八話
翌日、ここ二日と同じようにギルドに向かう。ギルドの中に入ると依頼ボードの前にかなりの人集りができている。
冒険者の声を聞いているとどうやら緊急依頼が出されたらしい。少し待つと人が少なくなってきたのでその依頼の内容を確認する。
緊急依頼
この街から一日程の場所にゴブリンの村が発見されたのでその殲滅。
ゴブリンの数だが最低でも500匹以上は確実。報酬は白金貨二枚。貢献度によっては追加報酬を出す。
尚、数は不明だがゴブリンの村にオークがいるとの情報があるため参加できる者はDランク以上に限る。
参加する者は1時間以内に受付で依頼の登録をしてからギルド二階の会議室に集合。
報酬が高い上にかなりの数がいるようなので受けたいとは思うがDランク以上の指定があるから受けられない。残念だが諦めてFランクの依頼を見ようとした直後ジュードから声がかかった。
「おっ来たな。ハルト、緊急依頼は見たか?」
「ああ、確認したが俺は参加できないだろう?」
「それなんだが……色々事情があってお前は強制参加だ。登録したら会議室にいてくれ」
「……わかった」
事情ってなんだよと思いながらもジュードに頷く。周りにいた奴等がなにか言っているが無視して依頼の登録をするため受付のレジーナへ向かった。
「緊急依頼の登録を頼む」
レジーナも強制参加のことは聞かされていたのだろう。特に驚く事もなく登録の処理をしていく。
「依頼の受付完了しました。依頼の詳しい説明がありますので二階の会議室でお待ち下さい」
レジーナの言葉に頷き、ギルドの二階へと向かう。
ギルド二階の会議室で待機していると他の冒険者が入ってきた。強制参加だった関係で一番最初に会議室に入ったため暇つぶしに他の冒険者を観察していたのだが殆どはパーティーを組んでいる様で3~5人程が集まっている。
この様子だとソロは俺だけかなと思っていたが見覚えのある白髪の冒険者が一人で会議室に入ってきた。見覚えのある白髪なんて一人しかいない。昨日、エリクの工房で見かけたスティーリアと言う名前の冒険者だ。最年少でBランクになったらしいがこの様子だとソロの冒険者らしいな。
その後も何人か入ってきたようで最終的に五十人程になり最後にジュードが会議室に入ってきて口を開く。
「よく集まってくれた。今回の依頼を仕切らせてもらうジュードだ。依頼書を見ているだろうが今朝、この街から一日程の場所に最低でも500匹はいると思われるゴブリンの村が見つかった。よってこれの殲滅が今回の依頼になる。報酬は白金貨二枚。貢献度によっては追加報酬がある。ここまでで何かあるか?」
その問いかけに一人の冒険者が口を開く。
「オークが確認されているらしいがそれはどうなってる?」
「確認された限りでは五十匹程。ただし、ゴブリンもそうだがあくまでも確認された限りでこの数だ。当然これよりも多くなるだろう。また、この数だということはゴブリン、オーク共に上位種がいるだろうことを想定しておけ。予定だが出発は今日の昼過ぎ。道中一泊してゴブリンの村近くに明日の昼過ぎに到着。その後、夜まで待って夜襲を行う。集合場所は北門前。物資や移動用の馬車はギルドで用意するが独自に用意できるならそっちを使ってくれ。質問はあるか?」
いくつか質問が出るが各パーティーごとの質問で全体に関係するものは特になかった。
「他に質問は……無いな。最後に作戦を立てるためそれぞれのパーティーが持っているスキルを俺に教えてくれ。当然隠したいものは教えなくて構わない。それが終わったら帰って各自準備に取り掛かってくれ。右側のパーティーから順番だ」
その言葉で右端にいた五人の冒険者が前に進みジュードに持っているスキルを説明している。他のパーティーも観察していたがやはり複数人のパーティーでソロなのは俺とスティーリアだけのようだ。
「次はハルト、お前だ」
説明する必要はない気もするが呼ばれたのでジュードの下へ向かう。因みに俺は左側に座っていたので呼ばれた時には殆どの者が既に部屋から出ている。
「お前は魔法剣士だったな。近接戦闘は知ってるからいいんだが魔法は何を使うんだ?」
「基本的に何でも使える。具体的に言うなら全属性の魔法を上級までは使えるな」
