二話 世界を救わないといけないらしい。
「えっと、俺今困惑してるんだが。一体これはどういう状況なんだ?」
人生で上位5位に入るくらい困惑してる。
目の前のやけに神々しい奴らは一体誰なのか。
そしてどこを見ても白いこの空間は一体どこなのか。
「そう身構えずとも良い」
真ん中の老人が言った。
その老人は腰まで伸ばした白髪を一つに束ねており、白い着物のような格好をしている。
あと髭もかなり長い。
それにしてもまさか異能力をいつでも発動出来るようにしていたことがバレるとは。
「ここは天界。神と天使が存在する空間じゃ」
なるほど。天界か。
ならばこのただただ白い空間にも納得がいく。
だが何故クラスメイトがいないんだ?
それにこの老人とその一行の正体も気になる。
ノベルと同じような展開ならば神だというのが無難な答えか?
「その顔はまだ気になる事があるような顔じゃな」
そんなの当たり前だろう。
「ふふん。そんなに儂らの事が気になるのか? 良かろう。儂らは第065223世界【ヴォルガント】を束ねる神じゃ。お主とそのクラスメート達は今、【ヴォルガント】の王都であるセントリア国という国に異世界召喚されたのじゃよ。皆には勇者として特別な力が与えられ、世界を救う役を担っておる。ちなみに儂らは神じゃぞ?」
なんでこんな得意げなんだこいつ?
「ほーん。で?」
「え?」
「ん?」
「え?」
「あ? なに?」
「えっと……それだけ?」
は? 何がだよ。
ちょっとこの老人……もうじじいで良いかな。
このじじいよくわかんないし心覗く異能創ろ。
体力足りるか?
一応創っとくか。
「異能創造
追・複数創造
コマンド:無限体力
コマンド:真心絶可視」
いやこれかなり最強な気がするんだけど。
俺の異能力チートでは。
まあまだ真心絶可視は使わなくて良いかな。
「なんじゃ? 何を言ったのじゃ? 何語なのか全く分からぬ……」
「いや分かんねえのかよ」
仮にも神なんだから異能言語くらい知ってるものだと思っていた……。
まあ異世界の神らしいし、知らないのも当然っちゃ当然か。
「これは異能言語だ」
「ぬぬ、そんなのもあった気がする」
知ってたのに覚えてないのかよ。有罪な。
「それでなんじゃ。こんな時に異能発動しよって。何かあったら大変じゃろう。全く物騒じゃのう……」
「神なんだから何とかなるだろ」
「え?」
「は?」
駄目だこいつ全然話が通じねえ。
それに横に突っ立ってる奴らの説明もして欲しいんだけど。
と、そこでじじいの右隣にいた紫のローブを羽織った黒髪のロリが発言する。
「最高神様、そろそろお時間も迫ってきていますのでさっさとしやがれです」
おい明らかに上司のやつに使う言葉じゃない。
「ぐぬぅ…………仕方なかろう。状況説明といくかの」
遅いんだよ。さっさとしてくんないかな。
「まずは儂のことからじゃな。儂らは先程も言ったが第065223世界【ヴォルガント】の神じゃ。そしてこの儂、ムルドは【ヴォルガント】の最高神。いっちばん偉いのじゃ。崇め奉るが良い!」
「うっさいですね。一々関係ない事言わないでください」
「うぐっ……」
再び紫ローブのロリが言う。
じじいが半泣きだがそこはスルーの方向で。
「私はニカ。魔を司る神。魔力とか魔法とかに特化している。よろしく」
紫ローブのロリ神──ニカが言った。
てかさっきから思ってたんだがずっと真顔だなこの人。
表情筋死んでない?
