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夏祭りイベント勃発!

今までより長いです。現在舞台乙女ゲーに夏祭りは必須ですよね!

 

 8月1日。

 それは星方学園の夏休み初日。そして「星方」ルート解放必須イベント終了翌日。


「勝った……さよなら修羅場。今日は赤飯ね」


 自室でそっと涙を拭った朝であった。

 その日の夕飯はお兄ちゃん希望のミートスパゲッティだった。



 ◆◆◆◆



「夏祭り行くぞ!」


 夏休みの宿題をしているとノックもなくお兄ちゃんが飛び込んできた。思わずフリーズする。

 あったなー夏祭りの花火イベント。


「行くー」

「よし今晩だ!」

「わー唐突ー」


 笑顔で返しつつ衣裳部屋に向かう。季節外の家族の衣服をまとめて仕舞ってる部屋から引き出したのは浴衣。黒地に青色の山茶花のプリント。帯は白地に銀刺繍。既製品だけれど3年前に買ってもらったお気に入りだ。お兄ちゃんのは祖父から譲り受けた紺色の縞模様。


「星学」のイベントでも誰ともルート開放イベントを行っていない、好感度が規定値より低いと兄妹でそのイベントへと行くことになる。

 余談だけど篠原家は兄妹仲がとても良い。こうして一緒に夏祭りへと行ったり時期イベントを友人ではなく兄妹でさらりと共にするくらいには仲がいい。


「あ、携帯充電切れそう」


 そんなお兄ちゃんの言葉を聞きながら、私は下駄の入った箱を引っ張り出していた。



 ◆◆◆◆



「理人?」

「あれ徹じゃん。そっちも夏祭りか?」


 目の前で偶然にも会った親友の会話。

 それをすぐ横で見ながら私は固まった笑顔をこれ以上引きつらせないように頬に力を込めていた。


 篠原家と千羽家は近い。徒歩10分圏内の近さだ。

 なので幼少期の遊び盛りに向かう公園が同じなら、向かう夏祭りも同じだ。丁度夏祭り会場は篠原家と千羽家の間の位置にある。


「莉乃ちゃんも久しぶりだね。健の入学式以来かな?」

「はい。徹君お久しぶりです」


 向けられた笑顔と声に体が震えそうになるのを堪える。


 ここでもいい声ーー!!笑顔が爽やかーーー!!

 元柔道部なだけあり、薄い夏服の上からでもしっかりとした筋肉がついた逞しい体つき。

 ワイルド系の容姿に本来ならドキドキ胸が高鳴るはずだが、今私の胸は冷や汗を伴った恐怖のドッキドッキ中だ!


 ルート解放必須イベント期間終わったけど、ここから新たな開放イベントないよね?ゲーム通りなのか、はたまた違うのかの予測は放棄したけど別イベントの危険があるなら別だ!

 徹君ルートの修羅場は元カノとのキャットファイトにまで発展するのだ。嫌よ殴り合いなんて、女の子の腕力でも全力なら痛いのよ。爪怖いし。


 徹君の声・容姿・性格は攻略対象の中で1番好き。でも修羅場を乗り越えてまでの愛はないのよ。

 もし“自分”がゲームでも恋をするタイプなら違ったかもしれない。でもあくまで“自分”は壁なのだ空気なのだ。萌えと恋は別なのよ。まあ萌えに走りすぎてその結果がお一人様なのだったけれど。

 そして莉乃としては久々に会った徹君を憧れはあるけど恋心まではいかない。


 なので今下手な接触で修羅場突入(ルート開放)の危機は全力回避の一択!!


 そしてその回避先は徹君の真横にいた。


「健君も学校以来だね!」


 いつものパーカーを被った健君へと視線をずらす。


「あ、うん。久しぶり」


 少し驚いた様子の健君。でもそんな事を構っている暇はない!


「そういえばね健君、モンゲでハネドラゲットできましたー」

「おめでとー」


 すぐにゲームへと話題をふる。徹君はゲームはやらない筈だ。

 そのままお兄ちゃんと徹君は前、私と健君は後ろと2人ずつに歩き出す。計画通り!


 ゲーム談議をしながら、かぽかぽと下駄の足音を立てながら歩く。普段よりもゆっくりとした歩調なのに健君は先に進まずに会話が終わっても同じ速度で歩いてくれる。

 何も言わないけれど優しさに心がほんわかする。


「健君ありがとう」

「え?何が?」


 きょとんとする顔に頬が緩む。


「とりあえずありがとう!」

「…どうも?」


 温かい優しさに私はまた微笑んだ。







 ………そんな温かさから十数分後、私は道の端で1人フルーツ飴を齧っていた。


「お掛けになった電話は現在電源が入っていないか電波の届かない場所に…」


 祭り会場に着いた後、賑わう人の中はぐれないように進んでいたけれど並ぶ屋台の中思わず足を止めた。

 フルーツ飴の屋台。夏祭りの時しか買えないフルーツ飴が好きなのだ。


「お兄ちゃん、飴買ってきてい、い?」


 屋台に目を取られた数秒間。前を向きなおすと、お兄ちゃん達は人の波に消え去った。



 すぐに購入したキウイのフルーツ飴を齧りながらお兄ちゃんの携帯へ電話をかけた、が。


「お掛けになった電話は現在電源が入っていないか電波の届かない場所に…」

「なんで電源切ってんのー」


 繋がらない携帯に嘆いているとふと思い出す。


『あ、携帯充電切れそう』


 おにいちゃーーーん!!ベタな忘れ物をしましたな!!でも家の鍵はお兄ちゃんのお財布の中だ!帰れない!!


