第二話 アイドルメシャちゃん
メシャは自分の姿を愛していた。
もふもふさらさらな美しい毛並みの体。綺麗な赤い翼としなやかな長い尾。愛嬌のある丸い目と小さな翼の形の耳。
翼が生えた二足歩行の色違いの虎猫みたいな姿のメシャは自らの村で熱狂的に愛されていたし、それは半ば意図的で必然的な事でもあった。
メシャは自分が大好きだ。毎日綺麗に身だしなみを整えて、見る人によってはわざとらしく見えるほどに可愛らしい仕種をする。同族には全く理解されず、嫌われるまではいかないものの一人も友人はいない。そのくせ常に自分の姿に酔うメシャはそれを一切気に留めていなかった。
人間達だっていくら形が可愛くとも自分達と同じぐらいの大きさの、それも恐ろしいほど強大な力を持つ精霊に気安く関わったりはしなかった。
けれど、長く生きていればたまに変わり者に遭遇する事もある。こんなに可愛い精霊だったら殺されてもいい。そんな風に近づいてきた人間を集めてメシャは小さな村を作った。不躾にもメシャに触れて毛並みを乱そうとした者には、その手が触れる前にきつい――人には洒落にならない――ビンタをくれてやった。しかし、中にはそれでも表情も態度も変えず、うっとりとメシャに見惚れる奴もいる。そんなに気に入ってくれるのならと、メシャはそう言った者達を自らが住む屋敷に案内すると、屋敷に戻って寝る前の僅かな時間だけ彼らに触れる事を許した。妄信的にメシャを愛する彼ら。穏やかにメシャの体を撫でる手は心が安らぐものだった。
時が経って、それなりに賑やかな町と言えるほどに大きくなった村。彼等はいつからこの町に住んでいるかなどもはや覚えてはいない。すぐ隣の人間にも興味を向けない彼らの村には一人も赤子はいなかったが、新たな住人が時折気紛れに外に出たメシャに連れられてくる。そして、メシャに付き従う人間はとうに片手にはおさまらなくなっていた。
メシャは自分の姿が大好きである。そして、同じように自分の姿を愛してくれる者達の事も愛していた。