一話 矢崎透は異能力者。
初投稿です。
超絶不定期投稿注意!!!!
西院高校の二年で矢崎透と聞いて首を傾げる者はいない。
それは恐ろしいからでも、高スペックだからでもない。
では何故有名なのか。
単に、学校一の地味男でヘタレだから。
それだけだ。
長い前髪で隠れた目と、キッチリと着込んでいる制服。
おまけに話し掛けられると物凄くキョドる。
だからか入学当時、透が学校内の素行が悪い生徒達に目をつけられるのは時間の問題だった。
とある日、昼過ぎ。
教室の隅にいるのは、俺、矢崎透とガタイの良い男四人組だ。
その場にいる教師はその行為を見えていないかのような素振りで授業を始め、他のクラスメイトはただ黙って座り、面白おかしそうにチラチラとこちらをうかがっている。
まったく悪趣味である。
クラス内ヒエラルキーにおいて最下層となった者を標的と定め、ヒエラルキーの上層に存在する者達はそれらを蹂躙する。
いじめは無くなることのない連鎖だ。
例えば今の俺の現状。
ガタイの良い男共がよってたかって弱者(笑)である俺を囲み、殴り蹴るをひたすらに繰り返しているのだ。
最早奴等はその行為、いじめを隠す気はないようだ。
素晴らしい度胸である。
俺が直々に誉めてやらん事もない。
なんて考えてもみるが生憎俺はそこまで自分を偉いとも思っていないので、馬鹿馬鹿しいと思考を投げ捨てた。
「うっ! や、やめてください! い、痛っ!」
「なに言ってんの? 地味男風情が口開いてんじゃねぇよ!!」
「すいません……! すいません!」
尚も殴り蹴るを繰り返している男四人。
まあ、止めないこと位分かっていた。
これが我がクラスの日常光景なのだから。
だが奴等は知る由もない。
虐めの痛みなど俺にとっては赤子に殴られたくらいの痛み……否、それよりも圧倒的に痛みは無く、一切のダメージも受けていないということ。
一人称は僕ではなく俺だということ。
地味男ヘタレという性格は表だけの性格だということ。
そして……
俺が異能力を保持している、異能力者だということを。
一応異能力の説明もしておこう。
俺に暴行を加えている奴らはまだ飽きないようだしな。
適当に呻き声でもあげてりゃ良いだろ。
俺の保持している異能力は、異能力を創造する能力だ。
創造といっても、なんでもできる訳ではない。
創造には制限がある。
その制限とは、体力。
創造は創る異能力が大規模であればあるほど体力が必要なのだ。
簡単に言えば、異能力創造は体力に変換されるということ。
つまり、体力があるほど、それに応じた規模の異能力を創造することができる。
この学校中の人間を全員、一瞬の内に殺すことも可能だ。
そんな事を勿論知る由もない男共は暫く暴行をした後、満足したのか自分の席につき、各々のスマホをいじり始めた。
教師は勿論その行為を注意しようとしない。
俺は口などに負っている傷を治すため、教室を出た。
そして授業の為に誰もいない廊下で俺は呟く。
「異能力解放」
脳内でカチッと音が鳴る。
俺の保有している異能力が制御状態から解放状態になった証だ。
異能力を使うには異能言語を必要とする。
日本語とはかなりかけ離れたそれは、地球上の誰が聞いてもどのような発音なのか使うことは疎か、聞き取る事すら不可能だろう。
「異能発動
コマンド:自己治癒」
その一言で俺の血液はみるみる傷口に戻り、傷口が塞がれていった。
自己治癒が終わると俺はひとつ欠伸を溢す。
「授業、めんどいな」
だが地味男である今の俺はサボりなんてしたらまた面倒なことになりかねない。
なので渋々教室に戻る事にした。
勿論傷が治っているのを見られると何か聞かれそうだから傷口があった場所には絆創膏を貼っておいた。
教室に入ると鋭く刺さるたくさんの視線。
鬱陶しいことこの上ない。
(帰りたい……)
なんて事を考えた刹那に、それは起こった。
キュィィィィイイイン……!
不可解な音が教室中に響く。
俺はふと床に何か光るモノがあることに気がついた。
これは……
「魔方陣だぁぁあ!!!」
クラスの誰かが叫んだ。
そう。
床に光るソレは、複雑な幾何学模様をした魔法陣だったのだ。
未知の恐怖からか皆がその教室から逃げようと試みるが、俺がそれを許さない。
まあこういうのはノベルとやらで読んだことがあるように扉は開かないものなのかもしれないが。
「異能発動
コマンド:絶対固壁」
誰にも聞こえないような声で呟く。
俺が異能力を使い、透明な壁で奴等を足止めしたのだ。
何をしても壊れることのない、見えない壁にクラスメイトはパニックに陥り、壁をバンバン叩いているという姿は実に滑稽だった。
(ふっ……いい気味だ)
俺はクラスメイトに見えないようにニヤリと笑った。
存外俺は腹が立っていたようだ。
まあ、見られる見られない以前にクラスメイト達はそんな余裕がないだろう。
もしかしたら死ぬかもしれないが、まあいいか。
どうせ、生きていたとしてもこの世界には退屈していた頃だろう。
家族もいないしな。
と、その時。
辺りはまばゆい光に包まれた。
目が開けると見えるのは、ファンタジー小説で定番の、ふんぞり返った王、そして周囲のクラスメイト達
……ではなく。
周囲にはクラスメイトの姿などなかった。
代わりにいたのは12人(?)の様々な服を着た変な奴らだった。
「誰なんだお前らは」
誰だこいつらは。
この状況なんなの?
誰か説明してください。
────この日、西院高校二年三組の生徒は教師を残し、集団で行方不明となった。
誤字脱字ございましたらお知らせ下さい。