第十一話 魔物と子供と精霊と
この世界にファンタジーによくあるような魔物という生き物は存在しない。この世界で魔物と言えば、精霊がたまに何かしらの目的で魔法で作った生物もどき。単純な構造で必要とした機能以外は一切持たず、特に作るのも管理も面倒なだけの生殖機能は大抵持っていない。人からしてみれば少々上等な、精霊からしてみればただの人形か玩具の類である。
「ググガガガ……。」
「ううあああー……。」
言葉も話せない幼児と向き合うのは、全身が蔓で出来た狼型の魔物。先程から幼児が魔物の動きを真似したり、逆に魔物が幼児の動きを真似したりを繰り返している。
そして、それをじっと見つめているのは、魔物と同じく蔓で出来た体に骨の尻尾とトンボの翅を持つ精霊ビャベ。何とも退屈そうな構図であるが、三者ともに既に同じ事を何日も繰り返している。
「うーあー。」
「グーガー。」
揃って両手を上げる子供と魔物。今日も同じ事が繰り返されるのかと思えば、魔物の上に何かがべしゃりと降ってきた。
「ぷぷぷぷ。」
ボールみたいな蔓の塊に一対の長い翅。狼もどきの上で笑うように鳴くと、それはフラフラとおぼつかない動きで飛び回る。
「ガアアッ!」
「きゃああっ!」
怒って塊を追いかけまわす狼もどきとそれを真似する子供。そして、数日前に山で拾ったその子をどこか微笑ましく、愛おしく思うビャベ。
今日もここでは何も起こらなかった。