第42話 責任の取り方
「よっし、勝った!」
体育の授業で行う最後のバレーボールの試合が終わりを告げる笛を聞いて、俺は反射的にガッツポーズを決める。
佳織の言った通り、試合が始まってしまえば体の不調はもう忘れ去ってしまっていた。
終わった今でも不調を感じないので、それはそれで悪い事ではない。
それにしても……だ。
感じた視線にちらりと顔を向けると、こちらをじっと見つめる人物が目に入る。
一緒に体育をしている隣のクラスの滝本だ。
男の時の俺のことが好きだったと、更衣室にまで付いてきて衝撃の告白をしてきた相手だ。あれから特に話しかけてくることはなかったが、体育のたびにちらちらと視線を感じることはあった。
なのだが……、今日は特にその視線に熱が入っているような気がする。後ろに冴木もいるが、打って変わってこちらは相変わらずの無表情だ。
「圭ちゃんちっちゃいくせに飛ぶのってずるい」
そう叫ぶのは一緒に試合をした相手チームの女子生徒、六組の美智瑠だ。
ずるいと言われつつもなぜか俺の頭を撫でる彼女。
「――ってやめい!」
腕を振り払いつつも、わずかに自分より背の高い相手を見上げて睨みつける。
この合同クラスの中での背が低い順位二位となった相手である。自分が一番背が低くなくなったせいなのか、何かと俺を撫でくり回すのだ。
「えー、ちょっとくらいいいじゃない」
「すでにちょっとを超えてるんだよ。……こいつなんとかしてくれよ」
期待は込めずに隣にいる真心へと視線を向けるが、その隙にと美智瑠がまたもや俺の頭へと手を伸ばす。
半ばあきらめているので、俺も避けたりはしないのではあるが。
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「……撫でるときの圧力で縮んだらどうすんだよ」
俺の言葉にピタリと撫でる手が止まり、もう片方の手を顎に当てて考え込む。
わかってくれたのかと思って期待してしまったが、次の瞬間に大間違いだと気づかされる。
急に頭を押さえつける圧力が増したのだ。
「ちっちゃくなったらもっと可愛くなるかも!」
「だからやめんかい!」
もう一度美智瑠の腕を振り払い、今度は逃げるように近くにいた佳織の後ろへと移動すると。
「俺の代わりにこっちどうぞ!」
言葉と共に背中を押して美智瑠の相手の身代わりとして差し出した。
「ちょっ、……ちょっと!」
勢いよく押し出したせいか、俺より数センチ背の高い美智瑠と、俺より十数センチ背の高い佳織がちょうど抱き合う形になっていた。
驚いた佳織は美智瑠の両肩を掴んで慌てているが、逆に美智瑠は佳織の背中に両手を回している。
「おおぉぅ、……こ、これはっ!」
というかむしろ佳織のおっぱいの感触を楽しんでいるようにも見える。
……ってかこうやって横から見てると、佳織のおっぱいはいい感じに潰れてるが、美智瑠はぺったんだな。
「はいはい、何やってるのそこ! ちゃんと整列しなさい!」
うん。ふざけてたら先生に怒られた。
どう収拾を付ければいいかわからなかったのでちょうどいい。
「はーい」
「な、なんであたしまで……」
美智瑠は素直に抱擁をほどいて列に並び、佳織は眉間に皺を寄せながら渋々と整列していたので。
「ドンマイ」
「……アンタのせいでしょうが!」
肩を叩いて慰めてやったら怒鳴られてしまった。
体育が終われば、もう通い慣れてしまった教員用の女子更衣室で着替えだ。この後は昼休みで時間があるのでのんびりできる。
すでに昼休みに突入しているので、購買部はすでに混んでいるだろう。今更早く行ったところですでに遅いのだ。誰もいないしじっくり着替えればいい。
体操服を脱いで下着姿になると、タオルで全身を拭いていく。汗をかいて気持ち悪いので、パンツも脱いでタオルで拭き拭き。
うむ。誰もいない更衣室ってこれはこれでいいね。
――ガラガラ――。
「……って思ったけど」
更衣室の扉が開く音がして、思わず振り返りながら言葉が口に出てしまった。
前回の更衣室での出来事がフラッシュバックしたが、今は驚いて固まってるわけにはいかない。
急いで新しいパンツを穿いて、短めの淡いブルーのキュロットスカートを穿く。膝上靴下も相まって、絶対領域が非常に眩しい。いやそんなことはどうでもいい。
「あ……」
キャミソールを手に取ったところで、更衣室に入ってきた人物が姿を現した。
体育の間、俺に熱い視線を向けてきていた件の人物だ。俺に告白をしてきた茶髪ショートの六組の女子生徒、滝本睦その人だ。
「……何か用?」
手に持ったキャミソールを胸元で握り締め、警戒するように相手を見つめる。
いやマジで何しに来たんだよ。……ってか今日は一人なのか? 後ろに誰もいないみたいだけど。
「えーっと……、その……」
内心ドキドキしながら滝本の様子を観察するが、もじもじしているのみで一向にしゃべりだす気配がない。
ちょっと話が進まないんですがなんとかなりませんかね。
しょうがないのでとりあえず手に持っているキャミソールに袖を通す。いつまでもブラを晒してるわけにもいかないのだ。
何も用がないならこのままこっちから退散してしまおう。
「何もないならもう行くけど」
長袖のブラウスに袖を通して服装を整えると、体操服を手提げ袋に詰めて更衣室を出る前に念のため声を掛ける。
「あっ! ……待って!」
更衣室を出ようと、滝本とすれ違う前に引き留められる。
「……だから何なのさ」
思わず足を止めてしまったが、更衣室の出口は滝本の後ろだ。
「……あの!」
さすがにこのまま出ていくと言われればいつまでも黙ってるわけにはいかないと思ったのか、意を決した表情を俺に向けると。
「あの……、前に言われた……、その、責任を果たしに来ました」
……はい? 責任?
ああ……、そういえば冗談でそんなこと言ったこともあったな。
俺の冗談に律儀に付き合ってくれるとは……。
若干興味を持った俺は、改めて滝本に向き直ると話を聞くことにした。
じっくりと確認する必要もなく、滝本も体育の授業終わりなだけあって体操服姿だ。
「そうなんだ」
んで、結局何してくれるんだろうね?
「うん。あのね……、わたしだけ一方的に圭ちゃんの裸を見ちゃったから……、その、フェアじゃないから責任を果たした方がいいって、凍子が……」
「――はい?」
何がフェアじゃないって? 裸をみたのが……? んん? よくわからんぞ?
相手の言葉が俺の中にじわじわと染み込んでいき切らないうちに事態は進んでいく。
凍子って、あの無表情女だよな……?
――と思い出していると、目の前の滝本は自分の穿いているハーフパンツに手をかけるのだった。
バスケが終わってバレーボールになったのにまたバスケに戻っていたので修正。




