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第6話 トイレって難しい

 結局俺はそこで、四セットの下着を買った。さっそくの大出費である。

 次は服だ。もう全身コーディネイトだ。

 予算は限られているので、リーズナブルなところがいい。

 ということでやってきました。言わずと知れたウニクロです。


 しっかし改めて女性物の服を観察してみるといろいろあるもんだ。

 男性物には存在しない服も多数あるので当たり前だ。男性用ワンピースとか聞いたことないし。

 いやだから今まで着たことないワンピースを薦めるのはやめれ、佳織よ。


「はい、試着ね」


 有無を言わせぬひとことである。

 しぶしぶフィッティングルームへと持って行くが、なんだこれ、着るのめっさ楽だな。

 すでに下着で辱めを受けた俺からすれば、ワンピースなんてなんのこたぁないのだよ。楽勝楽勝。

 しかし股間がすーすーするわ。何この頼りなさは。やっぱりズボンはねーのかよ。


「はい? 別にワンピースの下にスボン穿いてもいいわよ?」


「ナンダッテ!?」


 そんなことをしてもよかったのか!?


「いや、普通にそういう格好してる女の子いるじゃない」


 言われてみて周囲を確認してみるが、確かにそういった女の子はちらほらといるようだ。

 だがしかし、それでいいのか! 少なくとも男はそれで喜ばんぞ! この俺が断言してやろう!


「そうだな……」


 とは言えやっぱり股間がすーすーするのは勘弁だわ。

 まぁそのうち慣れてからだな。

 あれだ、普段ブリーフを穿いていた人間が、トランクスに変えた時の違和感と似たようなもんだ。

 穿く機会があれば慣れるだろう。


「しかし……、ちょっと買いすぎじゃねーか?」


 買い物かごを俺と佳織でひとつずつ持っているのだが、もう両方とも俺の服でいっぱいだ。


「ゼロから揃えてるんだから当たり前じゃない。……というかまだ足りないわよ」


「ナンダッテ!?」


 本日二回目だ。しかしこれはまずい。これで足りるかどうかは置いておいて、今買おうとしている服はどうやって持って帰ればいいんだ?

 俺一人で持てる気はしないぞ。少なくとも佳織にも持ってもらわないと。


「持って帰れるのか……?」


 俺の言葉に自分の持つカゴと俺のカゴを交互に見やる佳織。


「……今日はこれくらいにしておきましょうか」


 だよね。

 それはともかく、こうしてまた俺の財布は軽くなっていくのだ。




「……なぁ、佳織」


 二人して両手に服や靴や小物などの紙袋を持ちつつモールの出口へと向かう道すがら。

 俺はとうとう耐えられなくなって佳織に声を掛けた。


「何よ」


 俺は両足をもじもじとすり合わせてなんとか耐えながら、佳織に白状する。


「トイレ行きたい」


「……行ってくればいいで――」


 俺の言葉に『何言ってんだコイツ』みたいな表情で言葉を口にするが、途中で俺の現状を思い出したのか最後まで出なかった。

 変わりに大きくため息をつくと、俺の要求通りにトイレへと行き先を変える。


「行きましょうか」


「おう」


 たどり着いたトイレには入口が三つあった。

 男用、女用、多目的トイレだ。


「なぁ……」


 俺は三つあるトイレを凝視しながら佳織に声を掛けていた。


「何よ……」


 佳織も俺が躊躇っている理由に気付いているのだろう。さっきから口数が少ない。


「俺はどれに入ればいいと思う?」


「……………………男以外ならどっちでもいいんじゃないかしら」


 俺の問いかけに長い沈黙ののち、苦いものでも吐き出すかのように苦悩の表情で答えが返ってきた。

 ……そうか。やはり男はダメか。


「どうせ個室に入るんだから、男も女も変わらないでしょ」


「……いやまぁそうなんだけど」


「さっさと行ってきなさいよ。限界だったんでしょ?」


 うん。限界だったんだけどね。さっきまでは。

 だけど実際にトイレの前に来たらなんというか。ちょっと耐えられるようになったというかなんというか。

 かといってここで時間稼ぎをしても無駄なのだ。


「俺だって自分の容姿からすると女のほうに入るほうが自然だってわかってんだよ。……ただ入り慣れないだけだ」


「……まぁそれはそうでしょうね。あたしも男の方に入れって言われたら絶対無理だし」


「……行ってくる」


「行ってらっしゃい」


 俺は佳織に見送られながら赤い丸三角四角のマークが描かれた入口へと入っていった。

 幸いにして辺鄙なところのトイレだったおかげか、他に人影がない。

 個室へ入ると扉を閉めて鍵を掛ける。

 えーっと、キュロットスカートとパンツを下ろして便座に座る。

 ……これでいいんだよな? いくぞ? 出すぞ? どうなっても知らんぞ?

 何度か自問自答したのちに、意を決して全身を脱力させる。


 しゃーーー、ちょろちょろちょろ。


「うひゃあっ!」


 ふとももにかかった! ちょっ、ナニコレ! こんなの聞いてない!


「ちょっと、何やってるの! 音聞こえてるじゃない! ってか何の悲鳴よ!」


 俺の悲鳴に反応したのか、すぐ近くから佳織の声が聞こえてきた。心配になってここまで来たのか。


「ふとももにかかった! んで零れた!」


「ええっ!? どうしてそうなるのよ! っていうか零れるって何よ!?」


 知るか! こっちが教えて欲しいくらいだ。

 うぬぅ、お尻がおしっこまみれになってしまったぞ、これは。ちょっと気持ち悪い……。

 トイレットペーパーを大量に消費してお尻や太ももを拭く。

 大事なところも綺麗に拭く……が、いかん、ダメだ。優しくしないと。……何がって? それは個人の妄想力を爆発させておいてくれ。

 あ、便座も拭いておかないと。


「はぁ……」


 疲れた。……主に精神的に。

 ため息とともにパンツとキュロットスカートを腰の高さまで上げると、トイレの水を流して外に出ると。


「……何があったのよ。……あと音姫はちゃんと使いなさい」


「……乙姫ってなんだよ。竜宮城には行かねえぞ」


 じじいになってたまるか。男に戻れるならいいが、じじいになるくらいなら今のままの方がいい。

 つーか性別変わらないまま年取る可能性の方が大きいよな。


「そっちじゃないわよ! 消音機のことよ! 水が流れる音がして、おしっこの音をまわりに聞こえなくしてくれるの……」


 最初は叫びながらだったが、額を押さえながら語尾が小さくなっている佳織。

 ほぅ、そんなアイテムが女子トイレにはついてるのか。男はそんなもの気にしないもんだが。


「あと実際にしてみて気づいたんだが……、もしかして足は閉じておいたほうがいいのか?」


「……そうね。……あぁ、あと前かがみ気味になるといいわよ」


 俺の言葉に、何かを諦めたかのような佳織の答えが返ってくるのだった。

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