「次は私ですかね?」
じじいの左隣にいる女性が言う。
なんて言うか……神々しい。凄い神々しい。
ピンクが基調のドレスを着ていてかなりの美人。
金髪蒼眼でもうなんか凄い美人。
あとナイスバディ。
「私はリィン。美を司る神です。以後お見知りおきを」
美を司る神……。
確かにそれっぽいな。
「俺は───」
自己紹介が終わった。
全員の事を覚えたが、一応整理しよう。
まず、真ん中のムルドに右隣のニカ、左隣のリィンにその更に左が武神リュウガ。
その隣が商業神トリス、双子の創造神ツクリと破壊神ツクラ。
ニカの隣が生神シイナ、その隣が死神ソルス、遊戯神リアス、食神イトリと並び端に邪神のセトだ。
並び順を分かりやすくすれば、
破壊、創造、商業、武、美、最高、魔、生、死、遊戯、食、邪
このようになっている。
それにしても神だからなのか知らないが、だいぶキャラの濃い人達のようだ。
例えば創造神ツクリと破壊神ツクラの二人組。
「ねえねえツクラ〜!」
「なぁに? ツクリ」
「今日はなにして遊ぶ?」
「今日もやっぱり」
「「いろんなものでつみきごっこだよね〜!」」
「楽しみだね、ツクリ!」
「そうだね! ツクラ!」
と、このようにショタ二人組である。
ちなみに積み木ごっこは危ないからと商業神に止められていた。
一体何を積むのだろうか……
他にも例えば死神ソルスと邪神セト。
この二人、少なくとも地球のラノベでは悪いイメージだったのだが、和気藹々と言葉を交わしている。
「地球では僕達のイメージが悪くて困っちゃいますね、セト」
「そうだね、ソルス。私達は悪いものに最低限の抑制を掛けたり死の管理をしたりしているだけで、私達が邪悪な訳では無いのにね」
「困っちゃいますねぇ〜」
「困っちゃうねぇ〜」
なんだこのほんわか空間。
「それで自己紹介が終わったところでお主に頼み事がある」
「嫌だ」
「まだ何も言っとらんわい……」
ムルドが泣きそうな顔をする。
俺は分かるんだからな。それが演技だということを。
「それでじゃな、頼み事というのは────
儂らの世界を救って欲しいのじゃ」
「ゑ?」
状況が理解できない。
ただ、俺はとてつもなく面倒なことを頼まれている。それだけは分かる。
「なんで俺なんだ?」
「その力じゃよ、トオルよ」
力、とは俺の異能力のことだろうか。
「その力は強力すぎる。儂らの世界に容易に送ってしまえばヴォルガントの世の理も崩れかねん。ならばいっその事儂らの協力者にしてしまえば良いと思ったんじゃよ」
自分たちの世界の存続の危機だと言うのに軽いなこのじじい。
「どうじゃ、この話受けてはくれんかの?」
ムルドが俺を見つめる。ちょっときもい。
他の神々もいつの間にか談笑を止め、こちらを窺っている。
そうか。それならば。
俺の答えはただ一つだ。
「だが断る」
…………
神界に静寂が漂う。
断られるとは思っていなかったのだろう。
第一、そんな面倒くさそうな事、誰がやるかっての。他の奴にしてくれ。
「じゃが、お主がやらんと最悪世界が滅びるのじゃよ」
ムルドが困った顔をする。意外と重いなおい。
「なんで滅びんだよ。俺のクラスメートもいんだろ?」
「いるがな……」
「なにが問題なんだよ」
するとムルドは気まずそうに言った。
「実はだな、お主らが召喚されるセントリアの国王は私欲のためならば何でもするような男なのじゃ。ヴォルガントには複数の種族がいてな、魔族という魔法の扱いに長けている種族もいるのじゃが……セントリアの勇者召喚は魔族の力を手に入れるためだけのものであって、国王はその勇者達をも洗脳で支配しようとしておる。魔族も戦争をけしかけられてイラついているし、このままでは大規模な戦争によって世界が滅びるやもしれん。しかし儂ら神は下界に手出しは出来ん。つまり、非常にまずぅい状況なのじゃ」
ここに来てかなり真面目な話をしてきた。
「そうか。大変そうだな」
「だからお願いじゃ! ヴォルガントを、儂らの世界を救ってくれ!」
ムルドが頭を下げる。
勿論真剣な顔でこちらを見ていた他の神々も。
てか、神ってそんなに簡単に頭下げていいもんなのかよ。
「なあ、じじい。俺はな、自分に得のある事しか興味が無いし、見ようとも思わない」
ムルドがぐっと歯を食いしばる。
「でもな、俺は楽しいことが大好きな性分でな。つまり何が言いたいかって言うと……俺を楽しませるようなモノを見返りとしてくれ。さすればこの異能力者、矢崎透がヴォルガントを確実に救って見せよう」
ムルドがハッと顔を上げる。
「そ、それは……」
俺はニヤリと笑い、ムルドに顔を近づけ、そして言った。
「さて最高神よ、何を代償とし、この俺を使役する?」