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神州鬼狩東征伝(休止中)  作者: 織上ワト
第一章 千ノ刃、暁ヲ照ラス
10/14

第九幕 天ヲ象ル其ノ眼 其之壱 〜開幕〜

どもです。いよいよ第一部最終決戦です! 尺の都合と雰囲気を出す関係上、第九幕は三つに分けて投稿させていただきます。

個人的に結構熱いバトルになっていますのでどうぞお楽しみください!


神州豊葦原中国しんしゅうとよあしはらなかつくに》《鬼宿等位(きしゅくとうい)》《季華十二鬼将(きかじゅうにきしょう)》《千刃暁學園せんじんあかつきがくえん》《穢土(えど)


 天生二十年、ここに一つの歴史的転機が訪れる。

 穢土より侵攻する鬼の数は、大小合わせて目算で五十万以上。対する浄土は、各鬼剋舎より集められた選りすぐりの鬼剋士たち。その数五千。実に百分の一以下の戦力だがそれだけで劣っていると断じるのは早計だ。

 彼らの実力はまさしく一騎当千。物量差では到底敵わないが、一人一人の力で言えば業魔級であろうと遥かに上回る実力は秘めている。

 夥しい数の鬼の軍勢は、内海を真っ黒に染めながら徐々に徐々に浄土側へと距離を詰めてきていた。そして今日、宵闇に覆われた海上で人と鬼の両勢力が相見える。

 目的は殲滅ではないとの通達は受けているが、誰もがそんな命令を気にかけてなどいなかった。


 ——鬼は一匹残らず討ち斃す。


 血気に溢れた(つわもの)たちが各々の武器を手に取り、高らかに咆哮を上げる。

 人と鬼、都合三度目の大戦の火蓋がここに切られたのだ。


       ◇


「——……」

 少女は海を眺めていた。正確に言えば海というよりか、そこに溢れ返っている膨大な数の鬼の群れだったが、何にしろどうでもよさそうな顔でその美しい桜色の髪を潮風に(なび)かせているのは変わらない。

 そう、彼女——桜月桜華にとって此度の戦は『どうでもいい』の一言に尽きるものだった。いいや今回だけではない。英雄ともてはやされた六年前の第二次大東征の時も、鬼という『デカい的』を自分の手で捻り潰せることに快感を覚えていたものの、正直な話、神州に希望をもたらすなどというお題目には全く興味がなかった。

 今も昔も自分の中にあるのはたった一つの信念だけ。

 あの人のために己の総てを捧げる。そのためだけにこの身体は存在し、そのためならば目の前に立ちはだかるものは例え誰であろうと、何であろうと排除する。

 この胸の内にある想いとは、ただそれだけなのだ。

「……来たか」

 だからこそわかっていた。彼らは必ず再びやって来る。彼らもまた自分と同じ、大義など関係なく、確固たる己の信念を貫き通すために戦っているのだと知っていたから。

「傷はもう癒えたのか? 前回より人数が少ないようだが……まさか死にに来たわけではないだろう?」

 見据える先には、四人の男女の姿。自分の弟に、赤毛の少女、傘の少女に銀髪の少女。指揮官らしき眼帯の青年と黒髪の少女の姿がないようだが、そちらは恐らくあの人のところへ向かったのだろう。

「見たところ私の足止めと言ったところか? ご苦労なことだが、その程度の人数で抑えられると思われているとは心外だな」

「はぁ? 何勘違いしてんの?」

 赤毛の少女が呆れたような口調でため息を吐いた。

「誰が足止めするって? あたしらの役割はあんたを今ここでぶっ潰すことよ」

「……何?」

 今更安い挑発になど乗る性格はしていなかったが、さすがに今の言葉は耳を疑うものがあった。前回の交戦では、戦いにすらならないほどの圧倒的な力量差を見せつけたつもりだ。しかし視線の先にいる四人の瞳に挑発や冗談の色は窺えない。

(こいつら……こないだの敗戦が懲りてないのか?)

 これまで幾度となくその目をしてきた者たちを見てきたからこそ分かる。あれは嘘偽りない本気の眼差し。本気で自分をこの場で討てると、微塵の疑いもなくそう信じている。

「前回のような醜態を晒すつもりはありませんわ。今度こそ、私たちがここであなたを倒させていただきます」

「今度は絶対、敗けない」

「そういうこった。あんたにゃ色々言いてぇこともあるんだが……とりあえずここで一眠りでも二眠りでもしてってもらうから、覚悟しな」

 彼らの全身全霊の闘志を肌身で受け止めた瞬間、桜華は全身の毛がぶわっと一斉に逆立っていくのを感じていた。

 いつ以来だろう。超獣と呼ばれ、同じ『人』にすら畏れを超えた恐れを抱かれるようになり、自分に挑もうという者はおろか近づこうとする者すらもいなくなり、自分にとってもそれが自然なこととなった。

