探索
こみ上げる焦燥感を抑え込み、人を探すために足を動かす。
人を見つければここがどこだか分かる。
名前を忘れていたって家の場所は覚えている。帰りさえすれば、何も問題ないはずだ。
太陽が傾いている方角へと歩くと、草原を抜け森の入口にさしかかった。
「……こんなでかい木初めて見た。」
頭上を見上げると、樹齢1000年は超えてるのではないかと思うほどで、そのような大木が一帯を覆いつくすように生えていた。一歩森に足を踏み入れると太陽からの光は遮られ、まるで冬の夕方のように暗くなる。
そんな浮世離れした光景に森に入ることをためらった。
頭の中に過る「もしかしたら」という不安。ここで助けが来るまで待つという考えが浮かんだ。
「いやいや、こんなとこにずっといたってしょうがないだろ…」
勇気を持って森の中に入る。
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すると声が聞こえた気がした。なんと言っているか聞き取れない。
「うわあっ!!」
思わず足を止めて、周りを探るように見渡すが、それらしき気配は感じない。心臓がドクドクと大きく聞こえる。そしておかしなことに気がついた。この森からは風や葉が揺れる音ばかりで生き物らしき鳴き声、気配が全くしないのだ。それに気づいた時全身に悪寒が走った。急いで森から出る。
「いきなりこんな訳もわからないところに連れてこられたと思ったら、ホラー的要素もあるのかよ。」
何かの撮影なのだろうか。普通ではありえないことの連続に必死に理由をつけようとする。人間、理解が出来ないことに対して恐怖を抱くものだ。以前、大掛かりなドッキリ番組を見たことを思い出しそれに違いないと辺りをつける。
「だれかーーー!!!いるんですかぁあ!?もう十分怖かったので出てきてくださーーい!!!」
大きな声は森の奥に吸い込まれていき静寂が再び支配する。そして今度は、草原と森の境界線をまたいでもう一度声を出そうとする。いや、正確には出そうとした。
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「うわっ!まただ。」
また声が聞こえた気がする。どうやら森の中に入ると聞こえてくるようだ。正確には声と言っていいのか分からない高い音のよなものだったが、彼にはそれが感情のこもった意味のある声のように思えた。何度か草原と森の境界線を行き来して確かめる。
「ちゃんと聞くとあんまり怖くないな。なんか歌ってるみたいだ。」