七話
ゴブリンの集落を壊滅させた翌日、ゴブリンの残党調査の依頼を受けたため昨日の森の近くまで来ていた。ただ、残党調査と言っても普通のゴブリン討伐依頼と大して違いはない。調査なのでゴブリンを討伐してなくても少し報酬が出るぐらいだ。
「この森に魔物の集団は居ないだろうし他の冒険者もこの依頼を受けてるらしいから別の場所の依頼を受けたかったが……」
普通は討伐対象の取り合いにならないよう同じ場所で同じ魔物の討伐依頼は受けられないようになってるのだがこういった常時依頼ではない依頼の場合複数のパーティーが同時に受注できるようになることが多い。
「集落を壊滅させたのは俺だしな、さっさと終わらせて他の魔物を探すか」
まずはゴブリンが戻ってきていないか確認するため集落跡に向かう。トリニティブレスレッドのお陰で昨日よりもだいぶ早く着いたがパッと見た限りでは死体を焼却した焦げ跡が残っているだけだった。
「やっぱりそう簡単には見つからないな……ん?」
他に何かないのかと周囲を見渡していると集落跡の端にまだ新しい血の跡が残っている。
「他の冒険者が戦ったのか?だとすると探してもいない可能性が高いが歩いてたらその内何か見つかるだろ」
かなりやる気がなくなってきているがやらない訳にもいかないので集落跡を出てまた森の中に入っていく。
そして三十分程周辺の気配を探りながら歩いていると少し離れた所に少し大きめな魔物の気配を感じた。
「この辺りにそんな大型の魔物はいなかったと思うが……」
気配の動きからしてその気配に近づき観察する。豚に似た顔の大柄な人型魔物オークのようだ。これもゴブリンと同じくファンタジー定番の魔物で戦闘技術は高くないが体格通り力がかなり強く単体でDランクになってる。
「オークが一匹、群れからはぐれたか?」
オークは基本的に群れて活動する魔物なので数匹から十数匹の群れを作って生活している。だが、稀に群れからはぐれ、一匹で出現することがある。
「この辺りには殆ど出て来ないはずだが……取り敢えず片付けるか」
そのオークに向かって駆け、横合いから飛び出しオークの頭を砕かないように強打して気絶させる。その後即座に首を斬り付け血抜きをする。
オークの肉は顔の通り豚肉のような肉なのでギルドが結構高く買い取ってくれる。ただ、血抜きをしておかないと買取額が安くなるので余裕が有る時は血抜きを行ったほうがいいらしい。
血抜きが終わったら縄で足を縛って木に吊り上げ、解体を行う。解体も血抜きと同じでしてなくても買い取ってはくれるがやっぱり安く買い取られるので量が多過ぎる時以外やったほうがいい。
解体が終わったものをアイテムボックスの中に入れてその場を去る。血の匂いに釣られてなにか出て来ないかと期待していたが特に何も出て来なかった。
その後、昼まで森の中で粘っていたがゴブリンも出て来なかったので街に戻ってきた。
ギルドに入り、依頼の報告しようと受付で受付嬢へギルドカードを渡しているとジュードが話しかけてきた。
「よう!ハルト、依頼は終わったのか?」
「いや、あの周辺にゴブリンは殆どいないようだ。昼まで粘ってたが全く出会わなかった。それと、一匹だったがオークと遭遇した。討伐したから素材の買い取りを頼みたい」
そう言って解体したオークの素材を取り出す。
「はい、少しお待ちください」
そう言って受付嬢がその場で査定していく。もっと素材の量が多いなら奥でやるんだろうが今回は少ないからな。
「それにしてもオークか……あの森に出てくるのは珍しいな。一匹だけだったんだよな?」
「ああ、恐らく群れからはぐれた個体だろう。……そう言えば聞きたかったんだが俺が来た時受付の人がいつも一緒なのはなぜだ?」
そう登録した時から俺がギルドに来た時の対応をしている受付嬢は同じ人だ。普通は受注や報告で担当が分かれているだろうし常に同じ人にはならないはずだ。まあ、理由は大体予想できるが。
「それか……俺とレジーナはギルドマスターからお前を注意して見ておくよう言われてんだよ」
