにやしていたので肘で突いておいた。








「そういや莉乃ちゃんは何に出るんだ?」


 重箱の中身がほぼなくなったけどまだ食べている徹君が聞いた。ちなみに健君もまだ食べている。私とお兄ちゃんは既に食べ終えてお茶でリラックス中。


「午後1番の玉入れに友達と出るんです。徹君は何に出るですか?」

「ん、俺は綱引きと大縄跳びの縄係」

「健はさっき騎馬戦出てたよな。もう終わりか?」

「ううん、最後のリレー出る」


 リレーは学年対抗ではなく教師対生徒となっていて、生徒側は各学年から代表者3名が出て1年→2年→3年と繋ぐ形だ。


「健君ってそんなに足速いんだ」

「走るのは得意だから」


 ぱくぱくと消えている料理。夏祭りの時も思ったけどいい食べっぷり。残った煮物を2人が食べ終えると重箱は綺麗に空になった。


「いやーうまかった」

「美味しかった、ごちそうさま」

「はいお粗末様。2人ともまだ食べれるか?莉乃が菓子も作ってきたからさ」

「マドレーヌでーす」


 これは昨日のうちに作っておいたのだ。生地をつくって型に入れて焼くだけなのでそこまでの労力はかかっていない。各2個ずつ当たるように8個作ってきている。私はお腹の余裕的に1個は愛ちゃんにあげよう。


 そして!ここで本題!重箱を入れてきたランチバックからマダレーヌを入れた容器を取り出す。それとは別に小さな容器。


「健君」

「は、はい」

「どうぞ」


 小さな方の容器を渡す。中に入っているのはガトーショコラ。

 容器を開けた健君が固まる。数秒の停止の後に勢いよく顔を上げて私と徹君を何度も見比べる。


「徹君から前に渡したの健君食べられなくて残念がってたって聞いて、代わり映えしないけどよかったら食べてね」

「……あ、ありがとう」


 健君の顔が赤く染まっていく。あ、これなんか私も恥ずかしい。顔に熱が集まるのがわかる。

 ……って!真横にお兄ちゃん!向かいには徹君!!

 気づいた瞬間別の意味でも恥ずかしくなった私と健君は同時ににやにや顔の兄達に攻撃をしていた。



 マドレーヌは高校生男子には軽かったのか3人ともぺろりと食べ切った。健君は更にガトーショコラを2個食べ切っている。健君見た目に反してほんとよく食べる。これが痩せの大食いというものか。


「莉乃先輩りひ兄、お弁当とお菓子美味しかったです。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ夏祭りは本当にありがとうございました」


 油断するとにやにやするお兄ちゃんの脇を狙いつつ健君と頭を下げ合う。一応これで本来の目的夏祭りのお礼というミッションはクリアしたはず。クリアの代わりにとても気恥しい。まだ顔が熱い。


 重箱とお菓子を入れていた容器を片付ける。そして、彼はやってきた。


「千羽先輩こんにちわ」


 温かかった頬の熱が一気に下がる。


「篠原先輩と…ああ1年の千羽君と」


 顔を上げる。そこには知った顔がいた。


「2年の篠原さんだね、こんにちわ」


 二楷堂結城。「星学」のメインヒーローである攻略対象。彼がいる。話しかけている、私に。いや違う、徹君にだ。

 それを理解した瞬間詰めていた息を吐き出せた。


 二楷堂結城は2年生だけど生徒会長。1年の時も生徒会で健君も2年までは生徒会だった。だからの挨拶、私へのものじゃない。


 会話を聞き流しながら、目立たないように息をひそめる。

 こんな展開は知らない。夏休み明けの担任交代も、体育祭からの二楷堂結城の接触も「星学」ではなかった。


 これは現実。この世界では、どこまで“自分”の知識は役に立つのだろう?



体育祭で近所の体育館を借りて行う…これは木林が通っていた学校のガチのお話です。屋内で快適で観覧席も椅子でよかったのですが学校よりも遠くて行くが大変だった思い出です。

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