第七話 シゼレ海の戦いの神
自らの為に行動する事の多い精霊達だが、中には神話の神々のように何かを司り、一定のルールに沿って行動するものもいる。もっとも、最初から神のように振舞う者は極少数であり、多くは結果的に神のような役割を持ったパターンである。
彼の名はヒュガ。コウモリの羽と猫の目、イルカの尾を持つ人魚にも似た精霊であり、シゼレ海の戦いの神とも呼ばれている。ちなみに、特に関係はないが精霊に性別は基本存在しない。
かつては支配地域をめぐる戦争の多かったシゼレ海。そこに住む彼は人間程度の強さで力を用いた支配を行う事を嫌う。一つの大陸と多くの島が浮かぶ海でかつて、強い方が正義などとのたまう輩がいた。そこでヒュガは、ならば私に勝ってみろと、多数の船を海の中から一撃で吹っ飛ばした上で反論を求めた事がある。その時は、精霊の存在を無視して最強を謳う事がどうしようもなくムカついて衝動的に乱入したらしく、その一撃で多数の死傷者が出たと喚かれた時は、戦争で死のうが精霊に殺されようが同じだろうと一蹴した。
その一件で吹っ切れたヒュガは度々戦争に乱入するようになり、度々考えが浅いだの実態を見ていないだの文句をつけて回った。そのため、自然とこの海で戦争を行う際は、最初に戦いの意義や主張を海に向かって演説する習慣が出来た。そこで不満がある時は、大量の水をぶっかけられるようになって、船を壊された当初と変わり、死者が殆ど出なくなった。他にも、身勝手な主張が自ら取り下げられたり、改めて主張を詰め直す事によって、敵側がその主張なら納得できると意見を変える事も増えて、戦争の数自体も大きく減る事となった。
そうして無用な戦いに巻き込まれる事がなくなった一般庶民の間で、ヒュガを支持する声が高まる。あちこちでヒュガに様々なものを貢ぐ社が出来、獲れたばかりの生魚などが供えられるようになった。ただ、ヒュガのどうせ貰うなら生より加工品の方がいいなという発言により、供え物は豪華な料理や丹精込めて作られた装飾品の割合が増えていった。一部では権力者などによって貢物合戦なども起きていたが、何を貰おうが関係なしに気に入らない主張に水をかけられ、その公平さにますますヒュガへの支持は高まっていった。
そして、当のヒュガも、複雑な主張を提示される度にシゼレの人々を細かく調べ、身分を問わず様々な人の意見を集めるなど、不老や時間操作などにより有り余る時間と生来の凝り性、解析系の魔法の開発などによって、本当の神と言えるほどにその力を高めていったのだった。