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神州鬼狩東征伝(休止中)  作者: 織上ワト
第一章 千ノ刃、暁ヲ照ラス
13/14

終幕 夜明ケ

どもです。これにて第一部完結! 短いです。宜しくお願いしますm(._.)m


神州豊葦原中国しんしゅうとよあしはらなかつくに》《鬼宿等位(きしゅくとうい)》《合技(ごうぎ)》《随神鬼(かむながら)》《季華十二鬼将(きかじゅうにきしょう)》《千刃暁學園せんじんあかつきがくえん》《穢土(えど)》《鬼裡依教(きりえきょう)


「——以上が報告となります」

「そう……ありがとう。涅々ちゃんもお疲れのところご苦労様ぁ」

「いえ、私は……」

 学長室の豪奢な椅子に座りながら笑顔で労う兎和子に、僅かに顔を伏せた涅々が覇気のない声を出す。

「まさか百夜君が、なんてねぇ……あれほどの闇を抱えていた彼に気付けなかったなんて、私もまだまだということねぇ。それに小百香ちゃんや桜華ちゃんのことも……」

 兎和子もまた平静を装いつつも、どこか沈んだ溜息を吐いていた。涅々にとっては古くからの友人たち、兎和子にとってはかつて融魂施術で関わりの深かった女性とその息子。関係は違えど、近しい者たちが犯した罪を思うとやりきれない想いが込み上げてくる。

「調べによると、百夜の奴は黒条を穢土へと置き去りにした後に母親である小百香を殺しているようです。その死体が木乃伊化したものが天ノ御柱にあった木乃伊なのではないかと」

 母親への偏執的な愛情と自分へ振り向いてくれないことへの行き場のない感情が瞬間的に憎悪に変わったのか、鬼へと心を奪われてしまった母を自分の元へと取り戻したかったのか。理由は不明だが、百夜が小百香を直接手に掛けたことは間違いない。

「不可解なのは、その後黒条との接触で小百香が復活を果たしたことです。加えて小百香は木乃伊の状態でも力を発揮しているようでした。百夜もあえて黒条を小百香に近づけたようにも思えますし、これは一体……」

「木乃伊というより、あそこにあったのはもしかすると小百香ちゃんの残留思念……魂、だったのかもしれないわねぇ」

 鬼の魂魄は随神鬼にも見られるように、人の感情や精神に強く共鳴し影響を及ぼしている。そして小百香は自らが鬼となること、延いては鬼の母となることに固執していた。

「百夜君に殺されたことで人間としての小百香ちゃんが完全に死に絶えた。そこに残ったのは器である身体と、鬼になりたいと渇望していた彼女の魂だけ……百合ちゃんとの接触をきっかけに、真に母なる鬼として転生を果たした小百香ちゃんがこの世に蘇ったと、想像だけで語るならこんなところかしらねぇ」

 椅子の背もたれに体重をかけ、外を眺めながら兎和子が言う。

 無論のこと、兎和子にも詳しい原理はわからない。今の言葉も総てが憶測でしかないが、しかし当たらずとも遠くはないだろうとは思っていた。

「まだまだ融魂施術や鬼の魂魄については研究の余地がありそうねぇ。もう引退した身だけれど、久しぶりに頑張ってみようかしらぁ?」

「ぜひそうしてください。陰陽寮の方々も学園長の復帰を願っていましたよ」

「ふふっ、冗談よぉ。今の私はこの千刃暁學園の学園長だものぉ。今更古巣に戻るつもりはないわぁ。それに……あの子たちの成長を見守ることの方が楽しいものぉ」

 言いながら四角く切り取られた青空を見上げる兎和子に釣られるようにして、涅々も窓から外を眺める。

「今頃新しいお仕事の最中かしらねぇ……頑張っているかしらぁ? ふふふ♪」


       ◇


「みんな揃ってるか? そろそろ出発しよう」

「はい隊長ぉー、約一名人数が足りませーん」

 天門を潜り、穢土について早々そんな報告を秋桜から受け、覇切は思わずため息を吐く。

「また梗か……あいつはすぐにふらふらと」

 今回の仕事は百夜たちの引き起こした事件後の一発目の復帰任務だ。そのためかそれほど危険な区域は割り当てられていないが、単独行動は控えるよう言い聞かせていたのだが。

「おい、こっちいたぞー。ったく、手間かけさせやがって」

 めんどくさそうに頭を掻きながら横合いの茂みから現れた桜摩の右手には、首根っこを掴まれている梗の姿があった。

「おーまくん、痛い」

「やかましいわ。集団行動って意味わかってんのかてめぇは」

「桜摩先輩にだけは言われたくない台詞ですね、それ」

 そうして売り言葉に買い言葉でいつも通り騒ぎ出す面々。つい二日ほど前まで施療棟で絶対安静だっただけに、こういう空気は久しぶりで懐かしいものがある。

「ふふふ♪ やはりみなさんと共に過ごす時間は賑やかで楽しいものですね。こうしていると、十日前のことが嘘みたいですわ」

「まぁ、確かに緊張感なさすぎね。全員死にかけたってのに」

 比名菊と秋桜、二人の言葉に覇切もまた苦笑を浮かべつつ頷く。

 神州全土を巻き込むあの事件から十日が経った。

 百合が歪みの中心である小百香を斃したことで、海上に溢れ返っていた鬼は活動を停止。そして浄土において起きていた鬼裡依教信者たちによる集団鬼化現象も同時に収束へと向かった。