「ちょっ、ジュードさん!?何言ってるんですか!」
素材の査定は終わったようでレジーナと呼ばれた受付嬢が強く反応するがジュードは無視してこちらに話しかけてくる。
「わざわざ聞いてきたってことは予想できてたんだろ?」
「まあな、登録したばかりの奴が試験官を一撃で倒したり、ゴブリンとはいえ集落を一人で壊滅させたりしてたら監視されて当たり前だろうな」
むしろそれで何の反応も示さなかったらそういう奴が割といる事になる。
「ほら、隠しても仕方ないだろ。それに本人に言うなとは言われてないぜ」
「そうですけど……取り敢えずハルトさん、査定が終わりました。ゴブリンの残党調査の報酬と素材の買い取り合わせて銀貨三枚になります」
ジュードに何か言おうとしたようだが諦めた様子のレジーナから銀貨三枚を受け取る。
その後は二人に軽く挨拶をしてギルドを出た。
「さて、この後どうするかな」
今は昼を過ぎて二時間程経っている。これから依頼に行くと内容によっては帰ってくるのが夜になってしまう。
「そう言えば、エルクにゴブリンの所で回収した武器が買い取れないか聞くの忘れてたな」
という訳でエリクの工房に向かい、扉を開けて声を掛ける。
「エリク、いるか?」
「ハルトか、他に客が来てるから中で少し待ってろ」
工房の中に入り、カウンターの方を見ると美少女がこちらを見ていた。身長は160より少し下だろうか、透き通る氷のような白色の髪を腰まで伸ばしていて、水色の瞳をしている。ローブを着ているので魔法使いだろう。
「ほれ、できたぜ」
アニメキャラみたいだなと思って見つめてしまっていたがエリクの声で相手が視線をそらした。
「ああ、ありがとう」
その美少女は杖を受け取り工房から出て行く。それを見送り、エリクに話しかける。
「エリク、今のは?」
「何だ知らねえのか?スティーリアって名前でこの街じゃ最年少でBランクになったってことで結構有名な冒険者なんだが」
「最近この街に来たばかりだからなそういった事は殆ど知らないんだよ」
それにしても最年少でBランクか、俺と同じぐらいの年齢に見えたということは十代後半か?。
「それで、ハルトは何の用だ?」
「武器を拾ったんだが使い道がなくてな、買い取ってくれないか?」
ゴブリンの所で回収した武器を取り出して、エリクに見せる。
「買い取ってもいいが、安物だから大して金にならねえぜ」
「ああ、それで構わない」
普通なら予備に持っておくとかするんだろうが俺は必要ない。その為、持っていてもアイテムボックスを圧迫するだけなので悩みもせず即答する。
「少し待ってくれ……これだったら銀貨九枚だな」
すぐに査定は終わったようで銀貨九枚を受け取り、エリクに礼を言って工房を出る。
その後は特にやることもなかったので宿の部屋に戻ってきていた。
「最近は時間が取れなかったから久し振りだな」
宿に戻ってきたのはこの世界に来てからの趣味である魔法開発を進めるためだ。
神に貰った知識には魔法開発に関するものもあったので森の中に居た時もいくつか自作している。と言っても、アニメやゲーム等で見た魔法を参考にしているので開発というより再現といった方が正しい。
「依頼の中で使う機会がなかったし範囲は狭くていいから使い勝手がいいのを作らないとダメか」
自作した魔法はゲームなら終盤にならないと使えないような大規模魔法ばっかりなのでこの二ヶ月間、試し撃ち以外で一回も使ってない。
「でも、アースランスかウィンドアローで十分なんだよな」
下級地属性魔法であるアースランスは地面から石の槍を射出する魔法、風属性下級魔法のウィンドアローは空気を圧縮して矢のように撃ち出す魔法だ。両方とも限界はあるが消費魔力を増やせば出す数と速度を調節できるため非常に使い勝手がいい。その為、今のところこの二つでどうにかなってる。
「まあ、ランクが上がれば下級魔法じゃ倒せない魔物と戦うことになるだろうから気にせず作っていくか」
結局、その結論に落ち着いたので久し振りに新しい魔法を作り、その日は過ぎていく。