第六話 ミーバと芋
「さー働けー。働いて美味しい芋を私に献上しろー。」
「イエッサー!」
よく通る声で号令をかけるのは、鹿角と蔓で出来た長い尾を持つ猪のような姿のミーバ。ミーバは無類の芋好きの精霊で、特にお気に入りなのはジャガイモだ。
だが、自分の魔法で作る芋はどうも味気ないと、方々からさまざまな種類のジャガイモの種イモを取り寄せて、適当な農村で好きなものは何でもやるから私に美味しい芋を作って献上しろと言い始めた。
ミーバは初め、芋以外の作物は適当に魔法で育てようと考えた。だが、村人に美味しく芋を食べるのなら付け合わせも丁寧に作った方がいいと提案され、その他の作物も継続的に育てられることになった。更に村人の提案で、美味しく食べるのなら料理の研究もすべきだとなり、研究用に魔法で作られた芋を使って、レシピの開発改良を行う研究班が設けられた。
そうこうするうちに村全体が謎の盛り上がり方をするようになっていった。だが、一部にはそのノリに同調出来ないものがいて、その中にはこっそりサボるものまでいた。しかし、精霊の目からは逃れられず、さあ働け、働かないと操ってでも働かせるぞといわれた上に、その翌日実際に操られて好き勝手に体を酷使された。結果、怠け者たちは酷い筋肉痛などに悩まされる破目になった。
必然的に怠け者はいなくなり、以前から彼らに手を焼いていた村人達はミーバに感謝した。だが、ミーバは少し首を傾げると、よく分からんがより美味しい芋を作って貢げと言ったため、更に芋づくりに熱い情熱が傾けられた。
それからしばらく。村で作られた芋を中心とする作物の最上級品はミーバに、形の悪いものは村人が食べ、それ以外は他の村へ売られるようになる。そして気付けば、この村は最上級の農作物の産地として有名になっていた。交易を行う村の中には、その村独自の芋レシピなどを持ってくるところもあった。他にも、この村がやや苦手としていた牧畜や、そもそも見る機会すらなかった魚介類なども持ち込まれ、ミーバがそれらの改良にまで乗り出したために、どんどん話の規模が大きく有名になっていった。流石におこぼれが欲しいだけの村は却下されたが、近隣の何かしらの特産を持つ村はかなりの豊かさと妙なテンションを手に入れる事となった。
精霊と言うのは、時に欲しい物のためなら手段を選ばず何でもする。だが、ただの趣味で狙ってもいないのに、ここまで大規模に村人達が心から同調する形で盛り上がって、大量の副産物も作り出すのは、世界広しと言えどミーバぐらいのもの。この事は人だけでなく、精霊の間でも広く噂となったが、ミーバ本人はただ美味しい芋が食べられてご満悦だった。