1日目
もし自分の死期がわかったとしたら後悔のない生き方が出来るだろうか。何を考え残された時間をどのように生きるのか、そんなことを藤堂颯はクラスメイトである黒川天音と出会ってから考えるようになった。彼女と出会ったのは高校2年になってすぐのことだった。
「それじゃあ新しいクラスになったことだし軽く自己紹介でもするか。自分の名前と誕生日、あとは適当に好きなものとか。じゃあ出席番号1番からどうぞー。」
先生は軽く言うがやはり緊張しているのかなかなか始まらない。すると先生が
「あ、別に好きなものって言ったけど別に好きな人でもいいぞ?安心しろって先生本人には黙っててやるからさ」
言い終わると教室で笑いが起こった。さっきの冗談のおかげで緊張もほぐれたのか1番の子が前にでて自己紹介が始まった。
「えーっと、蒼山夏奈です。誕生日は5月3日で、好きな物は…」
そんな感じで順調に進んでいき、自己紹介は終わった。
「思ったより早く終わっちゃったな、まぁいいか。帰る時間まで結構あるし自由時間にでもするか、それぞれ友達と話しててもいいし寝ててもいいぞ。ただし、騒がしくして他クラスに迷惑だけはかけるなよ。」
そう言って先生は教室を出た。
最初はみんな少し戸惑っていたようだがだんだんと席を立つ人が出てきてクラスがざわざわし始めた。僕は特にすることも無かったから机に突っ伏して寝たフリでもしてようと思っていた。すると隣の席から声をかけられた。
「なぁなぁ、時間まで暇だしなんか話そうぜ。」
「え、別にいいけど、その…」
「あぁ、名前覚えてないとかか?」
「ごめんね、人の名前覚えるのが苦手なんだよ僕」
「別に気にすんなって。俺は立花慎太郎よろしくな。」
「あ、よろしく。僕は」
「藤堂颯だろ?なんかかっこいい苗字だったから覚えてるよ。」
「かっこいいって…普通だよ、普通」
「そうか?まぁいいや。そういや藤堂ってなんか部活とか入ってんの?」
「いや、帰宅部だよ。運動とか苦手なんだよね。立花はなんか部活やってんの?」
「俺はバレー部だよ。中学の頃からバレーやってたからな。」
「へぇ、そんなバレー好きなんだ。」
「まぁな、バレーしか出来ないって方が正しいかもしれねぇけど。」
「それだけ熱中出来ることがあるっていいことじゃん。」
「そうか?俺は勉強出来る方が全然いいと思うけどな。バレー出来たって将来役立つかって言われたらそうでもないし。」
そんな話をしていると先生が帰ってきた。
「他のクラスも早く終わって時間余ってるみたいだし、今日は早めに終わるかぁ。明日から通常授業だから教科書類忘れずに持ってこいよー。それじゃあ、気をつけて帰れよ。」
「なんか早く終わるっぽいな、ラッキーだわ。あ、そうだ藤堂お前携帯って今持ってる?」
「持ってるけど、それがどうかした?」
「アドレス交換しようぜ。学校からの連絡とか聞き忘れたら聞けるしってのは冗談で、藤堂ともっと話して見たいってのもあるし。」
「いいよ、ちょっと待ってて」
人から連絡先を聞かれたのは初めてで少し嬉しかった。手元にあったノートを1枚破って自分のアドレスを書いて渡した。
「はいこれ僕のアドレス」
「お、サンキューな、帰ったらメール送るわ。」
僕は立花と連絡先を交換してから教室を出た。立花は部活があるからと言って部室の方へ、僕は帰るため駐輪場へ向かった。
駐輪場まで来てから財布を忘れたことに気がつき教室に戻ることにした。駐輪場から校舎を見てみると屋上に人影が見えた。その人影が気になり、教室で財布を取ったついでに一度屋上を見てみることにした。屋上についてみると1人女の子がフェンスから身を乗り出し外を眺めていた。名前は覚えてないがおそらく同じクラスの人だ。
「こんなとこで何やってんの?」
急に声をかけられた彼女は驚いた顔でこちらを振り返り言った。
「びっくりしたぁ、心臓止まるかと思ったよ。」
「それはごめん。確か同じクラスだったよね?」
「そうだよ、黒川天音って言うんだ。よろしくね。えーっと…」
「藤堂颯」
「そうだ、藤堂くんだ。思い出した!」
「そういえばさっきなにしてたの?外見てたみたいだけど」
「あ、さっき?外見ながら考え事してただけだよ。ここから飛んだら気持ちいいだろなぁってね。」
「ここから飛んだらって、そんなことしたら死ぬに決まってるでしょ。四階建て校舎の屋上だよ?死にたい願望でもあるの?」
「そんなわけないじゃん。なにがあっても今日は私死なないからね」
「まるで自分がいつ死ぬのかわかってるみたいな言い方だね」
「まぁね、藤堂くんだけに特別に教えてあげるけど私人の死期がわかるんだ。」
「人の死期?人がいつ死ぬかわかるって言うの?」
「そうだよ、いつどこでどんな風に死ぬのかわかるの。」
「なに言ってんの?どっかで頭でもぶつけた?」
「ぶつけてないよ!!まぁいきなり信じろって言う方が無理な話だよね。」
「人の話を全部信用出来るほど綺麗な心持ってないからね僕は」
「んー、じゃあこれも藤堂くんに特別に話すけど明日同じクラスの蒼山さんのおばあちゃんが亡くなるの。だから明日蒼山さん学校来ないと思うよ。」
「黒川さんって蒼山さんと仲悪いの?それとも蒼山さんのおばあちゃんに恨みでもあるの?」
「仲悪くもないし恨みなんて無いよ!」
彼女が何を言っているのか全くわからない。全く変なことを言いそうには見えないのに本当に人は見かけによらない
「わかったわかった。蒼山さんが休むんだねそりゃ大変だ。」
「あ、全然信じてないな??」
「そりゃそうでしょ。いきなり人の死期がわかるなんて言い出す人の言うことを信じろなんて僕には出来ないよ。」
「まぁ明日になれば嫌でも私のこと信じるようになるよ」
「そうなること願ってるよ」
「あ、そろそろ暗くなってきたし帰ろうか。」
彼女に言われて気がついた。辺りはもうかなり暗くなっていて街灯がチラチラとつきはじめていた。財布を取りに戻っただけなのにこんなに遅くなるなんて思っていなかった。
「それじゃあね藤堂くん、また明日ね」
「うん、それじゃあ。」
彼女は屋上の鍵を返すからと言っていたので僕は先に屋上を出て1人駐輪場に向かった。
家に着き、ご飯や入浴を済ませ自分の部屋のベッドの上で今日1日のことを思い返していた。
「そういや、立花が帰ったらメールするとか言ってたっけ」そんな独り言を言いながら自分の携帯を見た。思っていた通り立花からメールが来ていた。
「明日って普通に授業なんだっけ?」
そんな感じのよくあるメールだった。なんでもないメールなのになぜか少し面白くて
「そうだよ、明日からいつも通り普通の授業だよ」と、メールを返した。立花から「サンキュ」と返信が来たのを確認したところで僕は眠りについた。
次の日はいつも通りの授業だった、ある一件を除いては…