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第56話 正直それどころじゃないんだよね

「しょうがないから圭ちゃんの隣は佳織に譲ってあげるわ」


 微笑ましいものを見たとでも言いたげな顔でそう告げるのは静である。さっきまでの俺たちのやりとりを見られていたと思うと、ちょっと俺も恥ずかしいものがある。


「っつーか隣って……」


 なんだよ、と言いかけたが察してしまった。そういえばさっきまで布団を敷いていたんだった。佳織のおかげでさっきまで何やってたか忘れてたよ……。

 うんうんと千亜季も頷いているが、その目は笑っていない。


「でも静ちゃん、もう片方の圭ちゃんの隣は譲らないからね?」


「ほほぅ、奇遇だね。……それはわたしも同意見だよ?」


「うふふ」


「あはは」


 あっちはあっちで戦いが繰り広げられているようだ。隣が誰になったところで俺には関係ないし、もう勝手にやっといてくれ。

 ため息をつきながらベッドに腰かけると、脇に置いてあったペットボトルのお茶に口をつける。


「あ、圭一。あたしにもちょうだい」


 残り半分くらいになったところで、佳織が俺の隣に腰かけてきた。そういえば午前中にみんなに渡したペットボトルは全部空になったんだったか。そういや自分の分だけ二本目を持ってきてしまったな。また一階に降りて取ってくるのも面倒だ。ということで佳織にそのまま渡すと、同じペットボトルに口をつけてお茶を飲み始めた。


「ありがと」


 お礼と共に、残りが四分の一ほどになったペットボトルが返ってくる。学校ではやらないが、プライベートでは回し飲みは日常茶飯事だ。そう……、日常茶飯事なのだが。


「……」


 思わずペットボトルのキャップを見つめてしまう。なんのことはない、ただのお茶の入ったペットボトルだ。なんで俺はこんなにもこのペットボトルが気になってるんだ。いつものことだろう。


「……どうしたの?」


「ん? あぁ……、静と千亜季ってこんなんだったかなぁって思って……」


 咄嗟に話を変えるが、二人が気になるのも事実だ。学校じゃ千亜季は大人しく引き下がるほうだと思ってたが、こういうところだと積極的になるのか。……いやまぁ主張してるのが俺の隣で寝るというのはアレだが。


「あー、うん……、そうね。千亜季も、人がいないところだと割と積極的ね」


「そうなのか」


「ほら、静ってわりとグイグイくる性格じゃない? だから遠慮してたら全部静に持って行かれちゃうのよね」


「あぁ」


 それはそれで納得できる話だ。


「まぁ、取り合ってるのが圭一ってところが考え物だけど」


「あぁ……」


 佳織の言葉に思わず額に手を当てる。再度訪れた『私のために争わないで』シチュエーションだが、まったくそんな気分じゃない。というかあれだな。少なくとも俺が寝る位置は端っこという選択肢はないわけだな。わかってたけど、もうどうでもいいな。

 それにしても今日は疲れた。マジで疲れた。もう寝てしまいたい。……うん? そういえば布団敷いたよな。

 ……だがその布団のど真ん中にいるのは静と千亜季だ。


「やった……! 私が圭ちゃんの隣!」


「ぐぬぬ」


 どうやら勝者は千亜季に決定したようだ。静が悔しそうに唸っているが、まだ何かを考えているのか諦めの様子は見られない。


「決着が着いたんなら何よりだ」


 ベッドから降りて真ん中の布団へと向かうと、そのまま掛布団にくるまって寝転がる。


「えっ、圭ちゃんもう寝ちゃうの?」


「そうよ、パジャマパーティーの本番はこれからじゃないの……!」


 千亜季と静が残念そうにしてるが、そういえばパジャマパーティーをするために集まったんだったか。当初の目的は果たされたと思ってたが、むしろこれからが本番だったらしい。


「パジャマ着るだけじゃなかったのか……」


「何言ってんのよ」


 当然とばかりに隣の布団に寝転がる佳織。千亜季と静も顔を寄せて布団に寝っ転がって、四人で扇形になる。……が、静がなにやらじーっと俺に視線を向けてくる。


「……なんだよ」


 さすがに見つめられ続けて黙っているわけにもいかず何事かと聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。


「ねぇ、圭ちゃんって……、好きな人いる?」


「はぁ?」


 いきなりだな。……いやパジャマパーティーだからなのか? 俺自身はあんまり興味はないが、女の子というのは恋愛話好きが多そうだ。


「ほら、女の子になっちゃったでしょ。それで圭ちゃんの恋愛対象はどっちなのかなーって」


「そういうことね」


 そりゃ気になるのもわからんでもないが、このタイミングか……。そんなこと考えたこともなかったけど、どっちなんだろうな。

 ちらりと佳織を見るが無表情だ。長い付き合いだが、俺と同じく恋愛話好きというイメージはない。


「正直わからん」


「「えーーー」」


 俺の答えにぶーたれる静と千亜季。


「そもそもそんなこと考えたこともないしな」


 佳織も含めて顔を見合わせる三人だが、正直それどころじゃないんだ。男から女に変わるって結構大変なんだぞ? わかってねぇだろコイツラ。


「じゃあ後ろの席にいる木島くんは?」


 うん? 祐平か? バスケ部で男の時の俺と同じくらい身長があるイケメンだ。うん、あくまで客観的に見てリア充爆発しろと思える顔ってことだからな? 勘違いするんじゃねーぞ?


「あいつはバスケもうまいしな。まぁ客観的に見てもイケメンの部類じゃねぇの」


「ほぅほぅ」


 ニヤニヤする静に、佳織へと視線を向ける千亜季。佳織は寝転がりながら器用に肩をすくめているが、何なんだよ。俺ばっかりに質問というのもあれだな。


「じゃあ静はどうなんだ?」


「ほぇ?」


「それは気になるわね」


「同じく……」


 まったく予想外といった表情になる静に、佳織と千亜季も乗ってくる。珍しく俺以外に話題が移ったなぁと思ったが、それは一瞬のことだった。

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