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第14話 一番を取ってしまうとは解せぬ

 体育館に集まったのは、俺たち二年五組の女子生徒と、隣の六組の女子生徒だ。

 男女別の教科だけあって、体育だけは二クラス合同だ。

 だもんで、俺のことを初めてみる女子生徒がいるんだろう。

 なんとなくいつもより視線を感じる。

 二年になってから初めての体育だが、これは非常に居心地が悪いな……。

 ある意味初めてのランジェリーショップ以上の居心地の悪さだ。下手に見知った顔がいる分、その効力は計り知れない。


 しかし……、こうやって改めて女だけの集団を見ると……。異様だな……。

 いやもうその中に自分がいるって思うとね……。

 しかも俺……、この中でもしかして一番背が低くないか?


「よーし、全員揃ったかな? こっちに集合してください」


 授業の開始を告げるチャイムが鳴り終わるのを待って、体育の湯沢先生が声を張り上げる。

 先生と一緒に体育館に来た俺はそのあと、幼馴染である佳織や静とともに固まって行動をしていた。掛け声で俺たちも先生の前へと集合する。


「今日から体育を教える湯沢です。皆さんよろしく」


「「「よろしくお願いしまーす」」」


 先生の挨拶に生徒たちからもポツポツと返事が返る。


「今日はもう一人紹介するわね。……五十嵐さんいらっしゃい」


 おうふ、マジっすか。こんな集団の中でさらに注目されるんですか。

 まぁしょうがないっちゃしょうがないか。クラス替えのないこの学校でいきなり知らない人間が増えたってことだもんな。

 俺は先生に言われるがままに前へと出る。

 「がんばって!」などと静かに激励されるが、何をがんばれと言うのか。


「知ってる人もいると思うけど、彼女(・・)が五十嵐さんよ。仲良くしてあげてね」


「よろしくお願いします」


 先生の紹介にペコリと頭を下げて挨拶をする。

 同じクラスの五組の生徒はすでに見知っているからか、ほぼ表情に変化はなかったが、六組は当たり前だが違った。

 興味津々な表情が大半だが、うっとりと俺を見つめる生徒や、顔を顰めている生徒もちらほらと。

 ってかうっとり顔の表情は止めてもらえませんかね。


「じゃあ彼女も並んでもらうから整列してちょうだい」


 先生の言葉に集まっていた生徒たちが八列で並びだす。体育の時は背の順で並ぶのが通例になっているんだが……。

 こうして並ばれると益々、俺の身長が一番低いんではないかという疑惑が徐々に確信に変わっていくわけで。


「……五十嵐さんはやっぱり一番前かしらね」


 ほぼ並び終わったところで先生がそう発言する。そっと背中を押されて俺は集団へと近づくが、やっぱり俺が一番小さいのか。

 一番前に並んでいた女子生徒の顔が歓喜の表情だ。なんかガッツポーズまでしてるし。そんなに一番前が嫌だったのか。


「五十嵐さんが一番前みたいね。わたしは六組の日下くさか美智瑠みちる。よろしくね」


「あ、はい。よろしく」


「きゃー! 予想外に可愛いわねー。うふふふ」


 挨拶を返すと日下のテンションがさらに上がる。なんだこの子は。

 しかも初対面で俺の頭をいきなりナデナデしてくるとは。まぁいいけど。


「おめでとう。美智瑠みちるが二番だね」


「ありがと、真心まこちゃん」


 さらに隣にいる、背の順が三番目になった子からも声を掛けられている。真心まこっていう名前らしい。


「そうでしょー。圭ちゃんは可愛いのよー」


 ひとしきり撫でられていると、そんなセリフと共に後ろから誰かに抱き着かれた。ってこの声は静か。


「圭ちゃん?」


「……そう言えば下の名前は? あ、私は若草わかくさ真心まこよ」


 割り込んできた静に日下と若草が順に反応するが、気になるのは俺の名前か。


「えーっと、圭一です」


「おー、そうなんだー。ぜんぜんそうは見えないよー」


 俺の回答に感心した様子の日下。一方若草は――。


「ふーん。……イチ(・・)モツ取れて圭ちゃんね」


 ぶふぉっ!


「――えっ!」


 若草の爆弾発言に俺は心の中で噴き出したが、後ろで実際に声が上がっている。って佳織かよ。


「あははは! 真心ちゃんうまいこと言うねー」


 日下は大爆笑だが、ちらりと後ろを振り返ると佳織が顔を真っ赤にして俯いている。

 っつか女子だけの会話ってこんな発言が出るんですか。恐ろしいですね。佳織はそうじゃないようでちょっと安心したが。


「ああっ、そんな!」


 発言に驚いていると、そんなセリフと共に俺に抱き着いていた静が離れて行った。

 見ると静はちょうど二列後ろのようだったが、俺が一番前に割り込んだせいでひとりずつずれて、列が繰り上がった他の生徒に隣に押しやられている。

 同じく一列後ろに繰り上がって来たのは……、同じクラスの千亜季だ。


「圭ちゃん、よろしくね」


「よろしく」


 さすがに大人しい千亜季は、この場で抱き着いてきたりはしない。

 ひとしきり挨拶が済んだところで、先生が手を叩く音が聞こえる。


「はいはい、静かにしてくださいね。じゃあ早速授業を始めるわよ。今日はバスケをやりますからね」


 先生に告げられた今日の授業内容は、高身長が有利なバスケであった。

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