魔術の才能のお陰か、相性の悪い属性はなかったので森の中に居た二ヶ月で一通り習得してある。さらに、上級の上に超級というのも存在してそれも使うことは出来る、と言うよりも規模や効果を考えると自作魔法は殆ど超級に入ってしまうのだが人で超級を扱える者はいないらしいので黙っておく。
「……わかった。期待させてもらうがいいんだな?」
「ああ、問題ない」
「なら、行っていいぞ。時間に遅れるなよ」
ジュードの言葉に頷き、会議室を出て行く。そのまま北の流星亭に戻り、運良く入口にいたベルタに声を掛ける。
「丁度良かった。今日の昼過ぎから依頼で数日留守にするんだが」
「はい、わかりました。ただ、貰っている宿代は返金出来ませんしその日数が過ぎたら部屋にある荷物はこちらで預かることになります。その後二ヶ月経っても戻られない場合処分することになりますがよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「では、昼食を用意しておきますので昼前に食堂の方へ顔を出してください。昼食代は貰っている代金から引いておきます」
そう言って食堂へ入っていくベルタを見送り、部屋に戻るが基本的に荷物はアイテムボックスの中に入れてあるので片付ける物はない。
昼まで時間を潰して食堂に行き昼食を食べているとベルタがバスケットを持ってきた。
「これ、夕食にでも食べてください」
中を確認するとサンドイッチが結構な量入っている。
「いいのか?」
「10日分の代金を貰ってるのに数日も留守にするって言うんですからこのぐらいはサービスさせてもらいます」
「そうか、ありがたく貰っておくよ」
ベルタに礼を言って街の北門へ向かう。門を抜けると少し離れた所で既にかなりの冒険者が集まっている。
その近くで注目されながらも少し待っていると門から11台の馬車が出て来た。先頭の馬車に乗っていたジュードが集まっている冒険者達に声を掛ける。
「緊急依頼を受けている者は1、2パーティーごとに集まって馬車に乗れ!後、ハルトとスティーリアは一人だから俺と同じ真中の馬車だ」
馬車が止まったことで冒険者達は馬車に乗り込んでいく。俺もジュードの下へ向かいその馬車に乗り込む。
「よし、出発だ!」
その声で11台の馬車は進みだし、街を離れていく。
「ハルトでいいのかな、さっき呼ばれていたが私はスティーリアよ。よろしく」
少し進んだ辺りで向かいに座っていたスティーリアがそう声を掛けてきた。
「ああ、それで問題ない」
その後、ジュードにやたら促されて幾つかお互いのことを教えあったのだが髪の毛の色から予想出来ていたがスティーリアは氷魔法に特化した魔法使いらしい。
何故髪の毛の色から予想できるのかというとこの世界では特定の属性に適正がある場合その属性の色が髪の毛に表れるようになっている。と言っても適正がないとその属性が扱えない様なものではなくその属性を扱う際に補正がかかるようになるだけだが。
そんな話をしながら馬車はゴブリンの村へと進んでいく。
そして時刻は夜、夕食も終わり各パーティーごとにテントを張って休んでいる。本来ならジュードと同じテントで寝るはずだったのだが俺は自前のテントを持ってきていたのでそのテントで休んでいた。
焚き火を囲んで何人かの冒険者が周囲を警戒していた。一応、結界を張れば警戒しなくても済むので提案して結界を発動しているが信用されていないようだ。色々噂が出回っているとはいっても冒険者になって数日、実績が無いので仕方ない。
結局、なにか起こることもなく夜は過ぎていく。
翌日、各パーティーがテントを片付け終わり、朝食も済ませて出発準備が整うとジュードが前に出てきて口を開く。
「準備出来たな?このまま進めば昼過ぎにゴブリンの村近くへ辿り着ける筈だ。その後は夜まで休憩しつつ体を慣らしといてくれ。夜中になったら奇襲を仕掛ける。作戦の内容は向こうに到着してから伝える。それじゃあ昨日と同じように馬車に乗れ。出発するぞ」
その言葉で冒険者達は馬車に乗り込んでいく。俺もジュードとスティーリアに続き馬車に乗り込むと移動が始まった。