 …どうしよう。この人混みの中動いて見つける自信はない。でもお兄ちゃんは繋がらない。徹君の番号は知らない。となると。


 登録電話番号の中探し出したのは千羽健。


 番号を知ってから初日以降、今までかけた事のない番号の発信ボタンを押す。電子音が耳に響く。途切れたのは数コール目。


「はい」

「健君?莉乃です」

「莉乃先輩、どこ?」

「フルーツ飴の屋台近く」

「僕が行くからこのまま待ってて」

「え?健君達の方に行くよ」

「…ごめん、僕1人なんだ」

「…お兄ちゃん達は」

「…そっちにもいないの?」

「うん」


 おにいちゃん達ーーーーー!!弟妹を見てーーーー!!


 カリカリと飴を食べ進めて落ち着かせる。

 そういえばまだ焼きそばとかのメイン系食べていないからお腹空いたな。お好み焼き食べたいな。


「莉乃先輩」


 食べ終わった飴の串をゴミ箱へ捨てていると健君がかけてきてくれた。


「健君、よかった」

「ごめん。はぐれてすぐに気づかなくて」

「ううん。私こそごめんね」

「そしてここまで戻ってくる時もとお兄達いなかった」

「そっか…お腹空かない?」

「空いた」

「とりあえず何か食べよ」

「あ、焼きそばとかの屋台もう少し先にあった」



 着いた屋台は焼きそば、お好み焼き、たこ焼きとソースの匂いが満ちる屋台。飲食用のテーブルも隣接している。ありがたい。

 私はお好み焼き、健君は焼きそばとたこ焼きを手にテーブルで向かい合っていた。


「この人混みの中見つけるのは無理だよね」

「とお兄なら人混みの中でも頭飛び出るだろうけど…」


 徹君は180cmオーバーの長身だ。お兄ちゃんも170cmは超えているけど徹君と5cmは差がある。

 それに対して私は163cm。平均だけど人混みでは埋もれる。


「…因みに健君は?」

「…………157」


 とても嫌そうにぼそりと返される。やっぱり身長気にしてるのか。


「うーん。やっぱり私達じゃ見つけるのは難しそうだし、せっかくだし一緒に回ろうよ。それで見つけもらえばいいんじゃないかな?とゆうより正直お兄ちゃん達を捜す時間で屋台見たいの」


 自分の欲求優先だ!断られたら諦めるけど。


「…いいけど」

「わーい」


 食べ終えたパックと割りばしを捨てると来た時と同じように並んでゆっくり歩きだす。

 夏祭り特有の熱気と離れた場所からの太鼓の音の中はぐれないようにと。



「あ、健君ヨーヨー釣りやっていい?」

「ん」


「莉乃先輩、大判焼き買うから待って」

「あんこー」


「射的って難しいよね」

「やったことない」


「イカ焼き買ってくる」

「私向かいのクレープ買うね」


「型抜きも難しいよね」

「型抜きおいしくない」





 ぼんっぼんっ、と手に響く水ヨーヨーの独特の感触を楽しみながら横の健君を見る。


「健君って意外とよく食べるね」

「そう?」

「お兄ちゃんやお父さんより絶対食べてる」


 なのに細い。男の子は不本意かもしれないけど羨ましい。今も先ほど買った巨大フランクフルトを食べている。よく入るな。


「あ」

「ん?なーに?」

「モンゲのくじ引き」


 人だかりができているのは一面にモンスターゲッターのグッズが置かれている屋台。

 近づくと団体だったのか、一気に小学生達がはける。覗き込んだ私は瞬間的に健君の腕を掴んだ。


「健君健君!ハネドラのぬいぐるみが!」


 目玉なのか屋台の中央には私の上半身くらいある大きなハネドラのぬいぐるみ。めちゃくちゃかわいい!!


「お、お姉ちゃんもハネドラ狙いかい?」

「おじさん、これは景品ですか?」

「もちろん。この中から引いた番号に合わせての景品だ」


 明るいおじさんが口が窄まった箱を振る。中からカラカラと軽い音がする。

 1口500円。安くはないけどぬいぐるみ以外の景品もペンにノート、大き目の収納ケースや小さめのフィギュアまで幅広くある。


「おじさん4口!」

「はいまいどー」


 ハネドラのぬいぐるみには1番の札がつけられている。狙うは1番!もちろん他でも可!!


