第33話 冗談に決まってんだろ
「遅かったわね」
教室に戻ってくるなり声を掛けてきたのは佳織だ。
お昼休みなので、静と千亜季の三人で弁当をつついている。
他のクラスメイトも各々お昼ご飯中のようだ。
「圭ちゃんの後、誰かつけて行ったと思うんだけど、大丈夫だった?」
静が心配そうに聞いてくるが、特に問題があったわけでもない。ちょっと脱がされて告白されただけだ。
なんだかんだで『友達』というところに落ち着いたし、何も問題ない。
「何もなかったよ。ちょっと購買でお昼買ってくる」
体操服を鞄へと戻して財布を引っ張り出すと、俺はそのまま教室を出て早足で購買部へと向かう。
ちょっと遅くなったし、あんまりいいものは残ってないかもしれない。
男の時には感じなかった視線を無視しながら購買部へと急ぐ。
……が、やっぱり人気商品はとっくに売り切れていた。
「まぁしょうがない」
ため息を一つつきながら、パンをいくつかとコーヒー牛乳を購入すると教室へと戻る。
「おかえり」
「ただいま」
三人のところまで戻ると、最初に気付いた千亜季が迎えてくれる。
みんなのお弁当を覗き込むと、六割ほど減っているようだ。
俺の後ろの席にいる木島祐平は、もう食べ終わったのか机に突っ伏して昼寝中だ。
俺と静の席は隣同士だけど、その前の生徒はいつも他の席で昼ご飯を食べるので、佳織と千亜季が座らせてもらって一緒に昼ご飯を食べている。
俺も自分の席へと座ると買ってきたパンを袋から取り出してかぶりついた。
「ねぇ圭ちゃん。ホントに何もされなかった?」
そんな俺をなおも心配そうに気遣ってくれる千亜季だが、他の二人も不安そうに俺を見つめている。
んー、そんなに心配することはなかったんだが……。というか何もされなかったことはないな……。
まずは無難に……。
「あー、うん。ちょっと告白はされたかな」
「「「えっ?」」」
「ぶっ!」
三人の驚きの声に混じって、後ろから噴き出す声が聞こえてきた。
ちらりと振り向くが、何事もなく昼寝を継続しているように見せて机に突っ伏している祐平がいるだけだ。
「ちょっ……! なんで、告白って……、冗談でしょ!?」
激しく動揺する佳織だが、何をそんなに慌ててるのか。
また弁当が残っているにもかかわらず立ち上がって、俺に詰め寄ってくる。
「相手は女の子でしょ!? ほ、ホントは何があったの!?」
慌てた様子で佳織が詰め寄ってくるが、別に俺は嘘をついたつもりはない。ちょっと順番は逆だが、それはまぁ刺激が少ないほうを先に言葉にしただけであってだな。
つーか『本当のことを吐け』みたいな勢いはやめてくれるかな。
そんなにお望みなら爆弾を投下してやらんでもないが……。いやむしろこれは投下して反応を楽しむべきか。
「あと、裸に剥かれて辱めを受けた」
「ぶはっ!」
「なんですって!?」
「え?」
「ぶふっ! げほげほっ! ごほっ!」
順番に佳織、静、千亜季、祐平の反応である。
もう一度後ろを見ると、机に突っ伏した状態で右手を口元にあてて咽ている。
思ったより器用だな。
それに佳織の反応もさすがだ。しつこいくらいに女らしい口調をと指摘してくる本人が、「ぶはっ!」って噴き出しているのが笑える。
「……な、な、なんでそんなことになってんのよ! 告白されたんじゃなかったの!?」
「そ……、そんなうらや――けしからんことをするなんて!」
おい静。今なんて言いかけた? むしろ言い直せてないんじゃねーか?
っつーかお前もそっち側だったのか……。ちょっと気を付けないといかんな……。
「……」
「げほっ、……げほっ」
言葉の出ない千亜季と咽ている祐平はまぁ置いておくとして。
「いやまぁ、告白と言っても、友達になってくださいってだけなんだが」
うん。俺を裸に剥いた本人からの告白は確かにこっちだ。間接的にバラした無表情な冴木の言葉はなかったことにしておく。
……よし、反応はもう見れたし、正直あとの説明とかが面倒になってきた。……うん、ここは誤魔化すか。
「……ええっ?」
もう何が本当なのかわけがわからなくなってきている佳織に、俺は畳み込むようにニヤリと口元を歪めて次の言葉を続けた。
「つーか冗談に決まってんだろ」
「……ええええぇぇ、何それ」
何が冗談なのか具体的なことは何も言ってないが、そのまま脱力する佳織に俺は胸をなでおろすのだった。
更衣室での出来事を有耶無耶にしたその日の放課後、すでにホームルームも終わり、昇降口で靴を履き替えて帰るところだ。
あー、なんかいろいろあって疲れたかも……。今日はどこにも寄らずにまっすぐ帰ろうかな。
「今日はどうする?」
なんだかんだ言って、いつもこの四人で学校帰りに寄り道して帰ることが多い。
今日もご多分に漏れず、静が本日の予定を確認してきていた。
「うーん……。今日はパスで」
ちょっと考えてみたけどやっぱり帰ろう。いや疲れたとか思ってたらホントに体がだるくなってきた気がする。
「じゃあ、あたしも帰るね」
俺に追従するようにして佳織もそう告げると、その場はみんなすぐ帰る流れになった。
帰りにどこかに寄るパターンになる場合、だいたい休み時間の他愛のない話で行きたいお店とかが出ているものである。
そこで何もなければ、今日みたいに最終確認が行われるのだ。
今まで何気にこの四人に付き合ってきたけど、よくよく考えると寄り道する確率高いよな……。
男でも話の中で気になった店に寄ることはあっただろうが、女になった今では話に挙がる店が多い。
ファッションにスイーツに、個人の趣味も含めればいろいろだな……。
そんな益体もないことを考えながら帰路につくのだった。




