第五話 ズリョとテテ
ズリョとテテはいずれも精霊である。
ズリョは絡み合う幹の下の方に虚ろな表情の子供のような部分を持つ大樹の姿。テテは小さな触覚とカゲロウの翅、センザンコウのような鱗と馬の足を持つ子猫の姿。ズリョは子供の反対側の幹の奥に、テテは尾の長い毛の中に食べるための口が隠れている。なんだか共通点があるのかないのははっきりしない彼らの付き合いは長いが、特別仲がいいとは思っていない。傍から見れば十分仲がいいのだが。
ある日の事。いつも通りじっとしているズリョの幹をテテは重力を無視した動きで駆けあがり、ちょうどいい形の枝を見つけて腰を下ろした。
「こんな立派な枝があるなら、美味しい木の実の一つでもあった方が様になると思わない?」
テテが話しかけてもズリョはいつものように黙ったまま。テテも返事を期待していないため、返事も待たずそのまま昼寝を始めた。
また別の日の事。今日もズリョに登ってテテは話しかける。
「いつもいつもここでじっとしてて面白いの?近くの村ではいはいをするようになったばかりの子供が勝手にあちこち行ってしまって面白い事になってるのに。」
さらに別の日。いつもより少し大きい姿のテテは背中に子供を乗せていた。
「ほらズリョこれがあの子供だ。ほらキマフェ、こいつがズリョだ。上に連れて行ってあげるから自由に遊びな。」
きゃははと笑う子供にズリョは少しだけサワサワと葉を鳴らした。
次の日もテテは子供をズリョの所まで連れてきた。
「なんだよ。こんだけキマフェは反応を返してくれるのにお前はだんまりか。」
テテは子供を乗せたままカツカツと蹄でズリョの周りをまわりながら小突く。
「本当の植物じゃないんだからもうちょっと動けよってうわああ!?」
テテがズリョの後ろを突いた瞬間、幹が大きく動いてテテを引きずり込む。
「いや待て!動けと入ったがこういう意味じゃない!」
「腹減ッタ……。」
「何で片言!?お前普通に喋れるだろ!お前意外と力強いなってあああ本当に口に入れようとすんなああ!」
「お前ほど普段から魔力使ってないし、ここは栄養豊かで水や日差しにも恵まれているからな。」
「あーそうかなるほど……ってそれお前全然腹減ってねーじゃん!つかそもそも精霊なんて食うなあ!」
結局、テテは前足を一本と尻尾を半分食われた。それは魔法で治したものの、ついでとばかりに呪いで片目を傷付けられて、しばらくの間隻眼のまま過ごす事となった。なお、子供は最初にズリョによって横に置かれており、終始楽しそうに手を叩いて笑っていた。