 桜月桜華は事件後、自ら奉行所に投降。極刑は免れないだろうと思われていたが、過去の功績や類い稀なる鬼剋士としての才から無期限の禁獄、獄中での生活態度次第では保護観察付きの釈放もあるらしい。

 と言っても、あの超獣を陰陽術の施されただけの鎖や檻で完全に拘束できるとも思えないが、どこか憑き物が落ちたかのような桜華の表情を見れば、脱獄の心配は無用そうだった。

 そして主犯である竜胆百夜、及び黒条小百香は死亡。と、公的にはそう示されているが、どちらも死体は見つかっていないため実際のところは行方不明なのだが、あの崩落に巻き込まれて命があるとは思えない。

 そして敵軍本丸を落とした最大の功労者である覇切たち明星はと言うと、その活躍に見合う朝廷からの報酬などは一切なく、見ての通りいつもと変わらず騒がしくも賑やかな日常に戻りつつあった。

「元々半ば以上極秘任務って扱いだったから仕方ないとは思うけど、俺たちだけ何の労いもなしってのは寂しいものがあるよなぁ」

「それね。あたしらだって死ぬ気で頑張ったんだから、もっと褒め称えなさいよねー。主に物理的、金銭的に」

 秋桜と二人ぶつくさと文句を言っていると、横から比名菊が穏やかな笑みを浮かべながら言う。

「神州に住む方々が変わらぬ今日を迎えることができる……私はそれだけで充分な報酬だと思うのですけれど。そうは思いませんか?」

 そんなことを大真面目に言い放つ比名菊を前に、覇切と秋桜は後光を垣間見た気がして二人目を細める。

「比名先輩が、眩しすぎる……」

「本当にね。このままの純真さで大人になってほしいわ」

「お二人とも何だか私のことを馬鹿にされていませんか!?」

 憤慨といった様子で頬を膨らませる比名菊。しかし真剣に怒る本人には悪いが、そんな彼女の様子は実に愛くるしく微笑ましいものがあった。

(八恵、ごめんな。どうにもすぐにはそっちに行けそうにない)

 仲間たちと笑い合い騒がしい時間を過ごす中で、不意にそんなことを思う。

 妹を殺した自分自身を恨み、実際に今でも許すことはできていないし、これから先も犯した罪ともう一度向き合っていくつもりなのは確かなことだ。

 だけど一緒に馬鹿をやり、命を懸けて戦場を駆け抜けた仲間たちのことを守りたいと思った。彼らの隣で、彼らが笑って過ごせる日々を守るために戦い続けていたいと、そう思ったのだ。

「覇切さん? どうかしたんですか?」

「ん……いや」

 そんな風にボーッと考え事をしていれば、いつの間に目の前にまでやってきたのだろうか、怪訝な表情で覇切の顔を覗き込む百合と目が合う。そうしていると自然と彼女の頭に手が伸びた。

「あ、あの……? 本当にどうしたんですか? いきなりこんな……」

 訳が分からないといった表情を見せる百合に構わず、ぽんぽんとその頭を撫で続ける。

 思えばあの日、千刃暁學園の入学試験会場で彼女と出会ったことで総てが変わった気がする。

 共に試験を通過し、穢土へ向かい、生死を分ける戦いの中、自身を殺したいと思っていた自分に生きていてほしいと、そう言ってくれた。その言葉があったからこそ、今この瞬間も自分はこうして生きているんだと実感できる。

「何でもない。そろそろ行こう」

 そして百合だけじゃない。今ではここにいる仲間たち、全員がそう望んでくれているのだと、信じることができるから。

 言葉と共に皆の前へと拳を差し出す。皆もまた、何も言わずとも拳を重ね、応えてくれる。

 今日も明日もその先も、生きててよかったと皆で笑い合える夜明けを迎えるそのために。


「千刃暁學園、特務分隊、明星! 行くぞぉー!!」


 ここに誓いで結ばれた拳を、青天高く掲げ合った。



今回はおそらく別作品であるグロリアスマーチよりラノベっぽい話運びになったかと思います。その良し悪しは置いといて前よりは読みやすかったんじゃないかなぁと個人的な感想。読者の皆さんが楽しめたのならそれが一番ですが。

さて、これでまたこちらの神州鬼狩東征伝も一旦終了で、今度はまたグロリアスマーチの方へと更新を戻りたいと思っています。おそらく来週か再来週くらいには更新できると思っていますので、どうかよろしくお願いいたします。

それでは今回も読んでいただきましてありがとうございました! 次回以降も是非是非読んでください!


★ちなみにこちらに別作品グロリアスマーチが掲載されていますので、よろしければ読んでください! 東征伝とはまた違った熱さがあると思います! ⇒ http://ncode.syosetu.com/n2211db/

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