 箱の中にはピンポン玉のような丸い玉が入っている。表面はつるつるして当然ながら番号はわからない。

 一気に4個は持てないのでまずは2個取り出す。

 取り出した玉にはそれぞれ31と9。


「ノートとキーホルダーだ」


 再度手を箱に入れて1つ取り出す。


「15、ミニフィギュア」


 最後の1つを吟味して取り出す。数字は!?


「28、クリアファイル」

「うん、そんな当たらないよね」


 ノートとクリアファイルの柄は1種類。キーホルダーとミニフィギュアは数種類の柄の中から1つ選ぶ形なのでゆっくりと吟味する。


「おじさん、6口」

「はいよー」


 選び終えるとほぼ同時に健君がお金をおじさんへ渡す。


「健君は何狙うの?」

「アラクネのアクキー」


 アラクネは名前の通り蜘蛛のモンスター。ただ虫の蜘蛛の姿ではなく、妖艶な女性で背中から蜘蛛の足が生えている姿だ。

 これも幼体があるがプニプニした幼女でこれまたかわいい。健君の指さすアクキーは幼体だ。


 無言のまま健君が箱から玉を取り出す。一気に3つ取り出した。

 9と10と30。キーホルダーとボールペンとピルケース。


「あと3つ頑張れ」

「んー」


 もう一度健君が3つ取り出す。14と20と、1。


「あ」

「あ」

「おお」


 おじさんがすぐにハンドベルをガランガランと鳴らす。


「おおあたりー!お兄ちゃん見事1番ーー!」

「健君すごい!」


 14と20はパスケースと下敷き。ぬいぐるみ以外を袋にまとめて受け取る。


「はいよ、1番目玉景品おめでとさん」


 透明な袋に包まれたままのハネドラぬいぐるみが手渡される。


「健君1番おめでとう」

「…うん」


 健君の表情が固い。狙いのアクキーゲットできなかったからかな?


「莉乃先輩」

「はい」

「あげる」


 押し付けるようにハネドラぬいぐるみを渡される。

 思わず受け取るけれど、戸惑いながら健君とぬいぐみを何度も見比べてしまう。


「え?ちょっ?」

「莉乃先輩欲しかったんでしょ?」

「そうだけど」

「僕そこまでだからいいよ」

「え?でも」

「おーお姉ちゃんやさしい彼氏だなー」


 2人同時にくじ屋のおじさんを見る。健君首まで赤い、私の頬が熱くなるのがわかる。


「は?ちょっと違う!」

「そう!おじさん健君に失礼!」

「いやー初々しいなー。おっさんも若い頃はなー」

「いや聞いてよおじさ」


 健君の声を遮るようにひゅるーと高い音が空に響く。ぱっと花のように光が開いて落ちている。


「花火、健君花火!もっと見やすいとこ行こ!」

「え?ちょっと莉乃先輩」

「おじさんくじありがとうございました」


 健君の腕を掴んで屋台の脇を抜ける。抜けた先は広場になっていて木が少し遮るけど、だから人もそこまで多くなくて花火を見るにはうってつけだ。

 すでに先客はいるけれど、ここは花火からも少し遠いので大概の人はもっと近くで見れる、この先の橋へと向かっている。


「健君ここでいい?」

「いいけど…」


 話している間にも花火が上がる。色とりどりの光が空に広がる。

 花火を見上げながら両手に抱えたぬいぐみがずり落ちてくるので抱えなおす。


「健君ほんとにぬいぐみいらないの?」

「うん、僕より莉乃先輩が持ってるほうがいいよ」

「…ありがとう」


 花火を見上げる。顔が、熱い。

 ただ花火の音だけが響いていた。










「あ、莉乃いた」

「健も一緒か」


 花火が終わって橋から戻ってくる人波に飲まれないように広場の脇にいるとお兄ちゃん達が人波の中から出てきた。


「橋の方にいたんだね、見つからないよね」

「うん」

「お?莉乃ちゃんぬいぐみ当てたのか?」

「ううん、健君がくれたの」

「おー健ありがとな」

「りひ兄いいよ僕ぬいぐみはそこまでだったしだし」


 4人揃って歩き出す。いつの間にかまた前にお兄ちゃん達、後ろに私と健君の形になる。

 けれど行きと違って私と健君に会話はない。


 なんでか少し気恥しい。


「それじゃあな」

「さよなら」

「おーまたな」

「健君徹君も気を付けてね」


 分かれ道で2人とわかれる。

 お兄ちゃんと並んで歩く。


「楽しかったか?」

「うん」

「良かったな」


 お兄ちゃんに頭を撫でられる。


 少し恥ずかしくてぬいぐるみを抱えなおす。


 心が温かった。



余談ですが健は莉乃とはぐれたのに気付いて止まったら兄達とはぐれ。兄2人は弟妹がいないこと気付いたけど「まあいいか、その内見つかるだろう」でそのまま夏祭り続行。

こう書くと兄2人がひどい…(;‘∀‘)

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