 しかしここに来て、周辺を飛び回る鬱陶しい羽虫程度にしか思っていなかった者たちが見せた一切の衒いのない戦意を前に……心の奥底から沸々と湧き上がるものがある。

「く、くく……ふふ、ははは」

 喉奥から込み上げてくる笑いを抑えられない。今自分が覚えているこの感情。それは間違いなく——歓喜。

「ガキ共が生意気を言ってくれるではないか。よろしい……いいだろう」

 身体中を巡る血が沸騰していくのがわかる。全身が灼熱の炎に焼かれているかのように熱く、その身から立ち昇る陽炎が徐々に景色を歪めていく。

 狂猛な笑みを浮かべたその顔はまさしく超獣。人も獣すらも超えた超常の怪物が、ここに魔性の牙を剥く。

「生きて帰れると思うなよ。貴様ら全員、明日の朝日は拝めんぞ!」

「それはこっちの台詞だっての……借りは返すわ、舐めんじゃねぇーっ!!」

 明星対桜月桜華。第二戦の開幕の号砲が雄叫びと共に高らかに撃ち鳴らされた。


       ◇


 同時刻、秋桜たちと別行動を取っていた覇切と百合は、前回も訪れた廃墟群を走っていた。

「見た景色になってきたな。天ノ御柱まで近いぞ」

「はい……」

 目標は以前も見た鬼の木乃伊だが、そこに恐らく頭巾もいるだろうとわかっていた。故にここから先はより一層注意すべきだと隣を走る百合に呼びかけたのだが、彼女はどこか浮かない表情で先ほどから気が散っているようだった。

「どうした?」

「いえ、その……他の皆さんのことが気になって」

 問いかけてみれば、半分くらいは予想通りの答えが返ってきた。もう半分は今回の戦いについての不安かとも思ったのだが、とりあえずその心配はなさそうなので安心する。

「私は前回の時、桜月桜華とは直接戦っていないので実感はないんですけど、超獣としての噂は聞いています。それに覇切さんたちの受けた傷を見ればどれだけの戦力差があったのかも、わかります」

 その時の皆の負傷を思い出したのか、百合の身体がぶるっと震える。

「確かに前回は成す術なく、って言葉が似合いの結果だったけど、言い訳させてもらえるならあの時は不意討ち喰らって動揺が大きかったのもあったからな……どのみち戦力に圧倒的な差があったのは確かだけど、今回は事前に作戦も立てたし、あっちは秋桜たちに任せて、俺たちには信じることしかできないさ」

「そう、ですよね……わかってはいるんですけど」

「それに……っ————百合、伏せろ!」

 話の途中、猛烈な勢いで叩きつけられる殺気を覚え、咄嗟の判断で百合を抱き込み地面を転がる。

 直後、砲弾のように迫りくる影が横合いの茂みから飛び出し、直線状に存在していた総ての木々や廃墟が吹き飛んだ。舞い上がる砂埃の中から現れたのはお馴染みの頭巾を深く被った人物の姿。

「っ……こういうことだ。あっちの心配してる余裕なんて、俺たちにはないぞ」

 すでに天ノ御柱は目と鼻の先というところで現れた頭巾のことを鑑みるに、やはりあの鬼の木乃伊が今回の騒動の鍵を握っているのは間違いなさそうである。

「百合、わかってるな?」

「はい。でも覇切さん、そちらこそくれぐれも——」

 続きを口にする前にぽんと彼女の頭に手を置く。

「死なないさ。ここに来る前に口にした言葉に嘘はない。必ず勝って、生きて帰る。だろ?」

「はいっ!」

 そうして武器を抜き、改めて頭巾と対峙する。

「……行けっ!」

「っ……!」

 覇切の掛け声と同時に、百合がその敏捷性を如何なく発揮し全力で駆け出し、併せて覇切は頭巾へと合技の一撃を放つ。

 薄暗い森の中に眩い火花が散り、甲高い剣戟が響き渡った。そこからさらに幾合か刃を合わせ、お互いに距離を取ったときには、百合の姿はもうそこにはなかった。

(随分とあっさり行かせたな……罠かもしれないが、ここで立ち止まってる暇はない)

 厳しいかもしれないが、罠だった場合は百合に自力で何とかしてもらうしかない。

 秋桜たちは打倒桜華。百合は鬼の木乃伊の処理。そして覇切は、この頭巾の相手だ。

 皆がそれぞれ重い役割を担っている。ならば自分も明星の一員として、自分の仕事を果たすだけだ。

「さぁ、決着つけようか。敗けっぱなしは我慢ならないんだ」



次から本格開戦です! お楽しみください!

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