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Vampire kiss  作者: 江藤樹里
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 ヴァーンには瞬きする暇さえなかった。


 リーズが骨と化していく右手で握った剣をロゼリッタとステファンに向けて進む。元々リーズとステファンの間にそんなに距離はなかったが、剣が更にその距離を縮めた。


 リーズが本当にロゼリッタを刺すことを躊躇っていないことはその目を見れば分かる。ステファンの目がそれを悟ってわずかに動揺した。


「……伏せろ、ロゼリッタ!」


 叫ぶリーズの声が、部屋と言わず階段にまでも響き渡る。リーズがそんな大声を出すなどステファンは思っていなかったからか、左手からすり抜けるロゼリッタの腰を抱き寄せ損ねた。


 だがロゼリッタの高く掲げられたままの右手まで放されることはなかった。その為ロゼリッタはまるでダンスのターンのようにステファンと自分の右手を軸にして回り、ステファンの正面を空ける。リーズがステファンに剣を突き刺せるように。リーズさえ何が起きたか分からぬまま、ただ赴くままに剣をステファンの首を狙って前に出した。


 一瞬、その状況にロゼリッタ以外が目を見開いた。その全てが瞬きすらできない一瞬のうちに起こっていた。


 リーズはステファンの首を狙って剣を突き出したが、それが首を通過することはなく、左肩を貫いただけだった。ステファンは痛みのあまりロゼリッタの右手を放し、剣を抜こうと暴れ出す。ロゼリッタはステファンやリーズから離れると後退し、部屋の角まで行くとペタンと空気が抜けるように尻餅をついた。


 長い螺旋階段を数人が駆け上がって来る。ステファンの物凄い絶叫に気付いたのかもしれない。リーズは駆けつける足音と声を聞きながら、力の入らない体全体で剣を抜こうとするステファンの半身を押さえつけていた。その間もヴァーンが覆おうとする窓から入る陽差しに肌を焼かれながら。


「リーズ公爵! これは一体!?」


 エリーゼが寄越してくれたのか、ウッブズが困惑した様子で入口付近に倒れている見知らぬヴァンパイアを見て声をあげた。しかし乙女の部屋で左肩に剣を刺され血を流し暴れているステファンと、それを押さえつけている主君のリーズを見て言葉を失う。


「話は後だ! ステファンを捕えろ! それからリーズの手当てとロゼリッタ嬢を安全な場所へ!」


 窓際から声を張り上げウッブズに指示を出すヴァーン自身も肌を焼かれ始めていた。


「癒療魔法使いをノワール中からかき集めろ! リーズを優先的に治せ! それからウッブズ、君が信頼出来る者を必ず三人ロゼリッタ嬢の護衛につけろ! 何なら君がそのうちのひとりでも良い、リーズが動けるようになるまで彼女から目を離すことは許さん!」


 いつも余裕を持つヴァーンが切羽詰まったように指示を出していく。リーズは段々と気が遠くなるのを感じていた。



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